都内で最も小さい信金の決断 守れるか「おせっかい」

都内で最も小さい信金の決断 守れるか「おせっかい」
3月、東京の2つの信用金庫が合併に合意した。都内の信金の合併は実に19年ぶりとなる。人口が多く企業活動も盛んな東京での合併は驚きを持って受け止められた。

信金は地域に根ざした非営利の金融機関で、全国に254ある。地域の中小企業や個人事業主を支えてきたが、経済に大きな変化が押し寄せる中、いま、その存在や役割が改めて注目されている。

合併を決めた東栄信金の決断の背景に迫る。

(経済部記者 斉藤光峻、真方健太朗)

都内「最小」の危機感

JR東京駅から電車で15分ほどで到着するJR新小岩駅。

駅近くの昔ながらのアーケード商店街にあるのが「東栄信用金庫」だ。

東京の下町・葛飾区を拠点とし、預金量は1400億円と都内に23ある信金の中では最も小さい。

都内で16番目の預金量の足立成和信金との合併を決めた。

この信金を8年にわたって率いてきたのが北澤良且 理事長(68)。

私たちに商店街を案内しながら、今回の合併を決断した理由は「危機感」だと明かした。
北澤良且 理事長
「この商店街もコロナをきっかけにお店が結構入れ替わった。特に少子高齢化が進んで、昔ながらの老舗が減少し、若い世代の経営者たちと結びつきが少ないのが課題だ」
少子高齢化と人口減少は、地方だけでなく東京にも迫り来る課題だ。

葛飾区の推計では、人口はいまの46万人余りから2040年には1万人以上減少するとみられている。
だからといって信金は、大手銀行や地方銀行のように若い世代が多い地域に進出することはできない。

定款で定められた営業エリアの外に進出することは原則できないからだ。

こうした中で懸念されるのが「預金の減少」だ。

この信金の預金量は去年9月末時点で1433億円。

これまで増加傾向が続いてきたが、前の年に比べ1%余り減少した。

高齢化が進み、相続をきっかけに銀行やネット銀行に預金が流れる動きも背景にあるという。

今後は、取り引き先が減少するのではないかという懸念もある。

それが加速すれば、貸し出し機能が低下し、地域経済の衰退を招くという“負のスパイラル”に陥るおそれがある。

その危機感から出てきたのが、合併という選択肢だった。

経営の効率化やデジタルの強化などを進め、経営基盤を強化する狙いだ。

しかし、金融機関どうしの合併は簡単ではない。

理事長どうしの人間関係、地域の盟主としてのプライド、地元や従業員からの反応など難しい要素が絡み合うからだ。

北澤理事長が、隣の足立区を地盤とする足立成和信金と合併に関する話を始めたのは5年ほど前だという。

ことし3月に開いた合併を発表する会見では、時間をかけて交渉する中で、地域や信金の将来への考え方が一致したことを強調した。
足立成和信用金庫 土屋武司 理事長
「人数が増えてマンパワーが増えれば、やれることもいろいろある。小粒なもの同士だが、お互いの良さをいっそう発揮できるようにしていきたい」
東栄信用金庫 北澤良且 理事長
「少子高齢化の波がすごい早さで進んだ。新しい社会の変化に向けて力を入れるためにはどうするか検討する中で新しい金庫を作ろうという考えにいたった」

“おせっかい”を守りたい

合併という重大な決断をした東栄信金だが、目指す姿は明確だ。

それは地域の最後の貸し手としての存在感を発揮し続けること。

キーワードは「おせっかい」だ。

この信金では、8年前、若い経営者など新たに事業を起こそうという人たちを支援する「創業塾」を設けた。
事業計画の作成や従業員の採用のサポートを無料で実施する。

これまで400人以上が受講し、6割近くが起業。

その多くが融資先になった。

創業塾出身で、WEB広告の制作会社を立ち上げた30歳の男性は、いつでも駆けつけてくれる信金の「おせっかい」が、事業を続けるうえで欠かせないと話す。
広告制作会社 茂木敦史 社長
「登記のやり方や運転資金の計算、補助金の申請の方法など、面倒をすべて見てくれた。僕は信金を本当に同じ会社のメンバーだと思っているし、何かあれば頭の中で信金さんのことが思い浮かぶ。僕が風邪をひいた時に、わざわざ事務所にスポーツドリンクや食事を持ってきてくれて、一体なんなんだって思ったほど」
今回の合併では、重複している一部の機能は集約することも検討するが、支店の統廃合はしないとしている。

顧客との密なやりとりこそが信金に求められる役割で、それによって地域経済が存続していくという考えからだ。
北澤良且 理事長
「本当におせっかいでしょっちゅうお電話いただきますと笑いながら言ってくださる企業さんもいらっしゃる。やはり地域の方々にできるだけ寄り添える身近な存在でありたい。合併して大きくなったからといってこれを失うことがないようにと思っている」

日本経済“成長のかぎは信金にあり”

信金は全国に254ある。

地銀に匹敵する規模を誇る信金もあるが、今回、合併を決めた信金のように比較的規模が小さいところが大半だ。

日本企業の99%を占める中小企業や個人事業主を二人三脚で支えてきた。

しかし、信金はいま、大きな環境変化に直面している。

日銀のマイナス金利政策の解除で“金利のある世界”が本格的に到来すれば、ほかの金融機関との競争が激しくなる可能性がある。

融資先の中小企業も同様に厳しい局面を迎えている。

物価も賃金も上がる経済の好循環への期待が高まるが、円安で原材料価格が高騰する中、賃上げの原資をどう生み出していくか難しい経営を迫られている。

信金が存在感を発揮し、中小企業とともに地域に活力を生み出していくことができるのか。

ある意味で、日本経済の成長のかぎを握っているとも言える信金の模索が各地で続いている。

(おはよう日本「おはBiz」で5月13日から3日間「シリーズ信金」を放送)
経済部記者
斉藤光峻
2017年入局
長野局などを経て、経済部で金融分野を取材
経済部記者
真方健太朗
2011年入局
広島局などを経て、経済部で金融分野を取材