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2016年7月 3日 / 旅の紹介 第13回 南仏へ ルノワールを訪ねる旅

パリ・モンマルトルの都会生活を青や緑色も多用して描き出したルノワール。

対照的に晩年は “バラ色の色彩”と呼ばれる色づかいに変化していきます。それをもたらしたのは南仏の風土でした。
今回の日美旅では南仏にルノワールを訪ねます。

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カーニュにあるルノワール美術館の庭にて。手前にはオリーブの古木が、遠方には旧市街が見える。

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カーニュのルノワール美術館

ルノワールは66歳のときに南仏の町カーニュに移り住みます。
ニースから西へ10数キロのところにある町。 
風光明媚な保養地として知られる地中海沿いの海岸地域、コート・ダジュール(日本語に訳すと「紺ぺきの海岸」)からも近くです。 

「カーニュ・シュル・メール」駅から坂を上って15~20分行った先の丘一帯が現在、ルノワール美術館として公開されています。門があり、チケットを買って中に入ると広大な庭が広がります。

敷地内にはオリーブの木がたくさんあり、実も至るところに落ちています。花や果実をつける樹木が豊富に存在していて、季節ごとに生き生きとその輝きを放っています。 

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(左)4月に訪れたときにはトベラがきれいに咲き誇っていた。(右)ルノワールの家のテラスからの眺め。

ルノワールの家

入り口から少し歩くと晩年ルノワールが暮らしていた家があり、そちらが美術館になっています。中に入ると、ルノワールの“バラ色”の絵画たちが。

室内は光を取り入れるつくりで、全体的に明るい印象。ルノワールはここカーニュに移ってからはリューマチの悪化から車椅子での生活を余儀なくされましたが、この部屋の明るさを感じていると、息が詰まる苦しさとは無縁だったのでは、という気にさせられます。  
とりわけ、テラスからの眺めはすばらしく、南を向けば庭越しにコート・ダジュールの海が見渡せ、西に向かう景色では、オー・ド・カーニュと呼ばれる中世のたたずまいを残す旧市街見えます。

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ルノワールが晩年を過ごした家。

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(左)各部屋にルノワールの絵が掛かる。こんなに近くで?という至近距離な感じがうれしい。(右)バスルームのタイルの一枚に、ルノワールが描いた女性の絵が。

こんなところにもルノワールが! と面白かったのはヌード女性の後ろ姿が、バスルームのタイルの一枚に描かれていたこと。そういえば、ルノワールは油絵画家になる前、磁器の絵付け職人でした。産業革命により絵付け技術の機械化が進み失職。それがきっかけで画家に転向しました。絵付け職人としてもその腕前は高く評価されていたそうです。  

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(左)ルノワールが実際に使っていたイーゼルと車椅子。部屋の明るさがとにかく印象的。(右)こちらは別館。ルノワールは晩年彫刻もつくった。

庭園を歩く

再び庭園へ。紺ぺきの空のブルーと樹々のグリーン、何より鮮明に目に焼き付くのはその色彩です。ルノワールはこの庭園にイーゼルを立て、風景を描いていました。庭園内には、「この場所でこの絵を描きました」の看板が何枚も立てられています。
そうしたルノワールのカーニュでの生活の模様は、2012年公開の映画『ルノワール 陽だまりの裸婦』でも伺い知ることができます。
ドキュメンタリー映画ではなくドラマではありますが、原作はルノワールのひ孫にあたるジャック・ルノワール。創作とは言え、事実をベースにつくられている興味深い作品です。

なお映画の中に出てくるルノワールの次男ジャンは、『大いなる幻影』などで知られる映画監督の名匠ジャン・ルノワール。ジャン・ルノワールの後期の映画『草上の昼食』の庭でのシーンは、実家であるここカーニュのルノワール家の庭で撮られています。

サン・ポール・ド・ヴァンス〜マティスのロザリオ礼拝堂

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南仏の鷲巣村の中でも人気が高い「サン・ポール・ド・ヴァンス」からの眺め。

ルノワールの家の門の前は意外にも車がビュンビュン走っており趣き深いという感じではなく、また近所には格別に見どころがあるというわけではありません。

ただ、バスに乗ればサン・ポール・ド・ヴァンスもすぐ。ここは南仏特有の“鷲(わし)巣村”です。 
鷲巣村とは、山や崖の上につくられた村で、ひなを外敵から守るために高いところにつくられる鷲の巣になぞらえて、そう呼ばれています。  
中世の町並みが今も残り、細い路地が入り組むさまが印象的。
南仏の山側にはこうした鷲巣村が数多くありますが、中でも、サン・ポール・ド・ヴァンスは高い人気を博しています。
実はシャガールが最晩年の20年を暮らした場所でもあり、村の共同墓地にはシャガールのお墓があります。

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(左)中世の雰囲気がそのまま残るサン・ポール・ド・ヴァンスの街並。(右)ヴァンスにあるマティスのロザリオ礼拝堂。

そして……サン・ポール・ド・ヴァンスからさらにバスに乗って「ヴァンス」のバス停で降りれば、そこは有名なマティスのロザリオ礼拝堂がある街。青・緑・黄色3色だけのステンドグラスが南仏の太陽の光と織りなす美しい空間。マティス芸術最晩年の集大成とも言われる場所です。ルノワール美術館に行かれる方はぜひこちらも併せて訪問してみてください。

ニースから出ているバスに乗れば、カーニュ→サン・ポール→ヴァンスと、バス停があり、ツアーがしやすいです。

グリマルディ城のピカソ美術館 

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(左)グリマルディ城外観。この中にピカソ美術館が。(右)グリマルディ城からはコート・ダジュールの海が眼前に広がる。

ルノワール美術館があるカーニュから西に向かって国鉄で数駅、アンティーブ市の海沿いにグリマルディ城があります。ここはかつて、その名の通り、グリマルディ家という貴族の所有でした。1920年代末に市の管理になり、さらに1946年にピカソが2か月アトリエとして市から借りて使用し、そのとき制作した作品をこの場所に永久貸与したことがきっかけで、現在内部は「ピカソ美術館」になっています。ピカソ美術館では「生きる喜び」「ユリシーズとセイレーン」といった、コート・ダジュールの色を思わせるブルーの背景が印象的な作品たちを見ることができます。 

ちなみに大変まぎわらしいのですが、ルノワールの家の庭から見える旧市街の中にもグリマルディ城という名前の城があるのですが、それは別の場所です。そちらも内部が美術館ではありますが、ピカソ美術館ではなく、地中海近代美術館となっています。そちらはそちらで旧市街の雰囲気が美しく、お城も古城のたたずまいがあり、見晴らしがすばらしいのでおすすめですが、ともあれ、ピカソ美術館のあるグリマルディ城とは別なのでご注意ください。

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グリマルディ城のあるアンティーブから程近い、「ジュアン・レ・パン」のビーチ。

芸術家たちが南仏を愛した理由

ルノワール、シャガール、マティス、ピカソ。何人もの芸術家たちが南仏にひかれここで過ごしました。さらに、旅路を北イタリアに進めれば、国境の手前にはコクトーが愛した街・マントンがあります。2011年にオープンした、建築も素晴らしいコクトー美術館の他、コクトーが内装を手がけたマントン市庁舎『婚礼の間』も見ることができます。 

最後に、現在ニースにお住まいの方からのコメントをご紹介します。
「ニースに来て感じるのは、気候はマイルドで過ごしやすいけれど、日差しがとても強いということ。冬でも晴れていればサングラスが必要なほど。この太陽を直接経験すると、多くの画家が南仏に移り住んだ理由がわかる気がします。 
グリマルディ城にあるピカソの名画『生きる喜び』ではないですが、南仏の暮らしそのものが“生きる喜び”なのだと感じます」

画家たちを魅了し影響を与えた太陽の光を体験しに、南仏をぜひ訪れてみてください! 

今回の日美旅は、南仏に旅行された方や現地にお住まいの方など、多くの方からいただいた情報をもとに構成させていただきました。

住所/交通

●ルノワール美術館 Musée Renoir /Chemin des Collettes, 06800 Cagnes-sur-Mer
●サン・ポール・ド・ヴァンス / 2 rue Grande, 06570 St-Paul-de-Vence, France
●ロザリオ礼拝堂 La Chapelle du Rosaire / 466, Avenue Henri Matisse, 06140 Vence
●ピカソ美術館 Musée Picasso, Antibes /Château Grimaldi, Place Mariejol, 06600 Antibes

ニース市内から出ている400番Vence行きのバスに乗るとルノワール美術館は「Square Bourdet」、サン・ポール・ド・ヴァンスは「(St Paul)Village」、ロザリオ礼拝堂はバスの終点です。