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2016年9月25日

第21回 箱根へ 箱根寄せ木細工を訪ねる旅

9月25日の放送「第63回日本伝統工芸展」。番組のロケでは長野の木工職人・丸山浩明さんや、箱根寄せ木細工の本間 昇さん、京都の陶芸家・加藤 清和さんの元を訪れました。
日美旅では、箱根の寄せ木細工に改めてスポットをあてます。箱根路を行けば、長く伝統の技術を守り続ける匠(たくみ)にも、新しい息吹を吹き込む新世代にも出会うことができます。

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箱根にある温泉旅館のエントランスロビー。モダンインテリアと寄せ木細工が融合。

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箱根は樹種豊富な地域であったことから、古くから木工関係の職人が多く集まっていました。

そして箱根寄せ木細工は、旧東海道沿いにある「畑宿」が発祥の地とされています。
江戸時代末期に始まった寄せ木細工は、箱根に旅する人たちに親しまれてきました。こうした歴史のもとで、今も旧東海道沿いに工房が点在しています。

また本間さんのように、長年箱根寄せ木細工を支えてきた匠たちが今も健在な一方、そうした老舗の工房で学んだ世代の中から、「雑木囃子」というグループが生まれるなど、20~30代の職人たちによる独自の表現も出てきています。暮らしの中に取り入れることのできる寄せ木細工のバラエティーが広がっています。

というわけで小田原をスタート地点として、旧街道を行く箱根寄せ木細工の旅を始めましょう。
今回は車で回りました。鉄道とバスを乗り継いでいく旅も良いですが、その場合は一泊二日なり、余裕を持った方が良いでしょう。また道中には、自転車でツーリングしながら寄せ木細工の店に立ち寄る人やリュックをしょって徒歩で芦ノ湖まで行くハイカーの人にも出会いました。お好みのスタイルで、どうぞ!

ギャラリーツユキ/OTA MOKKO

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ギャラリーツユキの展示風景。よく見ると、表現のバリエーションの幅がかなりあることに気づく。

まずは、小田原駅から車で10分、電車でも一駅の「箱根板橋駅」周辺にある2つのギャラリーを訪ねました。

ギャラリーツユキ。箱根寄せ木細工の老舗工房のひとつである露木木工所が運営するギャラリーです。初代・露木清吉、二代・清次、三代・清勝、そして四代・清高。伝統の技術を受け継ぎつつ、それぞれの代でアバンギャルドな表現を提案しています。現在37歳の清高さんは「雑木囃子」のメンバーでもあります。
最近は、箱根湯本にある温泉旅館から誘われて、客室の一室を寄木細工で演出する試みもされています。

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OTA MOKKOの太田さんは移住組。箱根寄せ木細工の可能性に魅せられて、移り住み修業、そして独立。

ギャラリーツユキから歩いても行ける距離にあるOTA MOKKO。ご主人の太田 憲さんは山形出身ですが、20代のはじめ、日本の手仕事に憧れてこの世界に入り修業した後、2012年独立。ご夫婦で工房を運営されています。

「日常使いのものとして寄せ木細工をどれだけ生活の近くに置けるか」を常に考えているという太田さん。額に入れて絵画のように飾れる寄せ木もあれば、小物入れとして使いやすい箱、模様も色もバリエーションが楽しい寄せ木のボタンなど、若い人、特に女性が楽しみそうなアイテムたちが目を引きます。寄せ木細工といえばもう少し男性的なイメージが強かったので新鮮です。 

また製麺工場だった建物を改装したという工房の片隅には、寄せ木細工を曲面にしてつくった風車が飾られていました。
なんでも、以前に行った子ども向け寄せ木細工ワークショップのときの作品とのことです。寄せ木細工にはこんな表現もできるんですね。
今年の11月にも、工房前の中庭でワークショップをされるそうです。家族で参加してみたいです!

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左の建物が工房。右の棟がショップ。つくっているところが見られるのも楽しい。

太田さんも「雑木囃子」のメンバーで、露木清高さんと同じ37歳。10年前、若くて同年代の職人が集中していたのを見た親方連中が、若い者たちで何か一緒にやったらどうかと提案したのがきっかけで結成したそうです。

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寄せ木細工の魅力のひとつである幾何学模様は無限に追求できるとのこと。「1年に1つの模様と決めて、いろんなアレンジを試している」と太田さん。

本間木工所(本間寄木美術館)

本間昇さんの工房はお父さんの代からだそうですが、昇さんは16歳からこの世界に入ったので、来年でキャリア70年。箱根寄せ木細工を巡る状況の、昔と今、その移り変わりなどについても教えてもらいました。「日本の中でも寄せ木細工という工芸はここ箱根にしかない。それはもともと、箱根の山に多種の木があることも背景にあったんだ。でも今はね、実は箱根の木は1%も使ってないんだよ。国立公園のエリア以外に私有林もあるんだが、戦後の政策で、広葉樹が切られ、スギ・マツ・ヒノキといった針葉樹中心になってしまったからね」

また今回の旅のルートにしている旧東海道についてもひとこと。「もともと旧街道沿いには、寄せ木細工以外にも、指し物細工やひき物細工(ろくろを使って仕上げる木工芸)などたくさんの職人が居たんだよ。寄せ木細工の職人ももっともっと多かった。旧街道沿いの集落ごとに、専門分野が違っていたんだがもう面影がないね」

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寄せ木をして幾何学模様になった「種板」をかんなで薄く削る手法「ヅク」を実演する本間 昇さん。

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今回、第63回日本伝統工芸展の日本工芸会新人賞を受賞した「神代桂菱紋重糸目筋箱」と同じ手法による作品。格子ごしに寄せ木の模様が透けて見える。

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本間木工所に併設されている本間寄木美術館。他に実演見学・寄せ木体験コーナーもあり、総合的に寄せ木細工について学べる。

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旧街道を進むと温泉郷が。道中ひとっ風呂浴びるのもおすすめです。

旧街道沿いの温泉旅館の客室「箱根寄木の間」

本当は宿泊しないと見られない場所なのですが、旅館のご好意により、露木木工所との共同作業によってできた、この旅館にひと部屋しかない特別室「箱根寄木の間」を見学させてもらいました。

思わず感嘆のため息が漏れるような部屋です。箱根寄せ木細工がモダンデザインの空間と見事に一体化しています。この場所に置かれている机をはじめ、花瓶、掛け軸、襖の取っ手に至るまで、ホテルのスタッフと露木さんの共同作業により実現した唯一無二の空間。この旅館ブランドでは、各施設、地域の文化を体感できる「ご当地部屋」を用意しているそうです。これからも継続的に寄せ木細工の職人と一緒に、旅館の空間や装飾品をつくっていきたいそうです。

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「箱根寄木の間」。部屋の中央には、寄せ木細工の技術を取り入れたテーブルが。露木清高さんが担当。

部屋以外にも、寄せ木の器で楽しめる会席料理があったり、夕食後に寄せ木の作り方を説明する紙芝居が披露されたり、寄せ木のコースターやリースなどがつくれるワークショップが毎晩行われていたり。寄せ木細工を身近に味わうことができます。

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お盆や碗など、「箱根寄木の間」に宿泊すれば自由に使える品たち。寄せ木の碗で抹茶を飲んでみたい。

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(左)小田原鋳物と寄せ木細工を組み合わせた風鈴(右)花瓶は、露木木工所二代・清次氏の作品。

畑宿 箱根寄せ木細工発祥の地

温泉郷を抜けて少し行くと、「畑宿」に着きます。こここそが箱根寄せ木細工発祥の地。箱根は古くは平安の頃より木工が盛んな地域だったとされていますが、江戸末期、畑宿の石川仁兵衛という人が創作して寄せ木細工が始まったとのこと。

そして、石川家の血筋を受け継ぐ寄せ木細工の工房が今もあります。それが「浜松屋」。石川仁兵衛から数えて現在7代目。本間さんと同じく伝統工芸士にも認定されている7代目の作品が並んでいます。

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「浜松屋」。7代目石川一郎さんの作品。精緻な技が光っている。

それから、同じ畑宿にある「金指ウッドクラフト」。こちらは金指勝悦さんという職人さんが営んでいる寄せ木工房ですが、金指さんは無垢の寄せ木細工を最初に始めた人として知られています。貼り合わせた木を曲面をつけて削ったりすることで、それまでの寄せ木になかったユニークな模様の面をつくり出すことができるようになったそうです。

そして、そのお隣りにあるのが「るちゑ」。金指さんで修業したお弟子さんの清水勇太さんが独立して2011年に開いた工房です。清水さんもまた「雑木囃子」のメンバーで、現在36歳。太田さんと同様、東京出身で箱根に移住してきました。大学生の頃、旅行で来た箱根で金指さんの作品と出会い、この道を志したそうです。「初めて見たとき、技術のクオリティーの高さに感動すると共に、まだまだこの表現には開拓の余地があるんじゃないかと思った」と清水さん。

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「金指ウッドクラフト」。店内には無垢の寄せ木作品がズラリ。

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「るちゑ」。金指さんの元で学んだ清水さんの工房。その技術を受け継ぎながら、若者や子どもも楽しめる寄せ木細工を打ち出そうとしている。

清水さんは、金指さんをはじめとする先達が築いてきた無垢の寄せ木細工の技術をベースにしながら、若い人たちが実際に触って微笑んでくれるような作品をイメージしながら創作しています。起き上がり小法師の寄せ木の球は木の知育玩具のようでかわいい。現在、保育園からもこの寄せ木の球を元にした遊具の相談をされているそうです。

400年の伝統を持つ峠の茶屋

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茅葺屋古民家の佇まいを持つ茶屋。甘酒ときなこもちをいただいた。

「箱根の山は天下の険〜」と歌われたとおり、その昔、歩きの旅で箱根を越えるのは大変でした。江戸の昔から旅人の疲れを癒してきた400年の伝統を持つ峠の茶屋が今も健在。甘酒をいただき、ひと休みしましょう。

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旧東海道は車道だが、並走して石畳の箱根旧街道が走っていて、ハイカーはこの道を行くことが多い。

茶屋でも、隣りの席にはリュック姿で休息を取っている人を見かけました。きっと、箱根旧街道の石畳を辿って箱根越えをするのでしょう。江戸時代の旅行者と同じように……。

芦ノ湖

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芦ノ湖で湖上に浮かぶ、箱根神社の水中鳥居を眺める。(今回は悪天候につき、富士山は拝めませんでした)

芦ノ湖に着きました! いったんこちらをゴールとして、一息ついて、それから帰路で温泉に浸かって小田原まで戻り漁港から上がったお刺身を食べて……。寄せ木細工と合わせて箱根・小田原を堪能しておかえりください。

そうそう、箱根や小田原のお店に入ると、お店で使われているモノが何気なく寄せ木細工の品だったりします。帰りに立ち寄った和菓子屋さんでも、釣り銭入れの皿が寄せ木細工でした。日常の中の寄せ木細工に、ぜひ出会ってみてください。

交通/住所

車で移動の場合:東海道(国道1号)を進み、途中箱根湯本駅の辺りで旧東海道(732号)に接続。その後は終点までずっと旧東海道沿いを一直線に進む。
公共交通機関で行く:電車とバスを乗り継ぐ形になりますが、乗り継ぎに時間がかかるので余裕を持って行かれることをおすすめします。

ギャラリーツユキ 神奈川県小田原市早川2-2-15
OTA MOKKO 神奈川県小田原市板橋597
本間木工所/本間寄木美術館 神奈川県足柄下郡箱根町湯本84
星野リゾート 界 箱根(「箱根寄木の間」 がある温泉旅館)  神奈川県足柄下郡箱根町湯本茶屋230
浜松屋 神奈川県足柄下郡箱根町畑宿138
金指ウッドクラフト 神奈川県足柄下郡箱根町畑宿180-1
るちゑ 神奈川県足柄下郡箱根町畑宿203-1
甘酒茶屋(400年の伝統を持つ峠の茶屋) 神奈川県足柄下郡箱根町畑宿二子山395-1