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2016年5月29日

第8回 東京とその近郊へ シルクロード美術を見に行く旅

番組でも紹介した、東京国立博物館・表慶館で開催中の『黄金のアフガニスタン  -守りぬかれたシルクロードの秘宝-』展(6月19日まで)。

紀元前2100年頃から紀元後3世紀頃までのアフガニスタンの古代遺跡から出土した、財宝とも言うべき装飾品が紹介されています。このような美しさや高い技を持つ作品が今から2000年も昔に存在したということに驚愕し、と同時に現代に生きる私たちが時を超えてそうした文化財と対面できることの至福を感じずにはいられません。

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東京・上野。東京国立博物館 表慶館では『黄金のアフガニスタン -守りぬかれたシルクロードの秘宝-』展が行われている。

しかしアフガニスタンは、私たちにとってはいろんな意味で遠い存在です。

アフガニスタンの国と文化と生活についてほとんど知られていないのが現状です。(たとえば世界有数の多様な食を楽しめる都市として知られる東京でも、アフガニスタン人が経営しているアフガニスタン料理の店は1軒もありません)

また政情的に不安定で、外務省のホームページでは全土がレベル4、退避勧告が出ており渡航を取りやめるよう呼びかけています。(2016年5月27日現在)
首都カブールではこの4月にもタリバンによる自爆テロがあったばかり。

今回展示されているのは1989年、内戦が続く中、アフガニスタン国立博物館の学芸員たちが特に貴重な文化財として秘密裡に運び出し大統領府の地下金庫に保管していたことで奇跡的に戦火を免れ、2003年に公開されたという美術品です。
そのようにして守られたものたちがある一方で、1993年にはアフガニスタン国立博物館にはロケット弾の砲撃が命中し、収蔵品全体の7割が失われたと、『黄金のアフガニスタン』展の展示パネルには書かれていました。

類まれなるアフガニスタンの美に酔いしれ、またそれと共に戦禍の痛ましさにショックを受けつつも、未来へつながる手がかりを求めて今回はシルクロードの美術に触れられる東京都内と近郊の博物館や関連スポットを巡る旅にご案内します。

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中近東文化センター(東京・三鷹)

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知る人ぞ知る「中近東文化センター」。月火水金に観覧することが可能です(要予約)。

まず向かったのは三鷹市にある「中近東文化センター」。

こちらは三笠宮崇仁親王が発案をし、出光興産の創立者・出光佐三氏の協力を得て1950年に設立された、中東文化についての博物館および研究施設です。現在は予約制で観覧をすることができますが、展示されているものの多くは息をのむような美しさを持っています。また展示の説明なども優れており、「こうした古代の美術品から何を読み取ることができるのか」をわかりやすく伝えています。

三笠宮殿下は「オリエントの宮様」とも呼ばれる歴史学者ですが、もともとは戦史を学ぶところから出発し、そこから宗教を軸とした人類の歴史へと分け入り、メソポタミアや古代オリエントへと関心の矛先が向かっていったと、センターで流されている映像で語られていました。

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エジプトの木棺。実物をこんなに間近で見られるのに驚きです。

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イラン、キプロス、シリアからの出土品。

その映像の中で、争いをなくすためにどうすればいいのかと問いかけられた三笠宮殿下は、「近いところだけを見てはいけない。目先ではなくその源流から考えることが大事」と答えておられました。

古(いにしえ)のモノたちから何を感じ、何を学ぶことができるのか。未来へ向かう手がかりを提示されているかのように感じさせる博物館です。

古代オリエント博物館(東京・池袋)

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池袋・サンシャインシティ内、文化会館の7階にある、実は日本で最も古いオリエント専門の博物館。

東京都内で古代オリエントの文化に触れられる稀少な施設があるのは、なんと池袋・サンシャインシティの中。ここは1978年にできた日本最初のオリエント専門博物館です。今日、商業ビルの中にミュージアムが設置されることは珍しくありませんが、いわばその先駆け的な存在です。

設立にあたっては政財界や、シルクロードに造詣の深かった作家の井上靖や松本清張、日本画家の平山郁夫の後押しもあったということです。 

約4000点もの考古資料や美術品を収蔵。またこれまでにシリアやウズベキスタンで発掘調査を行われたそうです。 
伺った日は年に2回の特別展が開催中でしたが、普段はコレクションが常設展示されています。

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文字の文化もさかのぼれば中東から始まっている。

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紀元前2000〜3000年頃の出土品。粘土の上に押し付けて文様や絵物語をスタンプする「円筒印章」。

学芸員の方にオリエントの魅力について聞いてみました。「世界の歴史の一番古いところがオリエントにあります。文字も都市も国家も、人類の歴史がここから始まっているという、そこが一番の魅力ではないでしょうか」

横浜ユーラシア文化館(横浜)

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「横浜ユーラシア文化館」が入っているのは、もともと1929年に横浜市外電話局として建てられたビル。横浜に残る歴史的な建造物のひとつ。

もうひとつ、東京近郊のオリエント関連ミュージアムとして、「横浜ユーラシア文化館」があります。東急みなとみらい線「日本大通り」駅を降りてすぐの場所。ここは、晩年横浜に暮らした考古学者・江上波夫氏(古代オリエント博物館初代館長)が、所蔵していた文献や美術品をまとめて横浜市に寄贈したことがきっかけでできたミュージアムです。ユーラシアの中でも江上さんが情熱を傾けたシリアなど西アジアの地域に関連するものが充実しているのですが、訪問時、常設展示ではアフガニスタン周辺から出土した像なども見かけました。 

またユーラシアの歴史・美術などに関わる文献約30000冊を所蔵しており、ホームページの蔵書検索サービスから探して事前予約をすれば、館内で閲覧することができます。

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右はアフガニスタン周辺から、左はパキスタンから出土された頭像。

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紀元前5〜3世紀、シリアから出土したガラス製品。

東京文化財研究所(東京・上野)

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上野公園内にある「東京文化財研究所」。文化財の調査研究・修復・保存活動を行う。 

ミュージアムではありませんが、こちらも併せてご紹介。東京でシルクロード美術に関連した資料を調べるなら、東京国立博物館に隣接する東京文化財研究所がおすすめです。身分証明書の提示が必要ですが文献の充実度は出色。所蔵資料の検索はホームページから行うことができ、たとえば「アフガニスタン」で検索してみると検索結果701件、美術関係図書だけで103のヒット数でした。(2016年5月24日時点)

なお今回は東京近郊で見て回れる関連施設を紹介しましたが、範囲を日本全国に広げれば、山梨県北杜市に「平山郁夫シルクロード美術館」、岡山市には「岡山市立オリエント美術館」があります。 

          *          

『黄金のアフガニスタン』展は、2006年以降世界中を巡回しています。巡回が一段落したら、作品をアフガニスタンに戻し、大規模な展覧会を行うことを目指しているそうです。また、今回の展覧会では日本画家の平山郁夫氏らが中心となって保護してきた中東からの流出文化財(通称「文化財難民」)も展示されていますが、こちらは今年、アフガニスタンに返還されることが決まっています。

優れた文化財がどうしたら先々まで守られるのか。どうしたら中東が平和になり、アフガニスタンの博物館を普通に訪ねることができるようになるのか。いつか、このコーナーで、アフガニスタンを舞台とした日美旅のコースをつくってみたいものです。

住所/交通

・中近東文化センター 東京都三鷹市大沢3-10-31/JR中央線武蔵境駅もしくは三鷹駅より小田急バス10〜15分 「西野」バス停下車

・古代オリエント博物館 東京都豊島区東池袋3-1-4サンシャインシティ文化会館7階/JR池袋駅東口より徒歩15分もしくは東京メトロ有楽町線東池袋駅 6・7番出口より 徒歩6分

・横浜ユーラシア文化館 神奈川県横浜市中区日本大通12/みなとみらい線日本大通り駅3番出口すぐ。もしくは、JR関内駅南口・市営地下鉄関内1番出口から徒歩約10分

・東京文化財研究所 東京都台東区上野公園13-43/JR鴬谷駅 南口より徒歩7分 。もしくは、JR上野駅 公園口より徒歩13分

展覧会情報

4月12日(火)~ 6月19日(日)
東京国立博物館表慶館『黄金のアフガニスタン-守りぬかれたシルクロードの秘宝-』

4月12日(火)〜 6月19日(日)
東京藝術大学 大学美術館陳列館『素心 バーミヤン大仏天井壁画』 ~流出文化財とともに~

3月12日(土)~6月21日(火)
平山郁夫シルクロード美術館 緊急企画 流出文化財返還記念『アフガニスタンと平山郁夫』展

4月9日(土)~6月5日(日)
古代オリエント博物館 春の特別展『世界の文字の物語ーユーラシア 文字のかたちー』