【解説】ウクライナ ハルキウ州にロシア軍が北から侵入で攻勢

ウクライナ東部ハルキウ州では、ロシア軍の地上部隊が北から国境を越えて侵入し、攻勢を強めています。

アメリカのシンクタンクは、ロシア軍がハルキウ州北部で「戦術的な足場」を確保したという見方を示し、さらに進軍を目指す可能性が高いと分析しています。

ロシアの狙いは何か?

専門家は、陽動作戦の狙いもあるのではないかと分析しています。

地元知事“敵はハルキウ州北部で新たな段階作戦を開始した”

ウクライナ東部のハルキウ州では10日、地元知事がロシアとの国境に近い地域がロシア軍の大規模な砲撃を受け「敵はハルキウ州北部で新たな段階の作戦を開始した」と指摘しました。

ウクライナ軍の参謀本部はNHKの取材に対し、ロシア軍の地上部隊が北から国境を越えてハルキウ州におよそ1キロ侵入したと明らかにしました。

そしてロシア軍のねらいはウクライナからロシア領内への砲撃などを防ぐために、国境から10キロ程度の幅の緩衝地帯を設けることではないかという見方を示しています。

ハルキウ州と国境を接するロシア西部のベルゴロド州ではウクライナ側からの攻撃に警戒が強まっていて、安全上の理由から5月9日の戦勝記念日の軍事パレードが中止されたほか、ベルゴロド州の州知事は11日、ウクライナ側からの攻撃で住民8人がケガをしたとSNSに投稿しました。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は10日の分析で今回の作戦でロシア軍がハルキウ州北部で「戦術的な足場」を確保したという見方を示し「ロシア軍はベルゴロド州との国境からウクライナ軍を押し返し、ハルキウ市を砲撃の射程内に収めるために部隊の進軍を目指す可能性が高い」と分析しています。

一方で「ロシア軍がハルキウ市を包囲し、占領するための全面攻撃を直ちに行うことは意味しない」としていてロシア軍がウクライナ東部の他の前線で進軍をねらううえで、ハルキウ州にウクライナ軍の部隊を引きつけさせる思惑もあると指摘しています。

ゼレンスキー大統領“軍の部隊や大砲などで対抗”

ゼレンスキー大統領は記者会見で「ロシアがこの方面で新たな攻勢を始めた。ウクライナは軍の部隊や大砲などで対抗した」と述べ、ロシア軍の攻撃を事前に察知して準備を整えていたと強調しました。

首都キーウの外交筋によりますとロシア軍のハルキウ州内への侵入は、おととし9月にウクライナ軍が州のほぼ全域をロシアから奪還して以降、初めてとみられるということです。

専門家が解説 ロシアのねらいは?今後の見通しは?

ロシア軍の地上部隊が北から国境を越えて東部ハルキウ州に侵入したねらいについて、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事に聞きました。

兵頭氏は、ウクライナからロシア領内への越境攻撃が去年から続いていることが背景にあるとしたうえで「ウクライナ側からロシア領内の軍事拠点への攻撃が進んでいくと、軍事的なダメージをロシア軍も受けることになる。ハルキウ州内に進軍することによって国境地帯に緩衝地帯を作り、ロシア領内への砲撃を抑止したいねらいが第1にあると思う」と指摘しています。

また「ハルキウ州で新たな戦線を開くことによってウクライナの防衛線を拡大させることになる。ウクライナ軍の一部をハルキウ州などに転戦させ、戦力を分散させることでドネツク州での軍事的な掌握を拡大しようとするねらいも大きい」と述べ、攻勢をかける東部ドネツク州を掌握するための陽動作戦のねらいもあると分析しています。

そのうえで、このタイミングでハルキウ州に侵入した理由については「アメリカによる軍事支援が再開されてウクライナ軍に大量の軍事物資が運ばれることになる。ロシアとしては、その前に攻勢を強めていく必要に迫られたと思う。政治的にはプーチン大統領の新たな任期が始まり、ロシア国内で不安材料とされてきた越境攻撃に対して何らかの対応を迫られた」と話しています。

今後の見通しについては、ロシア軍はハルキウ州への攻撃を強めていくことが予想されると指摘しています。

そのうえで「ウクライナ側がハルキウの防衛にどの程度兵力を割くことになり、東部の戦線にどのような影響を及ぼすか、それによって東部でロシア軍の占領地域の拡大がどの程度進んでいくかが大きな注目点だ」と指摘し、ウクライナとしては、軍の動員に関する改正法が施行されたあと、兵力の拡充をどこまで踏み切るかも焦点になるという見方を示しています。

カービー補佐官“時間がたてば米支援で攻撃に耐えれる”

アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は10日、記者団に対し、ウクライナ軍と同様の見方を示し「ロシアは国境沿いに緩衝地帯を構築しようと、今後、数週間で砲撃を激化させ、追加の部隊を投入する可能性がある」と指摘しました。

その上でウクライナに対して、およそ4億ドル、日本円にしておよそ620億円相当の軍事支援を新たに決定したとしています。

具体的には、アメリカ軍が備蓄している防空システム「パトリオット」のミサイルや砲弾などが含まれるということで、カービー補佐官は供与を急ぐ考えを示しました。

さらにカービー補佐官はロシア軍が防衛線を大幅に突破することはないとの見方も示し「時間がたてばアメリカの支援が入り、ウクライナは2024年を通じて攻撃に耐えることができるようになるだろう」と述べました。

米 高機動ロケット砲システムも売却へ

およそ4億ドルの軍事支援とは別に、アメリカ政府は10日、ウクライナに対し、高機動ロケット砲システム=ハイマース3基など、総額3000万ドル、日本円にしておよそ46億円相当の武器の売却を決め、議会に通知したと明らかにしました。

売却代金は、ドイツ政府がウクライナ政府の代わりに負担するとしています。

ハイマースは、軍事車両にロケット弾の発射システムを搭載した兵器で、機動性と精密な攻撃力を兼ね備えているとされます。

アメリカ政府は声明で「ウクライナの防衛力を高めることができる」としていて、ロシア軍がウクライナ東部ハルキウ州で攻撃を仕掛ける中、ウクライナへの軍事支援を急いでいます。