日曜美術館サイトにもどる

2016年10月30日 / 旅の紹介 第26回 奈良へ 正倉院と平城京を感じる旅

番組では、奈良国立博物館で始まった第68回正倉院展の模様をお届けしました。ペルシア風の「漆胡瓶」など、今回も貴重な宝物の数々との出会いが楽しみです。「日美旅」では正倉院展と合わせておすすめの奈良の旅、ご紹介します!

shosoin01.jpg
正倉院展が行われている奈良国立博物館・新館の隣りにある「なら仏像館」。今年4月にリニューアルオープンした。

shosoin_map.jpg

奈良国立博物館

今やすっかりおなじみとなった「正倉院展」が始まったのは1946年のこと。戦後の国民を元気づけ、日本文化の素晴らしさを再認識できるようにと奈良帝室博物館(現在の奈良国立博物館)に疎開させていた正倉院宝物の一部を一般公開したのが最初です。

当時から大変な人気を博し、第1回開催時には20日間で約15万人を集めました。そして昨年は、同展の来場者数は17日間で22万人に達しました。近年は外国人の来場者が増加していることもあって、ますます会期中に奈良市内で宿をとるのは難しくなっているようです。中には、その年の正倉院展を見に来た帰りに、翌年の宿の予約を入れていく方もいらっしゃるとか。

shosoin02.jpg
脱活乾漆造の「力士形立像」(重要文化財)。

ただ、言うまでもないことですが奈良国立博物館の素晴らしさは正倉院展に限りません。ここでは、あえて正倉院展以外の奈良国立博物館の魅力にスポットを当ててみます。

奈良国立博物館は仏教美術に力を入れているミュージアムで、その核とも言える施設が「なら仏像館」です。正倉院展が行われている東新館・西新館の隣の建物。ここには奈良国立博物館が収蔵する仏像はもちろん、奈良の社寺に伝わる貴重な仏像が多く寄託されているので、貴重かつ一流の造形美を持つ仏像たちにたくさん出会うことができるのです。

shosoin0304.jpg
左/如意輪観音坐像(平安時代、一木造) 右/愛染明王坐像(鎌倉時代)

しかも今年の4月29日のリニューアルオープンによって、展示空間に新たな工夫が加わりました。まず、大型の仏像が並ぶ大展示室のガラスケースはすべて取り払われ、仏像をじかに見られるようになりました。

また間接照明が中心となったのも大きな変化。必要以上に明る過ぎず、本来の仏像と出会うときの環境に近づいています。

顔立ちから指先まで、仏像の表情の豊かさについ見入ってしまう「なら仏像館」。ここだけで一日過ごせる気すらしてしまいます。といっても、展示のボリュームはそれほど多くはありませんから、ぜひ正倉院展と一緒にどうぞ。なお、「なら仏像館」からそのままつながる「青銅器館」がありますが、こちらのコレクションも他でなかなか見られない貴重な物ばかりです。

shosoin05.jpg
取材に訪れた折は正倉院展の準備の真最中だった。

東大寺 大仏殿

shosoin06.jpg
奈良時代、聖武天皇の強い願いで造立された東大寺の大仏(盧舎那仏像)。そこに込めた思いとはどのようなものだったのか。

言わずと知れた、奈良の大仏さまの鎮座する「東大寺」。現在では大仏さまは黒ずんだ色となっていますが、造立当時は全身に金メッキが施され、さん然と輝いていたそうです。その造立にはのべ260万人、当時の人口の約半分が携わったと伝えられています。

聖武天皇の在位中には、疫病や地震などの天災、また政争や内乱が起こり、大きな社会不安が広がっていました。それだけに多くの人々の絆を結び合う営みとして、大仏造立には大きな役割があったのではないでしょうか。
そうした歴史を知って大仏さまを拝すると、聖武天皇の抱えていた深い苦悩がしのばれて切ない気持ちになります。

shosoin07.jpg
大仏殿前の鏡池では、現代アートの祭典「古都祝奈良(ことほぐなら) ― 時空を超えたアートの祭典」が10月23日まで行われて蔡 國強さんの作品「“船をつくる”プロジェクト」が展示されていた。(※展覧会は終了しましたが、この作品のみ12月中旬まで展示の予定)

正倉院

shosoin08.jpg
正倉院外構(10月30日放送 「日曜美術館」の映像より)

正倉院の「正倉」とは、もともと寺院や官がの倉庫区画のことを指す一般名詞で、奈良時代にはいろんなお寺に正倉があったそうです。しかし現在ではこの東大寺のものだけが残り、結果、「正倉院」という固有名詞として知られるようになりました。

一般の人が中に入ることはできませんが、外構だけなら見学が可能です。通常は平日10〜15時、正倉院展の期間中は毎日公開されています。

また、正倉院展の会場である奈良国立博物館・新館は、モダニズム建築の巨匠・吉村順三の手になるものです。正倉院の校倉を思わせるデザインなので、見比べるのも楽しいかもしれません。

奈良公園

shosoin09.jpg
奈良公園と言えば鹿。見ているだけで癒やされる。

奈良国立博物館、東大寺、正倉院。これらがある一帯は気持ちの良い奈良公園です。正倉院の周辺ではみごとな紅葉が楽しめるので、これからはひときわ良いシーズンでしょう。また奈良公園ではイベントもよく行われています。ちょうど10月29日から11月6日にかけては、地元・奈良の食材を使った料理が並ぶフードフェスタも開催されています。

平城宮跡

shosoin10.jpg
平城宮跡。とにかく広い!

さて、ここまではJRや近鉄の奈良駅から徒歩圏内でしたが、近鉄奈良駅まで戻り、各駅停車に乗って2駅。大和西大寺駅で下車して10分ほど歩きます。するとそこには巨大な「平城宮跡」が!平城宮とは、平城京の大内裏のことです。

何と、考古学的な検証に基づいて奈良時代の第一次大極殿(天皇が国家的な儀式などを行った場所)が復元されています。桁外れな広さの敷地の中にたたずむ第一次大極殿の光景を最初に見た瞬間は、少なからず驚くのではないでしょうか。

shosoin11.jpg
朱雀門も復元。そのすぐ手前の平城宮跡地内を、何と電車が走っている!?

平城宮の正門であった「朱雀門」も復元されています。その門の目の前に近鉄奈良線の線路があり、敷地内を電車が走っています。そのさまはなんともシュール。平城宮跡は現在国の特別史跡に指定されているのですが、それ以前に鉄道会社が土地を購入し鉄道も開通していたからだそうです。それにしたって……!平城宮跡は1998年、東大寺などと共に世界遺産登録されているのですが、世界遺産の中を民間の鉄道が走っているという、世にも珍しい光景です。

shosoin12.jpg
聖武天皇が政務を行っていた建物「第一次大極殿」が復元されている。

平城宮跡がこうして保存されているのは、明治時代、奈良公園の植木職人であった棚田嘉十郎という人物が私財を投げ打って保存活動を行ったからだそうです(現在は国の保護下)。さらに大極殿のまわりの回廊や南門などを復元する計画もあるとのことで、今後ここは平城京のかつての姿を感じられる公園になっていくようです。

平城宮跡資料館

shosoin13.jpg
再現された天平の内裏での食事。奈良市内には、こうした食事が再現され実際に食べられるホテルもある。

平城宮跡の敷地内には、平城宮跡資料館というミュージアムがあります。ここには平城宮・京の発掘調査で出土した遺物などが展示され、当時の人々の暮らしについて事細かに知ることができます。運営しているのは独立行政法人国立文化財機構を構成する奈良文化財研究所。同研究所は、平城宮・京跡、藤原宮・京跡、飛鳥地区の古代遺跡と3つの都城跡で発掘調査を行っており、公開施設としては平城宮跡資料館・飛鳥資料館・藤原宮跡資料館の3館があります。

shosoin14.jpg
見つかった当初話題になった「長屋王家木簡」のレプリカ。現在はスーパーマーケットとなっている場所から出土した。

展示を見ていくと、調査員の方たちの仕事がいかにスリリングなものかということが体感できます。例えば、「長屋親王宮鮑大贄十編」と書かれた小さな木簡(短冊状の木の板)。

長屋王は天武天皇の孫で、藤原氏による陰謀によって、謀反を企てたとの嫌疑をかけられ最終的に家族もろとも自殺に追い込まれた奈良時代の人物です。王の自殺の直後に聖武天皇の妃で藤原不比等の娘の光明子が「皇后」の立場を与えられたという史実があるのですが、長屋王は、それ以前に、王族ではない人物が皇后になるということは未だかつてない出来事であり、反対していたということです。

1988年、この木簡が見つかったことで、陰謀を図られた長屋王は並の「王」(天皇の孫)ではなく、「親王」、すなわち天皇の兄弟もしくは子どもに準ずる扱いであり、天皇にもなれる存在であったことが初めて判明しました。長屋王が藤原氏の謀略に遭った背景には、親王という、長屋王の立場も関係してのことだったのでしょう。

案内してもらった奈良文化財研究所の方によれば「この木簡が見つかったときは大変にセンセーショナルだった」そうです。

shosoin15.jpg
平城宮跡資料館には、調査研究員たちの分析を元に生活の様子を再現したイラストもある。

壮大な歴史物語が小さな木簡の一切れの中に隠されているという感動。他にも、平城宮勤務の役人は現代の我々と同じようにデスクとチェアーで仕事をしていたとか、聖武天皇の寝床は布団ではなくベッドだったとか、発見がたくさんあり、ついつい熱中して時間を忘れてしまいました。

茶がゆ料理

shosoin16.jpg
茶がゆ(左下)は、奈良時代から食べられていた。

ちなみに正倉院の宝物とは、夫・聖武天皇を亡くした光明皇后が四十九日の法要の後に「天皇が使ったものを東大寺に納め、仏にささげよう」と愛用の品を納めたのが始まりだそうです。

東大寺〜正倉院〜平城宮跡と見て、奈良時代にタイムスリップしたような余韻に浸りつつ、旅の最後に「茶がゆ」をいただきました。

茶がゆは今も食べられている奈良のローカルフードであり、また明治時代に編さんされた日本史研究の書物『古事類苑』によれば「大和の国は農家にても一日に四、五度の茶粥を食する。聖武天皇の御代、南都大仏御建立の時、民家各かゆを食して米を食い延ばし御造営のお手伝いをした。以降奈良では茶粥を常食」とのことで、平城京の時代から食されていたメニューです。

1300年前の奈良に思いを馳せる旅。正倉院展と合わせてぜひお楽しみください!

住所/交通情報

奈良国立博物館/奈良市登大路町50 
JR奈良駅または近鉄奈良駅から市内循環バス「氷室神社・国立博物館」下車すぐ

東大寺/奈良市雑司町406-1
JR奈良駅または近鉄奈良駅から市内循環バス「大仏殿春日大社前」下車徒歩5分

正倉院
バス停「大仏殿春日大社前」から徒歩約15分 /奈良交通バス「今小路」から徒歩約8分

平城宮跡・平城宮跡資料館/奈良市佐紀町
近鉄大和西大寺駅から徒歩約10分