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2017年2月12日 / 旅の紹介 第37回 東京を巡る、宋代の青磁旅

青く澄んだやきもの、青磁。
その最高峰は12世紀初頭の中国・北宋末期の20数年間だけ作られた汝窯(じょよう)のものとされます。
やきものの黄金時代と言われる宋代の青磁を見ることができる東京都内数カ所を訪ねました。

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東京国立博物館東洋館。宋代の青磁名品。輝き、色もさまざま(展示は2月26日まで)。

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番組では、青磁の中でも至宝とされる汝窯の神秘的な青色の秘密に迫りました。

北宋末期の皇帝の御用品を焼くための官窯(かんよう)である汝窯のやきものは、世界で90点あまりしかその存在が知られていない珠玉の逸品ですが、3点は日本にあり、そのうちの1点を今東京で見ることができます。

他にも、宋代には南北でさまざまな個性的な青磁がつくられました。青磁の黄金時代が生み出した美の結晶に出会うために、まずは上野の東京国立博物館東洋館に向かいました。

上野・東京国立博物館東洋館

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東京国立博物館東洋館。撮影した日は雪が降っていた。

東京国立博物館の5つの展示館の中で、東洋館は中国、朝鮮半島、東南アジアなどの美術・工芸作品、考古資料を展示しています。現在、東洋館5室では、特集「上海博物館との競演―中国陶磁―」と題して、上海博物館が所蔵する収蔵作品とともに展示しています。

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越窯(えつよう)跡から採集された陶片(東京国立博物館所蔵)。

青銅製の大きな祭具が立ち並ぶ展示室を進むと、中国陶磁が歴史的な流れに沿って展示されているコーナーにたどり着きます。

青磁がやきものの歴史の中心に登場するのは、宋から約200年さかのぼる唐の時代です。唐の青磁を代表する、中国東部の浙江省の越窯(えつよう)の作品の数々を見ることができました。

唐より前の時代には、青磁自体の貴重性がまだまだ高く、作られるのは王侯貴族が持つ祭器がほとんどでしたが、唐以降実用品として生産されるようになりました。丸く張ったシルエットが魅力的ですが、色は青というより草色に近く、緑がかっています。

唐末期、この越窯から青く澄んだ青磁が誕生したと言われています。その釉薬の色は「秘色」と呼ばれ、王族以外の使用を禁じる特別なものとして珍重されたそうです。

一方、大量生産の輸出品でもあった越窯の青磁は、西はエジプト、東は日本にまで輸出されました。平安時代に書かれた『源氏物語』にも、越窯の器で日常的に食事をする姫君の様子が描写されています。

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日本には3点のみ存在する汝窯のやきもののうち東京国立博物館所蔵の1点。青磁盤(せいじばん)。展示は2月26日まで。

唐の時代のおおらかな青磁から宋代のコーナーへと進むと、その端正なかたちと澄んだ青色の美しさに目がくぎづけになります。この時代に起こった革新の大きさに衝撃を受けずにはいられません。

なかでも、名高い汝窯の青磁盤は、直径約17センチと手の中に収まりそうなコンパクトさでありながら、「天青色」(てんせいしょく)と呼ばれる独特の神秘的な青色と、穏やかに輝く貫入(かんにゅう、釉薬と地の間に発生する細かいひび)がまさに眼福です。

「天青色」とは、「雨過天青」(うかてんせい)――つまり、雨上がりの雲間にのぞく青空のこと。

ガラス化した釉薬の層が素地まで光を透過させる、青磁だからこそ表現できる美と言えます。

1950年代から60年代にかけて川端康成が所蔵していたこの青磁盤は、昨年より東京国立博物館に収蔵されることになりました。

なお、撮影禁止のため写真は掲載できませんが、今回の展示では、この作品の隣に、上海博物館所蔵の汝窯の青磁盤が展示されています(2月26日まで)。同じ窯から誕生した兄弟のような、大きさも、かたちもそっくりな2点を一緒に眺めることができる絶好の機会といえます。

上海博物館所蔵の青磁盤は実際に器として使用された歴史があるようで、やや黒ずんだ貫入には少し荒々しい存在感があり、異なった個性を感じました。

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左/南宋の青磁盤。中/南宋官窯の米色青磁下蕪瓶(べいしょくせいじしもかぶらへい、左作品とも公益財団法人常盤山文庫所蔵)。 右/南宋官窯の輪花鉢(東京国立博物館所蔵)。

「天青色」が青磁の理想の色彩とされる一方、青磁には米色青磁(べいしょくせいじ)と呼ばれる赤茶系の色合いのやきものも含まれます。

ごく単純に説明すると、青磁の青は鉄分を含んだ土と釉薬が高温で焼成されて一体化することで生まれます。顔料で出す安定した青色とは異なり、同じような材料を使用しても焼成の状態で鉄分の色が変化して、赤茶色や黄色を帯びる現象が起こります。

青磁の青は、まさに土と釉薬と火が一体となって生み出した色彩なのです。

また、貫入の表情も様々です。汝窯の青磁盤の貫入は極めて穏やかな表情をしています。しかし、南宋官窯の輪花鉢のように、大きな貫入と細かな貫入が全体に走り、壮大なスケールを感じさせるものもあります。

伝統的に中国ではドラマチックな貫入が走るものが好まれ、日本では穏やかな肌のものが好まれてきたといわれます。

「京橋美術骨董通り」の古美術店

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中国美術を専門に扱う古美術店、繭山龍泉堂(まゆやまりゅうせんどう)。

人類の至宝ともいうべき青磁の名品に圧倒されたその足で、東京メトロ銀座線・京橋駅から日本橋駅の間の、戦前から古美術店が多く並ぶ東仲通り(通称「京橋美術骨董通り」)界わいを訪ねてみました。

中国美術を専門に扱う繭山龍泉堂は、1905年創業。

東京国立博物館で見た川端康成旧蔵の汝窯を、日本で初めて「発見」したお店です。

1954年、東京美術倶楽部での交換会(業者間の競り市)で、ある茶道具商の荷物に混じりほこりをかぶった小盤のえもいわれぬ青色が当時社長であった繭山順吉の目に止まります。イギリス人コレクター・デイヴィッド卿の資料などから、「汝窯の感覚」を知っていた順吉は、他から見向きもされなかったそのやきものを求め、店に持ち帰ります。小盤はまさに、天青色をした幻の汝窯だったのです。

それからほどなく店を訪れた川端康成は、青磁盤に見入ったようにしばらく無言で眺め、すぐに購入を決めて持ち帰ったそうです。本来紫禁城で守られてきたはずの汝窯に思いがけず出会った驚きについて、のちに川端は以下のように記しています。

「中国の古文献にも暁天の星のように少ないといわれるこの手の青磁がどうして日本に渡り、どうして埋もれていたか、わからないことである」

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繭山龍泉堂の玄関に展示された中国古陶磁。青磁の香炉は南宋のもの。

川端が足を運んだ店の玄関は、当時からほとんど変わっていないそうです。

この日も、穏やかな色合いの南宋の青磁香炉が飾られていました。

皇帝に献上するために技巧の粋を尽くし、厳しい基準で選ばれた汝窯のような官窯は、もともとの数が非常に限られますが、それ以外の宋代の青磁は、輸出品でもあったので比較的数が多く、こうしてまだ出会うことができます。

ガラスケースなしでその端整な美しさを眺めるのは、博物館などで見るのとはまた別な楽しみがあります。

丸の内・出光美術館 陶片室

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出光美術館にある陶片室。中国各地の窯や日本の古窯から採取した陶片を収蔵する。

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陶片室では、北京の故宮博物院との交換陶磁片の展示も。左から/耀州窯(ようしゅうよう)、宝豊窯(ほうほうよう)、臨汝窯(りんじょよう)の陶片。

謎めいていた汝窯の存在は、1970年代末から続けられた中国河南省の清凉寺発掘調査の結果、少しずつ明らかになり始めました。2000年には同地で窯跡が発見され、汝窯研究は加速度的な発展を遂げました。

宋代の陶磁器の研究に大きな足跡を残した陶磁学者・小山冨士夫が収集した陶片などを間近で鑑賞することができる陶片室が、丸の内・出光美術館に併設されています。

白磁で名高い北宋の定窯(ていよう)を発見した小山冨士夫は、中国各地の古い窯跡を調査し、青磁の研究でも大きな足跡を残しました。膨大な陶片には、五代から北宋に全盛期をむかえた耀州窯(ようしゅうよう)の青磁の陶片なども含まれます。

ひとつひとつの引き出しに整然と納められた陶片の種類には圧倒されます。陶片一点一点を系統立てて分類する20世紀に行われた地道な調査は、宋代の陶磁史の礎を築いたのです。

五島美術館

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左/五島美術館「中国の陶芸展」(2016年の展示) 右/南宋 「砧青磁」(きぬたせいじ)の「青磁鳳凰耳花生」(せいじほうおうみみはないけ) 写真提供=五島美術館

さて、まだまだ宋代の青磁の名品が見たりない!という方に、これから堪能できるスポットをご紹介します。世田谷の五島美術館で毎年春先に、所蔵の中国陶芸の名品約60点を展示する「中国の陶芸展」です。

南宋の龍泉窯(りゅうせんよう)は、その粉青色と呼ばれる貫入がない肌合いが、日本では「砧青磁」(きぬたせいじ)と名付けられ、鎌倉時代から青磁の中でもとりわけ珍重されてきました。

桃山時代には、「唐物」(からもの)として茶人たち垂涎の茶道具に挙げられるようになります。

その、玉のような肌合いの「砧青磁」が3点、戦国時代から明までの名品とともに展示されます。

 

東京のいろいろな場所で出会った宋代の青磁は、一点一点異なる青色をたたえ、豊かな個性を持っていました。

悠久の歴史を過ごしてきた青磁たちと対話をしながら、ぜひ町を歩いてみてください。

住所/交通情報

東京国立博物館
東京都台東区上野公園13-9JR上野駅公園口徒歩10分

京橋美術骨董通りの古美術店:繭山龍泉堂
東京都中央区京橋2-5-9
東京メトロ銀座線京橋駅徒歩5分

出光美術館 陶片室
東京都千代田区丸の内3-1-1帝劇ビル9階
JR有楽町駅徒歩5分、東京メトロ有楽町線有楽町駅・都営三田線日比谷駅徒歩3分
*陶片室の見学は企画展のチケットが必要です。

五島美術館
東京都世田谷区上野毛3-9-25
東急大井町線上野毛駅下車徒歩5分

展覧会情報

東京国立博物館東洋館では特集「上海博物館との競演-中国陶磁―」が開催中です。(〜2月26日)

五島美術館では「中国の陶芸」が開催されます。(2月18日〜3月26日)