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2016年4月17日 / 旅の紹介 第2回 イタリア・ローマへ カラヴァッジョを訪ねる旅

「日曜美術館」の放送で取り上げた画家や作品について、ゆかりの場所を旅するコラム「出かけよう、日美旅」。

前回の「京都へ 若冲旅」に続き、今回はローマを舞台にカラヴァッジョ作品とゆかりの場所を見て回ります。

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サンタゴスティーノ教会にある「ロレートの聖母」。

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カラヴァッジョをめぐるローマ地図。

ローマは、カラヴァッジョが本格的に画家としての道を歩み始め、絶大な名声を得た町です。「聖マタイの殉教」「聖マタイの召命」を描いて高い評価を受けたのが弱冠29歳のとき。

そこから1606年にトマゾーニという若者を殺害して指名手配を受け、ローマから逃げ出すまでの8年のあいだに、数々の傑作を残しました。文字通り活躍の中心的な舞台となりました。

サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会「聖マタイ三部作」

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(左)サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会の内部。(右)教会の左側廊に「聖マタイ三部作」があります。左から「聖マタイの召命」「聖マタイと天使」「聖マタイの殉教」。

「聖マタイの召命」「聖マタイの殉教」「聖マタイと天使」――あまりに有名なカラヴァッジョの聖マタイ三部作を見ようと、観光客がひっきりなしに訪れて結構な混み具合です。しんぼう強く教会のベンチに腰掛けて、ゆっくり鑑賞できるタイミングを待ちます。

教会の内部は薄暗く、作品を鑑賞するためには照明装置に1ユーロ硬貨を入れて作品をライトアップさせることが不可欠。

三部作の中でも「聖マタイの殉教」の臨場感がすごくて、思わず「怖い」と感じてしまうほど。カラヴァッジョの絵は、まるで写真か実写映画の一コマのように、人々の瞬間的な表情や動きを捉えています。私たち現代の人間が見てもドキッとしてしまうのは、映像世代にも違和感がないからでしょうか?

CHIESA DI SAN LUIGI DEI FRANCESI
住所:Piazza di S. Luigi de' Francesi, 00186 Roma

サンタゴスティーノ教会「ロレートの聖母」

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(左)写真左奥の薄暗い祭壇部分に「ロレートの聖母」があります。(右)1ユーロ硬貨を入れライトアップ。

傑作「ロレートの聖母」がある教会。こちらは見物人が少なく観やすかったです。ひっそりとしている教会の中で物静かな佇まいの聖母マリアと、マンツーマンで過ごせる空間。

聖母子と巡礼者が高貴な身なりではなく、貧しい出で立ちで描かれていることや、マリアのモデルが娼婦であったという理由から、教会にふさわしくないという非難も描かれた当時少なくなかったと言われています。

この教会も大変に暗く、1ユーロを入れると数分間だけあかりが点き、「ロレートの聖母」が目の前に浮かび上がります。

このサンタゴスティーノ教会のすぐ裏には“決闘”を意味する「Al Duello」という名のリストランテがあります。実際にカラヴァッジョがトマゾーニと決闘をして、殺めてしまったパッラコルダ通りはすぐそばです。看板にはアンブロジアーナ美術館に所蔵されている名作「果物籠」の絵柄が使われています。

BASILICA SANT`AGOSTINO IN CAMPO MARZIO
住所:Piazza di Sant'Agostino, Roma

サンタ・マリア・デル・ポポロ教会「聖パウロの回心」「聖ペテロの磔刑」

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(左)サンタ・マリア・デル・ポポロ教会のファサード。(右)教会中央祭壇の左横にある礼拝堂。「聖パウロの回心」「聖ペテロの磔刑」が左右の壁を飾る。

この教会は映画「天使と悪魔」の舞台になったことでも知られています。

ここにあるのは2大聖人を描いた「聖パウロの回心」「聖ペテロの磔刑」。サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会の「聖マタイ三部作」で大成功を収めたすぐ後に発注を受けて描かれたとされています。
室内はやはり暗く、自然光は祭壇画の上の半月型のステンドガラス窓からわずかに射すばかりです。

「聖パウロ〜」「聖ペテロ〜」は思っていたよりずっと小さい絵でした。しかし暗い画面に強いコントラストで描かれているからか、3D効果のようにパウロとペテロがこちらに突き出てくるような迫力。

なお、この教会を訪ねてカラヴァッジョ作品だけを見ていく方も少なくありませんが、それはもったないです。ピントゥリッキオ、ブラマンテ、ラファエッロ、ベルニーニ・・・、カラヴァッジョ以外にも良い作品がいっぱいあるので、ぜひ見ていただけたらと思います。

CHIESA DI SANTA MARIA DEL POPOLO
住所:Piazza del Popolo, 12, 00187 Roma

ボルゲーゼ美術館「蛇の聖母」「ゴリアテの首を持つダビデ」など

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(左)80ヘクタールもの広大なボルゲーゼ公園の中に美術館があります。(右)美術館の「カラヴァッジョの間」。

ボルゲーゼ美術館のコレクションを始めたのは、政治家であり美術収集家であったシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿でした。

シピオーネは熱心なカラヴァッジョのパトロン。のみならずカラヴァッジョが暴力沙汰など問題を起こすとその仲裁をしたりもしていました。また殺人の罪に問われたカラヴァッジョが恩赦の仲介を求めて逃亡先の南イタリアから頼ったのもシピオーネ枢機卿だったとされています。

そうしたふたりの関係もあって、ローマでもっともカラヴァッジョのコレクションが充実している場所と言えばここ。 なお美術館のチケットは予約制なので電話かネットで予め購入しておく必要があります。

まず「蛇の聖母」。この絵はもともとはヴァチカンにあるカトリックの総本山「サン・ピエトロ大聖堂」に飾られていたものです。依頼を受けて制作したのですが、すぐ撤去され(一説によればたった2日で外されたとも)、売りに出されてしまったそうです。

聖母の胸元が大きくはだけていたりして、高貴で無垢という従来のマリアのイメージからかけ離れていたことが原因だったのではと言われています。

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(左)ボルゲーゼ美術館外観。(右)館内の様子。

そして売りに出されたこの作品を安く買い取ったのがシピオーネ卿でした。そうした経緯があって、今日この美術館に収蔵されています。

ただ、ボルゲーゼの展示室は外光が入りすぎて、せっかくの光と影の世界を味わいづらいのがちょっと残念。今もサン・ピエトロ大聖堂の礼拝堂に飾られていたならまったく違った体験ができたに違いありません。

「ゴリアテの首を持つダビデ」。こちらは殺人の罪でローマ教皇から死刑を言い渡され、南イタリアに逃亡したカラヴァッジョが恩赦の仲介をお願いする際に、シピオーネ枢機卿のために描いたとされています。

「洗礼者ヨハネ」。逃亡先の南イタリアからローマへ戻ろうとする道中にカラヴァッジョが携えていた3枚の絵画のうちの1枚です。
結局、カラヴァッジョはローマに辿り着く前に病死、絵だけが船に残されたとされています。
3枚のうちこの絵はシピオーネ枢機卿の手に渡りコレクションに加えられることになりました。残りの2枚は行方不明とされていましたが、2014年、そのうちの1枚が発見されました。それが現在、東京の国立西洋美術館の「カラヴァッジョ展」(6月12日まで開催中)で世界初公開されている「法悦のマグダラのマリア」です。

GALLERIA BORGHESE
住所:Piazzale del Museo Borghese, 5, 00197 Roma

ドーリア・パンフィーリ美術館「エジプトへの避難途上の休息」

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(左)美術館入り口。美しい中庭があります。(右)カラヴァッジョの作品が並ぶギャラリー。

ローマの名家・パンフィーリ家が所蔵するコレクション。ちなみにパンフィーリ家の主カミッロ・パンフィーリは結婚によりこの館の主になったのですが、その結婚相手・オリンピアはボルゲーゼ家に一度は嫁いだもののすぐに未亡人になってしまった女性。カミッロと1647年に結婚しました。その10年後、1657年のカミッロの財産目録には「エジプトへの避難途上の休息」、「悔悟のマグダラのマリア」はパンフィーリ家の所有だと記録があります。ということは、もともと、これらの作品はボルゲーゼ家のコレクションだったのかもしれません。

「エジプトへの避難途上の休息」は、光と影のコントラストが激しい作品ではなく、明るい自然の景色をバックに描かれています。カラヴァッジョには珍しく、とても「優しい」雰囲気のある絵。実はこんなにこんなに自然の描写が上手だったのですね。

「悔悟のマグダラのマリア」は残念ながら貸し出し中でした。

GALLERIA DORIA PAMPHILJ
住所:Via del Corso, 305, 00186 Roma

カラヴァッジョゆかりの「アーティチョーク」

すべてを一日で見ようとすると、結構疲れます。その場合のおすすめは、3つの教会を回ること。カラヴァッジョが「その場所のために描いた」名作絵画を見て味わえるのは、ローマの教会ならではの体験です。

なお、ローマの春の旬の食材といえばアーティチョーク。春に訪れるなら、アーティチョークと、グリンピースとそら豆をニンニクとオリーブオイルで蒸し炒めた「vignarola」という季節限定の料理をおすすめします。そういえば、カラヴァッジョ、1604年に居酒屋の給仕にアーティチョークのソースが気に入らないと言って殴るという事件を起こしていますね。

ではでは、良い旅をお楽しみください!