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2016年8月28日

第19回 愛知県名古屋市・岡崎市・豊橋市へ あいちトリエンナーレ2016を巡る旅

3回目を数える「あいちトリエンナーレ」が8月11日から10月23日まで開催中です。

絵画・彫刻・映像・パフォーマンス・ダンス・オペラなど幅広い分野で世界の最新動向を紹介する国際的な現代アートの祭典です。
今回は、前回の名古屋・岡崎会場に加えて豊橋市も新たに加わりました。

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芸術監督として全体の監修を行う港 千尋氏(多摩美術大学美術学部情報デザイン学科教授)。ジェリー・グレッツィンガー《Jerry's Map》の前で。

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芸術監督の港 千尋さんに話を聞いてみました。

今回は日本人以外にブラジル人やトルコ人の現代美術の専門家も作品の選考に関わっており、それだけ世界中のアートの潮流を広く知ることができること。
また、それが美術館だけでなく、名古屋の長者町や岡崎市・豊橋市などのまちなかでも展開されていて、それぞれの地域性や場所性も大事にしていること。
文化の「今」を感じるのと併せて、いろんな場所に行ってそこの人や歴史とも交わってもらえるとうれしいとのことでした。

「トリエンナーレに行くこと自体が旅になる。名古屋はもちろん、岡崎、豊橋に行ったことのない人はぜひこの機会を訪れるきっかけにもしてみてください!」

名古屋市内 美術館での展示

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西尾美也+403architecture [dajiba]の《パブローブ》。一般の人たちから服を寄贈してもらい、それらをみんなでシェアしたりリメイクしたりするプロジェクト。

名古屋では、愛知芸術文化センター、名古屋市美術館に加えて、長者町繊維街や、旧明治屋栄ビルなども展示会場に使われています。

愛知芸術文化センターのエントランスを入ってまず出迎えてくれる大きな地図の作品について、港 千尋さんが教えてくれました。
「ジェリー・グレッツィンガーは、1960年代からずっと“実際には存在しない街の地図”をつくり続けています。今もそれは継続中で、ここに展示されているのはそのごく一部です。アーティストにとって制作は人生と深く結びついていることを見て欲しい」
この作品の前では記念撮影をすることができます。取材をしている間にも、お客さんたちが大きな地図をバックに記念の一枚をカメラに収めていました。

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美術館前に設置されたジョアン・モデの《NET Project》。一般の人たちが参加することでできあがる。

名古屋市美術館では、入り口の前の公園でも展示がされていました。木と木のあいだに張られた、大きなハンモックのような作品。一般の人たちが参加し、カラフルなひもをつないでいきます。これ、後で気づいたのですが実はここだけじゃなく岡崎会場、豊橋会場にも同様の展示がありました。3都市でそれぞれつくりあげて、あいちトリエンナーレのフィナーレでひとつに合体させるそうです。ぜひご参加を!

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名古屋市美術館地下1階、台湾の賴 志盛(ライ・ヅーシャン)の《境界・愛知》。展示室の使い方自体を変えてしまっていてユニーク。

名古屋市美術館では、台湾の作家による、逆転の発想と言うべき作品に出会いました。

展示室の壁づたいに人がかろうじて渡れる「へり」をつくって、かたや展示空間自体は、ゴミ?が転がっているだけ。真ん中に人が立ち入らず縁だけを人が歩くのは、ミュージアム体験としてなんだか新鮮でした。

名古屋市内 まちなかの展示

次に名古屋のまちなか展示、まずは長者町に行ってみました。

名古屋市伏見区の「長者町繊維問屋街」は、2010年、2013年に続いて3回目となる参加ですが、興味深かったのは今回の展示に加えて、ところどころに過去2回の作品が街の中に残っていたことです。文化が時間をかけて少しずつ根づいているのを感じました。また、前の2回の頃にはなかったカフェなどが通りにできていたのも、若い人たちがトリエンナーレを機に長者町を訪れるようになったことと無関係ではないでしょう。

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長者町「喫茶クラウン」店内で展示されている、今村 文の《あなたのこころはわたしのからだ》。2010年のあいちトリエンナーレのときの作品(右側、青い植物の貼り絵)が残されており、今回の出品作品と共存していた。

喫茶クラウンという、これまでもあいちトリエンナーレに展示会場として参加している飲食店のオーナーに聞いてみました。「私は64年前からここでお店をしていますが、2010年に展示した淺井裕介さんがこの場所を気に入ってくださってね。私も作品が好きで、お願いして残してもらったの。そして今回、今村 文さんが淺井さんの作品を生かしながら新しい作品を展示してくれた。素敵でしょ」

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あいちトリエンナーレで毎回登場する、オリジナルデザインのベロタクシー。

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2010年、2013年の作品がそのまま残っているのを発見。歴史の積み重なりを感じる。

また、名古屋市の中心的な繁華街・栄の空きビルにも大規模な展示がされていました。このビル、以前、栄明治屋が入っていた建物と言えば思い出す人も少なくないのではないでしょうか。戦前に建てられた名古屋の名物ビルのひとつでしたが、耐震のことなどもあり取り壊されることが決まっています。

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旧明治屋栄ビルでの展示より。端 聡の《液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る。そうあるべきだ。》。

この場所で展示を行っているアーティストのひとり、端 聡さんに話を聞きました。

「人間が長年携わって、そこに生活や労働があった場所にはいろんな記憶が積み重なっているので、そうした場所で展示できることはとてもモチベーションも上がります。私の作品も時間や循環をテーマにしているのでまたとない展示場所です」

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栄の繁華街を行く人たちが、「何をやっているんだろう?」と気にしている様子も面白かった。

実を言うと、記者も高校生の頃、母に買い物を頼まれてよくここの明治屋に来ていたので、アートの展示を楽しみながら、この場所での記憶を振り返ることもできました。

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そして……もちろん名古屋メシも堪能しましたよ! 各都市のローカルフードもトリエンナーレの楽しみのひとつ!

岡崎市 まちなかの展示

実は記者は愛知の尾張地方出身なのですが三河地方の岡崎市と豊橋市には来たことがありませんでした。港さんも言っていました。「県外から来られる人はもちろんですが、県内の人にも『あいち』を再発見してもらいたいんです。意外に地元のこと、知らなかったりしますよね」

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岡崎では、トリエンナーレ会場を巡るのに渡し舟も使われている。

岡崎への“トリエンナーレ旅”の魅力のひとつは、水辺を味わえることです。期間中、会場を巡る人たちは、無料で渡し舟を体験できます。岡崎市では水辺ツーリズムを推進しており「あいちトリエンナーレ」でも積極的に組み込んでいるとのこと。暑いさなか、舟に乗ると涼しくて生き返ります!

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岡崎シビコで展示されている、横田大輔の《Matter / Vomit》。かつてフードコートだったデパートの最上階の空きフロアが今回の展示会場に使われている。

また、街中で増えている空き物件の利活用という命題に、現代アートの展覧会はいいヒントを与えているように感じました。

駅前の商業ビルと、まちなかの大型商業施設の最上階がそれぞれワンフロアまるごと空いていて、それらが今回のトリエンナーレにおいては、ぜいたくなアートの展示会場になっています。下のフロアでは子供服などを売っているのに、最上階は、まるで海外の画廊を思わせるような、広々とした展示空間……。

岡崎エリアの展示の運営管理をしている、岡崎市文化芸術部文化総務部 学芸員の石田大祐さんに話を聞きました。「それぞれのアーティストにも、美術館ではなかなかできない大胆な展示ができると好評でした。また、施設側やテナントさんたちからもエールをもらっています。私たちとしても、今後空き物件の利用を市で進めていくうえでの好事例にできればと思っています」

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岡崎の展示会場のひとつ、元商家の建物。江戸末期に建てられた。

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美術館とはまた違う、その場所の性格を生かした展示が面白い。

他に、江戸末期に建てられた、指定文化財にもなっている元商家の木造建築でも展示がされていました。石田さんいわく「この建物がある辺りは、運良く戦時中に空襲を免れたため、こうした建物が残っているのです。この機会に岡崎の歴史もいろいろ知ってもらいたい」

作家さんたちも、こんな歴史的建造物で展示できる機会はそうないと、プラン提出から力が入っていたそうです。

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そして……岡崎城近くの茶屋で、岡崎名物、菜メシと八丁味噌田楽をいただきました!

豊橋市 まちなかの展示

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展示会場のひとつ「水上ビル」。なぜこの名前かというと、ビルが建っている場所は昔、用水路だったから。

豊橋でも、平成25年に建てられた市の芸術劇場「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」の他、雑居ビルが展示会場として使われていました。

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ブラジル人アーティスト、ラウラ・リマの《フーガ》。なんと、本物の鳥が飛んでいる。

会場のひとつ、水上ビル。ここは高度経済成長時代、農業用水があったところを埋め立て暗きょ化し、その上に建てたのでこの名前なのだそうです(今もビルの下には用水が流れています)。1階が店舗で、2・3・4階と屋上はそのお店のオーナーの“縦に長い住居”というつくりになっています。しかしビルの中で1世帯分、すなわち1階から屋上までが空いているスペースがあり、ブラジル人のアーティスト、ラウラ・リマがまるごと展示空間に使いました。なんと、窓や入り口の開口部を金網で囲み、約100羽の小鳥をそこで放し飼いにするという作品。

そういえば、今回のトリエンナーレでは38の国と地域のアーティストが参加しているそうですが、その中で愛知とブラジルとの関わりも意識されているとのことです。県の外国人住民数を国籍別に見ると、もっとも多いのがブラジル人で22.9%(2015年12月末現在のデータ)。また豊橋市と岡崎市は特にブラジル人が多く居住しているとか。豊橋ではこのラウラ・リマの他にもブラジルおよび南米の作家が目立ちました。

ちなみに、ラウラ・リマの作品で使われている約100羽の小鳥のうち一部は同じ水上ビルの小鳥店から提供されています。高齢なので、まもなくお店は閉じるとのことでした。「うちに居た小鳥は全部ラウラさんの作品のところに行っており、今はお店には1羽もいないんですよ」

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開発ビルで展示されている石田尚志の《絵馬・絵巻シリーズ》。映像をバックに、来場者の子どもさんがダンスをしているのに遭遇。

大規模な展示が行われているもう一か所、「開発ビル」では映像系のアーティストが多く登場します。2階から10階まで各フロアで展示があるので、とても見応えがあります。

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東海地域では唯一となる豊橋の路面電車。その背景に今回の会場となったビルが見える。この辺りは一帯が再開発される予定。

豊橋市も街中のビルの空き物件を効果的に使って、刺激的な世界の最新アートの舞台にしていました。と、その一方で知った現実は、今回豊橋市で展示会場として使われているまちなかの雑居ビルは、取り壊され再開発される計画の中にあるということでした。市街地ドーナツ化により駅前の商業が衰退したことが一因だそうです。

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豊橋でもローカルフードを堪能。「豊橋カレーうどん」。なぜかカレーうどんなのにご飯が入っている!?

「あいちトリエンナーレ」は最新アートのトレンドを知ることのできる貴重なフェスティバルであると同時に、いろんなローカルを味わえる旅のチャンスでもあります。さらにはその街の来し方行く末に思いをはせるという意味でも、旅なのかもしれません。「あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」、どうぞ訪れてみてください。

住所/交通

名古屋地区

 愛知芸術文化センター
 開館時間|10:00-18:00(金曜は20:00まで)
 休館日|8月22日(月)、9月5日(月)、12日(月)、20日(火)、26日(月)、10月3日(月)
 住所|名古屋市東区東桜1-13-2

 名古屋市美術館
 開館時間|9:30-17:00(金曜は20:00まで)
 休館日|8月22日(月)、9月5日(月)、12日(月)、20日(火)、26日(月)、10月3日(月)
 住所|名古屋市中区栄2-17-25

 栄会場
 旧明治屋栄ビル、他
 開館時間|11:00-19:00(金曜は20:00まで)
 休館日|8月22日(月)、9月12日(月)、10月3日(月)
 住所|名古屋市中区栄3-2-9(旧明治屋栄ビル)

 長者町会場
 堀田商事株式会社、他
 開館時間|11:00-19:00(金曜は20:00まで)
 休館日|8月22日(月)、9月12日(月)、10月3日(月)
 住所|名古屋市中区錦2-11-16(堀田商事株式会社)
 ※会場によって開館時間・休館日は若干異なります。詳細は、あいちトリエンナーレ公式Webサイトをご確認ください。

 名古屋駅会場
 JPタワー名古屋2F貫通通路
 開館時間|7:00-24:30
 住所|名古屋市中村区名駅1-1-1


岡崎地区

 名鉄東岡崎駅ビル・岡崎シビコ・石原邸、他
 開館時間|10:00-19:00(籠田公園のみ11:00-)
 住所|岡崎市明大寺本町4-70(名鉄東岡崎駅ビル ※インフォメーションセンターあり)
 ※会場によって開館時間・休館日は若干異なります。詳細は、あいちトリエンナーレ公式Webサイトをご確認ください。


豊崎地区

 穂の国とよはし芸術劇場PLAT・水上ビル・開発ビル、他
 開館時間|11:00-19:00
 休館日|毎週水曜(8月17日、10月5日、19日除く)
 ※PLAT会場のみ8月15日(月)、9月20日(火)、10月17日(月)
 住所|豊橋市西小田原町123(穂の国とよはし芸術劇場PLAT ※インフォメーションセンターあり)