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2017年9月 3日 / 第50回 横浜へ ヨコハマトリエンナーレ2017をまわる旅

11月5日まで開催中の現代アートフェスティバル「ヨコハマトリエンナーレ2017」。そのあいさつ文には「作品を通して世界や人間についての思いを深める機会に」と書かれています。会場をまわって、番組でご紹介できなかった展示を中心にレポートします!

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横浜美術館に入ったところの様子。インドネシア出身のアーティスト、ジョコ・アヴィアントの作品の存在感がすごい。 ジョコ・アヴィアント《善と悪の境界はひどく縮れている》2017 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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メイン会場は横浜美術館 

今回のトリエンナーレには「島と星座とガラパゴス」という、ちょっと謎めいたタイトルがつけられています。現在の社会に展開されているさまざまな事象や問題を「島」になぞらえ、またそれらを想像力でつなぎ合わせることを「星座」に、あえて孤立した環境のもと独自の進化を遂げるユニークなケースを「ガラパゴス諸島」にたとえています。鑑賞者ひとりひとりがこの展覧会をヒントに、物事をつなげて考えたり、もう一度バラバラにして見つめたりして欲しい。そんなメッセージが込められているようです。
現代アートの作家だけでなく、哲学や文化人類学、地政学などさまざまな領域の専門家も展覧会に参加し、それぞれの見地から今回のテーマを探求した展覧会になっています。

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さまざまな分野の研究者たちが現在の世界のあり方についての公開対話を行う「ヨコハマラウンド」に関連した展示などを行う「ヨコハマラウンジ」のコーナー。会話の内容をダイアグラム化したものが展示されていた。

深く学ぶこともできれば、遊びのように体験することもできるといった懐の広さがあって、子どもや若いカップルから学者・研究者まで、それぞれの楽しみ方が可能な場となっていました。知のコンソーシアムのようでもあり、遊園地のようでもある、そんな印象です。

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イタリア出身のアーティスト、パオラ・ピヴィの作品の前で思い思いの写真を撮る人たち。 パオラ・ピヴィ《I and I(芸術のために立ち上がらねば)》2014など Courtesy the Artist and Perrotin ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

受け身で見るだけではなく、積極的に関与できる作品が多かったのも印象的でした。たとえばデンマーク生まれのアーティスト、オラファー・エリアソンのブースでは「ランプを組み立てるワークショップ」開催の予定が告知されていました。お客さんと一緒に緑色のライトを付けたランプを組み立てるとのことですが、緑のライトは海外では難民受け入れを意味する光でもあるそうです。手を動かす中で考えることを促し、社会に受け入れられない人々のことを自分たちに関係ないものではなく「私たちの問題」としようと呼びかけています。

説明ボードには「相互理解を深めるための共に学び合う場を実施するプロジェクト」とも書かれていました。共に学び合う場、このトリエンナーレのメッセージそのものを表している言葉かもしれません。

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オラファー・エリアソンの展示。8月後半からランプづくりのワークショップを行うとの予告が。(※取材は8月上旬) オラファー・エリアソン 「Green light-アーティスティック・ワークショップ」 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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オラファー・エリアソンの別の作品。黄色い光に引き寄せられるようにして来場者たちがやってきていた。 オラファー・エリアソン《Eye see you》2006 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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操り人形で国家や宗教の衝突を表現した、エジプト出身、ワエル・シャウキーの映像作品。 ワエル・シャウキー《十字軍芝居:聖地カルバラーの秘密》2015 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

展示のほとんどは自由に写真に撮って良いとのことで、来場者は思い思いに好きな作品のところで撮影を楽しみ、それ自体がこの展覧会らしい「つながる」行為のように感じられました。
また、カラフルな積み木のような形をした、南アフリカ出身のブルームバーグ&チャナリンの作品の部屋では、子どもたちが放課後の遊びとでもいうように、時間を忘れてオリジナルな積み木の形をつくっていました。
作品の説明文には、カラフルな色のひとつひとつはロンドンの自爆テロ事件でカメラに写った容疑者の姿から色だけを抽出したものと書かれていました。目の前に広がるほのぼのとした光景とのギャップに驚きます。

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紛争をテーマにしているブルームバーグ&チャナリンの作品だが、子どもたちは自由な創作欲で組み替えを楽しんでいた。 ブルームバーグ&チャナリン「痕跡証拠」 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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来場者によって、どんどん新しい形が生み出されていた。 ブルームバーグ&チャナリン「痕跡証拠」ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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写真家・畠山直哉が東日本大震災以降頻繁に故郷・陸前高田を訪れ撮った写真作品。 畠山直哉《陸前高田市高田町 2012年6月23日 #2》2012 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

この展覧会は音声ガイドも充実、展示によっては作品をつくった作家本人の肉声で説明を聞くこともできます。写真家・畠山直哉さんが自身の郷里・陸前高田を震災以降に撮った写真の前で音声ガイドを立ち上げると、畠山さん自身の声が流れます。「風景の美は、人間を踏みにじるような自然災害の後でも同じ美なのでしょうか」。何とも言えない気持ちで写真の前で立ちます。

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世界のさまざまな場所で採取された化石をビーズ玉に加工しネックレスにした、イギリス生まれ、ケイティ・パターソンの作品。壮大な時間がこの中に詰まっている。 ケイティ・パターソン《化石のネックレス》2013 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

化石あり、操り人形あり、ぬいぐるみあり、スタンプあり、オタクカルチャーあり、ウニの標本あり……。まさに散らばった島のように、さまざまなアプローチを取る作品たちと自分なりの対話を試みている鑑賞者の様子がそこここで見受けられた展覧会場でした。

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日本独自の進化を遂げてきたオタクカルチャーをテーマに表現する日本人画家、Mr.(ミスター)の作品。 ミスター「ごめんなさい」ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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香港を拠点に活動するアーティストグループ「マップオフィス」。作品タイトルは「色覚障害のための島」。よく見ると緑色と桃色をしたウニの殻で構成されている。 マップオフィス《色覚障がいのための島》2014 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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横浜美術館の正面は、難民救済をテーマにした中国のアーティスト、アイ・ウェイウェイの作品で飾られている。その前の噴水広場で子どもたちが平和に遊んでいた。 アイ・ウェイウェイ(艾未未)《Reframe》2016、《安全な通行》2016 ©Ai Weiwei Studio ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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会場間の移動に使われているバスにも作品が。アメリカ人アーティスト、ジェニー・ホルツァーによる言葉のアート。 ジェニー・ホルツァー《自明の理》より、1977-79 (2017) ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

横浜赤レンガ倉庫1号館と横浜市開港記念会館

ヨコハマトリエンナーレ2017のメイン会場には、他に横浜赤レンガ倉庫1号館と横浜市開港記念会館があります。いずれも大正時代に建てられた歴史ある建物の空間を活用していますが、とりわけ横浜開港記念会館は意匠も見事な、横浜の代表的な歴史建造物のひとつ。1917年の創建なのでちょうど100年になります。トリエンナーレと合わせて建物の風情も味わってみてください。
柳幸典さんの作品が設置された横浜市開港記念会館の地下空間は異世界に足を踏み入れたようなドキドキ感があります。  

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横浜市開港記念会館の地下に展示されている、憲法9条をテーマにした柳幸典の作品。真っ赤なネオンに照らされたがれきの山。 柳幸典《Article 9》2016 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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赤レンガ倉庫での展示より、宇治野宗輝の動く作品。展示を見入る人だかりができていた。 宇治野宗輝《プライウッド新地》2017 ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

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疲れたらひと休み。港沿いに広がる山下公園にて。

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戦後、闇市や屋台が並んだ時代から横浜のにぎわいをつくってきた野毛町で焼き鳥をいただく。 

周辺で行われているアートプログラム

ヨコハマトリエンナーレ2017のプログラム以外にも、この機会に見られるアートスポットやプログラムをご紹介します。
横浜市は2004年よりアーティストやクリエーターが創作・発表・滞在することで街の活性化を図る「創造界隈」拠点の形成に力を入れてきました。

そのひとつが2004年から続くBankART1929が運営する、古い港湾倉庫をリノベーションした文化施設BankART Studio NYKです。それ以前は長らく空き家になっていた倉庫でしたが、現在では美術や建築などに関わるプログラムが年間400以上行われ、展覧会や市民講座、アーティストの滞在制作プログラムなども催されています。トリエンナーレ期間中に行われている「BankART Life V」という展覧会は広大な空間を使い、ヨコハマトリエンナーレと並んで見ごたえがあります。

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元倉庫だった空間が展示スペース、カフェ、本屋、講座の教室などになっているBankART Studio NYK。13年の歴史があり、横浜の地場の文化として根付いている。

また京急本線の日ノ出町駅〜黄金町駅の界隈も「創造界隈」拠点のひとつ。ここでもトリエンナーレに合わせて「黄金町バザール2017」という特別展が開催中です。この一帯、かつて違法風俗街だったイメージが尾を引き、再開発なども滞る中、アーティスト・クリエーターの集積地とする案が打ち出されました。それまでと違う人の流れが生まれ、治安も良くなり黄金町のイメージを変える原動力となっています。現在は常時50組くらいのアーティストが拠点としているそうです。この機会に肌で感じてください。

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黄金町の建物のシンボルともなっている、アーティストのスタジオに描かれた壁画。

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元違法風俗店の跡がアーティストの工房やギャラリーに変わり新たな景色がつくりだされている。

また、前回のヨコハマトリエンナーレ2014のときから始まった「パラトリエンナーレ」もあります。こちらは障がいのあるなしに関わらず多様な市民とアーティストが一緒にチームを組み、新しい芸術表現を発信する祭典。現在は創作と公開練習の最中で、10月に「象の鼻パーク」で「不思議の森の大夜会」をテーマにしたパフォーマンスがお披露目される予定です。

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(参考写真)前回のヨコハマトリエンナーレに併せて開催された「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」での、パラトリパレードの模様。Photo=427FOTO 写真提供=横浜市

今年は大政奉還から150年目にあたります。ぜひ横浜で、頭をオープンにして世界や人と新しいつながりをする、そんな時間をお楽しみください。

展覧会情報

「ヨコハマトリエンナーレ2017」
11月5日まで
会場:横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館ほか
開場時間 午前10時〜午後6時 休場日 第2・第4木曜
※10/27-29、11/2-4の6日間は午後8時半まで開場

「BankART Life V -観光」
11月5日まで
会場:BankART Studio NYK
開場時間 午前10時〜午後7時 休場日 第2・第4木曜

「黄金町バザール2017」
vol.1 開催中〜9月13日まで vol.2 9月15日〜11月5日
会場:初黄・日ノ出町地区(黄金町エリア)
開場時間 午前11時〜午後6時30分 休場日 第2・第4木曜
※10/27-29、11/2-4は午後8時半まで

「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」
創作=9月30日まで/発表=10月7日〜10月9日
会場:象の鼻パーク、象の鼻テラスほか
※時間・休場日はウェブサイトでご確認ください。

住所/アクセス

◎横浜美術館
横浜市西区みなとみらい3-4-1
みなとみらい線「みなとみらい駅」から徒歩3分
JR・横浜市営地下鉄「桜木町駅」から<動く歩道>利用徒歩10分
(「ヨコハマトリエンナーレ2017」チケットで利用できる会場間無料バス運行あり)

◎横浜赤レンガ倉庫1号館
横浜市中区新港1-1-1
みなとみらい線「馬車道駅」または「日本大通り駅」徒歩6分
JR・横浜市営地下鉄「関内駅」または「桜木町駅」徒歩15分
(「ヨコハマトリエンナーレ2017」チケットで利用できる会場間無料バス運行あり)

◎横浜市開港記念会館
横浜市中区本町1-6
みなとみらい線「日本大通り駅」徒歩1分
JR・横浜市営地下鉄「関内駅」徒歩10分
(「ヨコハマトリエンナーレ2017」チケットで利用できる会場間無料バス運行あり)

◎BankART Studio NYK
横浜市中区海岸通3-9
みなとみらい線「馬車道駅」徒歩5分
(「ヨコハマトリエンナーレ2017」チケットで利用できる会場間無料バス運行あり)

◎初黄・日ノ出町地区(黄金町エリア)
横浜市中区日ノ出町、初音町、黄金町一帯
京急線 「日ノ出町駅」または「黄金町駅」徒歩3分
JR・横浜市市営地下鉄「桜木町駅」または「関内駅」徒歩15分
横浜市市営地下鉄「伊勢佐木長者町駅」徒歩10分
(「ヨコハマトリエンナーレ2017」チケットで利用できる会場間無料バス運行あり)

◎象の鼻テラス
横浜市中区海岸通1丁目
みなとみらい線「日本大通り駅」徒歩3分
横浜市開港記念会館より徒歩3分