ボラ仲間の活動リポート
東京都小金井市にあるNPO「地域の寄り合い所 また明日」は、認知症のある高齢者が通うデイホームと、子どもが通う保育所を、同じ建物の中で運営しています。
「また明日」では多数の地域の人たちが訪れ、ボランティアで活動に参加しています。施設を利用するお年寄りや子どもと、地域の人たちとの橋渡し役になっているのが併設されている「寄り合い所」です。様々な世代の人たちがお互いを支え合っている様子を取材しました。
高齢者と子どもが同じ空間で過ごす
東京小金井市。NPO「地域の寄り合い所 また明日」は武蔵野の面影を残した昔ながらの住宅街の一角にあります。
- 認知症のある高齢者が日中を過ごす「高齢者デイホーム」
- 乳児や幼児の通う「保育所」
- 地域の人が誰でも訪れて他の利用者と交流できる「地域の寄り合い所」
それぞれのスペースは分かれていますが、間に仕切りはありません。また各事業ごとの担当者は決まっているものの、利用者や職員は自由に交流できるようになっています。
ドアを開けると、子どもたちの笑い声と泣き声がにぎやかに聞こえてきました。
ソファーに座っている高齢者が、その様子をゆったりくつろぎながら見守っています。
「おやおや、あっちこっちから泣き声が聞こえるよ。まるで山びこみたいだね……。」とおばあさん。
「そうですね……、あれ?この子はおばあちゃんの方を見て泣いていますよ?何かして欲しいのかな?」とヘルパーが声をかけると、おばあさんは「ずいぶん泣き虫な子だねぇ。ほら見てごらん。」と身に着けていたペンダントを見せました。赤ちゃんは興味津々。泣きやんでペンダントに見入っていました。
一方、「寄り合い所」のスペースでは、学校を終えた中学一年生の女の子が、赤ちゃんのお守りをしたり、小さな女の子と音楽に合わせて踊ったりと、大活躍しています。「子どもが好きなので、学校を終えた後よく遊びにきます。」とのこと。職員から「早く大きくなってウチに就職してね!」と言われ、ちょっと照れくさそうにしていました。
このように「また明日」では、高齢者、子ども、職員、そしてボランティアで訪れる地域の人たちが同じ空間で過ごしており、様々な世代の人たちが、お互いに世話をし合い、自然な交流が行われています。
お互いの「支え合う力」を引き出す
「また明日」を運営しているのは、森田和道さんと眞希さんのご夫妻。
介護福祉士の和道さんは、デイホームの責任者として、認知症のある高齢者のケアを担当しています。また保育士の眞希さんは保育所の責任者として、乳児と幼児の保育を担当しています。
和道さんは、以前仲間たちと認知症のある高齢者のためのデイホームを運営していました。あるときデイホームの一部を「寄り合い所」として地域の人たちに開放したところ、認知症のある高齢者と地域の人たちの間で交流が生まれ、そのことによって高齢者の感情表現が豊かになったり、行動が活発になることに気付いたそうです。そこで、「「デイホーム」と「寄り合い所」を併設して、さらに「保育所」も一緒に設置することで、高齢者・地域の人・子どもの三者それぞれが交流を深めて、お互いの力をより引き出せるのではないか」と考え、今から3年前、新たに「また明日」を立ち上げました。
和道さんは「介護施設や保育所の中では、お年寄りや子どもは「お世話される側」であることが普通です。しかし「また明日」ではお年寄りが子どもを抱っこしたり、子どもがお年寄りのお手伝いをしたりと、お互いが支え合う存在になっていきます。そのことがお互いの力を引き出すことにつながるのです。ただし、一緒の空間で過ごすだけではこうした関係は生まれません。利用者同士の関係を積極的につくる意識を職員みんなで共有することが大切なんです。」と言います。
誰でも訪れることのできる「寄り合い所」
「また明日」は、施設に通うお年寄りと子どもの中に、地域の人たちが加わって、世代間の交流をしているのが大きな特徴です。
高齢者や子どもと、地域の人との橋渡しを担っているのが「寄り合い所」です。誰でもいつでも訪れることができる寄り合い所には、ご近所のお年寄りや親子連れ、あるいは小学生や中学生など様々な人が訪れ、高齢者や子どもと交流を深めているそうです。
「寄り合い所」を担当しているのは吉田百合子さん。吉田さんは保育士として「また明日」の保育所の仕事をしながら、「寄り合い所」にやってくる地域の人がお年寄りや子どもと交流を深められるよう、働きかけています。
「地域の人が訪れたとき、まずは「いらっしゃいませ」と声をかけます。そして相手がどんな思いでここにいらしたのか、じっくりお話を聞くことにしています。お互いの関係ができてきたら、たとえば近くに子どもがいるとき「ちょっとこの子見ててもらえますか?」とか、お年寄りがお茶を飲みたそうにしているときに、「ちょっとそのお茶とってもらえますか?」と声をかけるなど、一つ一つの小さなきっかけを生かして子どもやお年寄りとつなげていきます。決して強制はしないけれど、訪れた地域の人をお年寄りや子どもと結びつけて行く姿勢をいつも忘れないようにしています。」と吉田さん。
「この前は地域の子育て支援センターの紹介で、子育てに悩むお母さんが、自分のお子さんと一緒に「寄り合い所」にいらっしゃいました。最初は趣味のことやおうちのことなどについて、お話を聞いていました。何回か来ていただいてお母さんの気持ちに余裕ができたところで、デイホームに通うお年寄りと話をしてもらったり、他の子どもを抱っこしてもらったりしました。今では自分からお年寄りに声をかけたり、お茶を運んだりしてくださいます。最初のころに比べると、お母さん自身の表情もとても明るくなってきました。」
「他には、ご近所に住む方で、献立作りや買い出し、そして調理までやってくださる方がいます。お手伝いだけでなく、ときどき大きなカステラを焼いてきてくださり、みんな大喜びでいただくこともあります。こうなるとボランティアどころか、完全に持ち出しですね(笑)。ケーキ作りがとても上手な方なのですが、自分のお子さんが独立されてからは、なかなか腕をふるう機会がなかったそうです。でも「また明日」にいらしてからは、「ケーキを作るとみんな喜んでくれるから」と持ってきてくださるんです。」と吉田さんは言います。
取材前は、初めて訪れた人がお年寄りや子どもと交流を深めていくことはなかなか難しいのではないかと思っていましたが、吉田さんのお話を聞いて、職員の細やかな気配りがあり、訪れる人とまた明日を利用する高齢者や子どものニーズが合うことで、お互いの交流を可能にしていることがわかりました。
「また明日」を支える地域の人たち
「また明日」には不定期に「寄り合い所」を訪れる人の他にも、定期的に訪れるボランティアの人もいます。台所で食事の準備や食器洗いをしていた土持さん。「また明日」が設立された3年前から職員として高齢者のお世話をしていたそうです。今年3月に「また明日」を退職しましたが、今でもボランティアで週1回、食事や洗濯のお手伝いに来ています。
「私は若い頃、本当は働きたかったんだけど幸い7人の子宝に恵まれて(笑)、ずっと主婦をやってました。長男の嫁だったこともあって、「また明日」と同じようにおじいちゃんおばあちゃんたちのまわりにたくさんの子どもがいる家でした。だから、働こうと思ってここを紹介されたとき、懐かしい気持ちがしたのね。」
──退職したあとも、ボランティアとしてお手伝いに来ようと思ったのはどうしてですか?
「お年寄りや子ども、そして地域の人が誰でも訪れることができるという、「また明日」の理念が素晴らしいと思っています。それと職員や利用者のみなさんの暖かい雰囲気。今でもずっとここに来ているのは、その二つがあるからですね。」と土持さんは言います。
リビングでは、紙芝居の読み聞かせが始まっていました。お年寄りも子どももみんな集まっています。読み聞かせをしているのは、隣の国分寺市にあるフリースクール「学びの広場」の加藤正文さん。2年ほど前から隔週で「また明日」を訪れ、ボランティアで紙芝居の読み聞かせをしています。この日は、知的な障害があり「学びの広場」に通っている泉谷さんと一緒に来ていました。
加藤さんは「紙芝居のよいところは、話をしながら、観ている人と対話できることです。お年寄りや子どもたちに質問したり、感想を聞いたりしながら読み進めていきます。「また明日」のみなさんは、本当によくお話を聞いてくれます。読む側としてもやりがいがあります。」と言います。職員が、みんなの注目を促したり、盛り上げてくれたりと、細やかな心配りをしてくれることも大きいと言います。
加藤さんは、この日同行していた泉谷さんにとっても「また明日」で過ごす時間は大切な経験になっていると言います。「彼は今、将来の就労に向けて準備中です。こういう時期に多くの人と接する験をしてもらいたいと思っています。」と加藤さん。「職員に声をかけてもらったり自分から声をかけたりする経験、お年寄りや子どもの中で時間を過ごす経験が、将来仕事に就いたとき上司や同僚と良い関係を作る上で重要になります。」とのこと。
「彼は「また明日」に行くと、目に見えて生き生きとしていますね。普段はゆっくり歩いているんですが、ここに来るときは早足になるんですよ。とても楽しみにして、やりがいを感じているんだと思います。」と加藤さん。
泉谷さんは、お年寄りや子どもたちの輪に囲まれて、ニコニコと楽しそうに過ごしていました。
「また明日」にはお年寄りがいて、子どもがいて、その中間に職員の方がいて、あらゆる世代の人々が和やかな雰囲気の中で過ごしている。これって、生き物としてとても自然な形だと思うんですよ。こういう場所がもっと増えていくとよいと思っています。」と加藤さんは言います。
大きな家族のように
このように、「寄り合い所」には多くの人たちが訪れ、高齢者や子どもと交流しながら「また明日」の活動を支えています。意外なことに、「寄り合い所」の宣伝は特にしておらず、口コミで人が集まってくるといいます。紙芝居の読み聞かせをしていた加藤さんが話してくれたように、異なる世代の人たちが交流する中で生まれる和やかな雰囲気が、自然と人を集めているように思えます。
ただ、訪れる人々は必ずしも介護や子育てのプロフェッショナルではありません。そのため、訪れた人が高齢者や子どもと関わっていく上で、危ないことはないか、お年寄りや子どもに自分のやり方を押し付けすぎていないか、誰かに負担がかかりすぎていないかと、職員はいつも気を回しているとのこと。そのため、これまで大きなトラブルや事故は起ったことがないそうです。
「職員にとっては、地域の人が入ってくれて助かっているのが半分、大変なことも半分といったところです。でも、地域の人が入ってくれることで、「また明日」を利用するお年寄りや子どもは様々な世代の人たちと交流することができます。この形はこれからも続けていきたいですね。」と保育所を担当する森田眞希さんは言います。
さらにお話を伺ってみました。
──異なる世代の人たちが集まり一緒に過ごしていることについて、高齢者の家族や子どもの親はどう感じているのでしょうか。
「みなさん喜んでいらっしゃいます。「また明日」に子どもを通わせているあるお母さんは、自分の子どもが買い物のときすれ違うお年寄りに挨拶するのを見て驚いたそうです。その子は「また明日」の経験があったから、お年寄りに挨拶する習慣がついていたんですね。お母さんは、それを見て嬉しいと思っただけでなく「自分自身も勉強した。」とおっしゃっていました。こうした小さな出来事の積み重ねが、地域全体の支え合う力を高めていくのだと思います。」
──「また明日」に来ている地域の方々を見ていると、「ボランティア」というよりはまるで「家族」のように見えます。
「そうですね。たとえばホームパーティでは、みんな楽しみながらもホスト役とゲスト役といった緩やかな役割がありますよね。ホスト役はみんなの様子を見ながら、話題を提供したり興味のあう人を結びつけたりします。私たちがやっていることはそれに近いかもしれません。そういえば、認知症のあるお年寄りの方が、私が働いているのを見て「お嫁さん、少しお休みになったら?」と声をかけてくれたことがありました。大きなお家に遊びにいらしたつもりで、私が本家の嫁だと勘違いされてしまったようです(笑)。」
高齢者・子ども・地域の人々、そして職員がまるで大家族のように過ごしている「また明日」。そこで生まれた支え合いの心は、寄り合い所を訪れる人々や利用者の家族によって、地域に拡がりつつあると感じました。
2010年8月19日掲載 取材:松本
今回紹介した団体へのリンク:
NPO 地域の寄り合い所 また明日
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今回取材した「また明日」について、 「NHK厚生文化事業団 子どもサポートネット」に子どもとお年寄りの関わりをより詳しく取材した記事が掲載されています。そちらもぜひご覧ください。(クリックするとNHKサイトを離れます)