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2016年11月27日 / 旅の紹介 第30回 秋の比叡山延暦寺・三千院へ 傅益瑤を感じる旅

放送では「祭りの水墨画」を中心に傅益瑤(ふ えきよう)さんの作品を紹介しましたが、常設されていて見られる傅さんの水墨画としては、お寺に奉納された仏教画があります。
今回の日美旅は、秋の比叡山延暦寺、そして大原三千院に向かいます。

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比叡山延暦寺にある傅益瑶さんの水墨画「仏教東漸図」より。延暦寺が描かれている部分。

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傅益瑤さんは中国・江蘇省南京市の出身。南京師範大学を卒業後、1979年に日本に留学し、武蔵野美術大学大学院で塩出英雄、東京藝術大学大学院では平山郁夫に師事します。

日本に暮らすことすでに37年。水墨画の伝統的な技法を継承しつつ、現代人の心を揺さぶるエネルギッシュな表現を続けています。

比叡山への道

今回は公共交通で比叡山延暦寺に向かいます。
滋賀側から上がるルートと京都側から上がるルートがあり、前者の場合はJR比叡山坂本駅もしくは京阪電車の坂本駅からケーブルカーに乗り換えて延暦寺駅へたどり着きます。後者は出町柳駅から叡山鉄道で終点の八瀬駅まで行き、こちらはケーブルカー、そしてロープウェーを乗り継いで延暦寺駅に到着。

ロープウェーからの紅葉を楽しみたいという気持ちもあり、八瀬駅から上りました。
なお車の方は、比叡山ドライブウェイと奥比叡ドライブウェイのどちらかを使って延暦寺へ入ることになりますが、延暦寺と大原三千院を行き来するなら奥比叡ドライブウェイが便利です。

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ケーブルカー車両のレトロな味わい。

八瀬駅からのケーブルカーに乗り込みましたが、高低差日本一というだけあってかなりの急勾配。比叡山の標高は848m。道路や交通機関が整備される以前、参拝がいかに大変なものであったか、その苦労が想像されます。

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線路に沿って一面の紅葉が! この時期は訪れるには最高のシーズン。

ケーブルカーを降り、ロープウェー、さらに比叡山内シャトルバスへと乗り継いで、ようやく延暦寺「東塔(とうどう)」に到ります。

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ロープウェーの窓から下を見ると……。足元も紅葉が埋め尽くす。

比叡山延暦寺 東塔

延暦寺の境内は500ヘクタールもあり、その中に150ほども堂塔があります。

東塔(とうどう)、西塔(さいとう)、横川(よかわ)の3つのエリアに分かれており、東塔はその玄関口にあたります。
傅さんの障壁画があるのもここ東塔です。

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延暦寺 東塔 根本中堂。

傅さんの作品があるのは「国宝殿」の中ですが、まず、延暦寺の総本堂「根本中堂」に参拝。

比叡山延暦寺の歴史は、788年(延暦7)、最澄が現在の根本中堂にあたる「一乗止観院(いちじょうしかんいん)」を創建したことに始まります。
現在の建造物は1642年、徳川家光の命によりしゅん工されたもので、建物は国宝に、回廊は重要文化財に指定されています。

足を踏み入れると、根本中堂の中はほとんど自然光が入らず、また照明も弱いので、目が慣れてきてようやく中の様子が少しずつわかってきます。
ご本尊の薬師如来が、開山後1200年以上一度も消えることなくともされていると言われる「不滅の法灯」と共に、闇の中に浮かび上がります。

根本中堂は参拝者が入ることのできる空間である「外陣」よりもご本尊が置かれている「内陣」が3メートルも低く設計されており、参拝者からは台座までは見えないため、仏様が闇の中に浮かんでいるような錯覚をもたらすのです。

こうした造りになっている延暦寺の諸堂は中堂造または天台造と呼ばれています。これは天台宗の建物特有の構造です。

祈とうの際僧侶が座るのは内陣なので、その姿も参拝者からは見えません。中に入ったときにはちょうど読経が行われていたのですが、オペラのオーケストラピットのように下から音だけが響いてきて、仏様に正対しながら何とも言えない心地になりました。

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延暦寺 東塔 文殊楼。

東塔には有名な山門「文殊楼」もあります。実はこの文殊楼が東塔の正門で、麓の坂本から参道を徒歩で登ってくるとここにたどり着くのですが、待ち受けているのは怖くなるほどの急な階段。交通機関がなかった頃の参拝はそれ自体が修行のような厳しさを持っていたことを象徴するかのようです。

比叡山延暦寺 国宝殿

さて、いよいよ傅さんの障壁画が常設されている国宝殿へ。ここには天台宗開祖・最澄の真筆の「天台法華宗年分縁起」(国宝)をはじめ、貴重な文化財が収蔵されています。

「千手観音立像」、「多聞天立像」、「広目天立像」など、いずれも重要文化財です。

3階の展示室に進むと、その壁一面を覆う傅さんの水墨画「仏教東漸図」が目に飛び込んできます。

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「仏教東漸図」全景。写真に収まりきらない大きさ。

とにかくそのスケールに圧倒されます。全長なんと12メートル。

東漸(とうぜん)とは東へと伝来すること。まずインドの菩提樹のもとで釈迦が弟子に説法をする場面に始まり、中国への伝来、中国天台宗の発展、最澄による日本への伝来、そして、現在の参拝の様子まで、さまざまな場面が描かれています。
時を超えて場面と場面は溶けあい、作品全体でひとつの仏教世界が描かれています。

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左が根本中堂、右の建物が文殊楼と思われる。

もちろん、比叡山も大きく描かれていています。絵の中の根本中堂や文殊楼と、今しがたの実体験とを重ね合わせて、この仏教宇宙のなかに自分も潜り込むような気分になります。

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現代の参拝客の様子。服装など細かく描かれているので、つい見入ってしまう。

面白いのは歴史上の人物と共に、現代の参拝者たちの姿も描かれていることです。そして人物がとても生き生きしています。伝説の高僧も、現代の一般人たちも、ひとりひとりの性格までが伝わってくるような、そんな描き方。

細かく見始めると楽しくなって、つい時間のたつのを忘れてしまいました。

また水墨画なのでベースは墨ですが、僧衣や植物の花などに鮮やかな色が散りばめられているところや、どことなく漫画っぽさも感じるような人の表情など、かわいらしさ・愛らしさも感じてしまう絵で、近づきがたいというよりもむしろ肩の力を抜いてカジュアルに楽しめます。

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文殊菩薩の化身の羊飼いから花束をもらう円仁の図。

巨大な絵の中に「これは三蔵法師の旅の場面だ」、「鑑真和上の来日だ」など、いろんな場面や僧を発見するのは、「○○を探せ」的な面白みもあります。

比叡山延暦寺 西塔

前述の通り、延暦寺は大変広いのでゆっくり回ると1日でも足りないくらいです。今回は、京都の大原三千院も一緒に行くことにしたため、「西塔」はさらっとしか見られませんでした。

ここは第2世天台座主 円澄によって開かれたエリア。東塔、西塔、横川それぞれに本堂がありますが、西塔の本堂にあたるのが「釈迦堂」です。

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延暦寺 西塔 釈迦堂。

現在の建物は1596年、豊臣秀吉の命によって、天台寺門宗総本山の三井寺から移築されたものです。これは延暦寺に現存する建物の中で最も古く、重要文化財に指定されています。

「根本中堂」と同じく、内陣が一段低い独特の造りとなっています。

比叡山延暦寺 横川

傅さんもたびたび訪れ、お気に入りの場所だという「横川」エリアにやってきました。

西塔からさらにバスで10分ほど北へ進んだ、山深い地域。
古くから殺生が禁じられていたことで豊富な生態系が残っているとされ、歴史的風土特別保存地区ならびに鳥獣保護区に指定されています。

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延暦寺 横川 横川中堂。

横川の本堂にあたる「横川中堂」は、舞台造りという建築様式で、斜面の上に柱に支えられるようにして建っています。同様の様式では清水寺が有名ですね。

ご本尊は「聖観音菩薩像」で、これは第3代天台座主 円仁の作と伝えられています。

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横川の参道。

厳しい修行の寺として、全体的に張り詰めた空気の感じられる延暦寺の中にあって、横川には少し穏やかな趣きがあるように感じました。

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寒い日にはありがたい、温かい甘酒。

なお、延暦寺では、東塔におそばやごま豆腐などが食べられる店があります。そこで温かい甘酒をいただきました。11月半ばの訪問で、なおかつ山上は街中より3~5度は基本が低いだけに体にしみました。これからの季節訪れる方は、暖かくしていらしてください。

京都大原 三千院

余裕を持って回る1日の旅としては、延暦寺だけでも良いかもしれません。

今回は参考まで、そこからさらに京都・大原三千院まで巡るコースをご案内します。
三千院にも傅益瑶さんの大きな襖絵があります。

今回は電車とバスを乗り継ぎましたが、この時期、延暦寺と三千院を回るなら、奥比叡ドライブウェイを車で行くのもすてきです。ドライブウェイ沿いの紅葉がまたきれいなので……。

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京都大原 三千院。こちらも紅葉が美しい。

三千院は、延暦年間の782〜806年に、比叡山に開かれた一院をルーツとする天台宗の門跡(=皇族が住持した、位の高い寺院)です。幾度か寺地・寺名を変え、明治期に現在の形となりました。

986年に建立されたと伝えられる「往生極楽院」には、国宝の阿弥陀三尊像がまつられています。
「往生極楽院」の正面にあるのは、本堂にあたる「宸殿(しんでん)」。傅さんの絵はここで見ることができます。

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ふすま絵全景。4枚のふすま全面が作品のキャンバスとしてフルに用いられている。

ふすま絵に描かれているのは、三千院の風景。静かなたたずまいの中にも、番組で取り上げられた祭りの絵にも通じる、ダイナミックさが感じられます。

境内をひととおり巡回し、実際の三千院を味わった後に、再度ふすま絵を鑑賞してみることをおすすめします。

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「宸殿」の前には、「有清園」という美しい庭園が広がる。

目にも美しく、空気も澄み渡る秋の延暦寺と三千院、ぜひどうぞ!

住所/交通情報

・比叡山延暦寺

■公共交通機関を利用の場合

(延暦寺まで)
三条京阪駅-(京阪・京津線)-浜大津駅-(京阪・石山坂本線)-ケーブル坂本駅-(ケーブルカー)-延暦寺駅-徒歩8分-延暦寺バスセンター

または
京都駅-(JR湖西線)-比叡山坂本駅-(江若バス)-ケーブル坂本駅-延暦寺駅-延暦寺バスセンター

または
出町柳駅-(叡山電鉄)-八瀬駅-(八瀬ケーブル+ロープウェー)-比叡山頂-(シャトルバス)-延暦寺バスセンター

(延暦寺内の移動)
比叡山内シャトルバス
延暦寺バスセンター(東塔エリア)→(約5分)→西塔→(約10分)→横川
※ シャトルバスは、冬季期間の12月5日~3月19日は運休。この期間に延暦寺に来られる方はお車をおすすめします。

■車を利用の場合

比叡山ドライブウェイもしくは奥比叡ドライブウェイを利用して延暦寺へ。寺院内の移動も車で行っていただけます。

<参拝時間>
東塔地区・国宝殿8:30〜16:30/西塔・横川地区9:00〜16:00
※受付は30分前まで ※12月〜2月は短縮
<定休>無休

・三千院

■公共交通機関を利用の場合

JR京都駅より京都バス17系統 約60分→大原バス停下車 徒歩10分

または
京阪電車 出町柳駅より京都バス19系統 約30分→大原バス停下車 徒歩10分

<参拝時間>8:30~17:00(閉門17:30)※12月8日~2月は短縮
<定休>無休

■車を利用の場合(延暦寺から)

延暦寺-(奥比叡ドライブウェイ)-仰木ゲート-(県道315号線)-仰木雄琴IC-(湖西道路を京都方面へ)-真野ICを降りて大原方面へ