井上 裕貴

2019年09月19日 (木)

息遣いが聞こえる地 井上裕貴

ひとりの名もない電気工が、労働運動のリーダーとして立ち上がり、

やがてそれが国の民主化運動に拡大し、最後は自ら大統領にまでなってしまう。

そんな映画のような実話(のちに映画化されましたが)の舞台に、休暇で行ってきました。

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ポーランド北部のグダニスクです。

バルト海に面した港湾都市として各国との交易で栄え、旧市街の街並みもこんな感じ。

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ゴシック、ルネサンス、バロック建築などが混じり合い、自由で開かれた雰囲気が漂っています。

国を動かす民主化運動は、この町にあった造船所から始まりました。

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ときは1980年代。

まだ旧ソビエトの影響下で、社会主義政権だったポーランド。

悪化する労働環境に、日用品の高騰など、人々は体制に不満を募らせていました。

そんな中、造船所の電気技師だったワレサ氏が、自主管理労組「連帯」を仲間と組織して、ストライキを決行。

労働運動に止まらず、国全体の民主化運動へと発展し、社会主義政権下で初めての自由選挙をやってのけます。

これが冷戦終結につながる、旧東欧諸国の民主化の先駆けとなったのです〜。

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このサクセスストーリー、物語の途中には権力からの弾圧や仲間の死、

ワレサ氏がノーベル平和賞を受賞する上、ついには大統領になってしまうなど、映画の要素がてんこ盛り!

…と、仰々しい説明はさておき、詳しくはどうぞ旧造船所に設けられた博物館まで(笑)!

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上記の写真に「89」とありますが、今年は民主化運動で実現した自由選挙から、ちょうど30年。

世界では、今なお民主化を求める声だったり、それを阻む強権的な体制があったりしますが、

自由を渇望し、それを勝ち取った当時の民衆の熱と息遣いが鮮明に感じられる場でした。

 

一方…。

 

その息遣いの苦しさ、絶望の深さが、想像をどれだけ尽くしても及ばない場所も。

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ポーランド南部にある、アウシュビッツ強制収容所です。

銃殺の壁、首吊り場、拷問部屋、そしてガス室。どの場所も、目一杯気持ちがこたえます。

でもそれ以上に、こちら。

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ここで何が待っているのか気づく人もいながら、調理器具などを大事に持参していたのです。

写真だけでは分からない、使い込まれた形跡が残る日用品の数々に、

最期まで守ろうとした人間としての尊厳が詰まっているような気がしました。

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予備知識はあったものの、実際に身を置いてみると、改めて多くの問いや感情が湧いてきますね。

時代や歴史の息遣いに耳を傾けることの大切さを、静かに、しかし真っすぐ訴えかけてくる地でした。

この記事を書いた人

井上 裕貴アナウンサー

2007年入局。松江局を経て2011年からアナウンス室勤務。 「おはよう日本」「ニュースウオッチ9」リポーターとして、 国内外の災害や事件・事故などを取材。 その後「これでわかった! 世界のいま」キャスターを担当した。 兵庫県出身。2歳から18歳までアメリカ・カリフォルニア州で過ごした。

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