【詳細】米FRB 政策金利「据え置き」決定 早期利下げ慎重姿勢

記録的な円安水準が続くなか、円相場に影響を及ぼすアメリカのFRB=連邦準備制度理事会の金融政策を決める会合が開かれ、1日、政策金利を据え置くことを決定したと発表しました。FRBが金利を据え置くのは6会合連続です。

「2%物価目標に向けた進展みられない」

FRBは今月1日までの2日間、金融政策を決める会合を開きました。

1日に公表された声明では「経済活動は堅調なペースで拡大している。インフレ率はこの1年で和らいでいるが依然として高い水準だ」としたうえで、新たに「この数か月間、2%の物価目標に向けたさらなる進展はみられない」との文言を盛り込みました。

そして会合の結果、政策金利を現在の5.25%から5.5%の幅と、およそ23年ぶりの高い水準のまま据え置くことを決定しました。FRBが金利を据え置くのは6会合連続です。

パウエル議長は会合後の記者会見で「インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が得られるまでは、利下げをすることは適切でないと考えている。ことしに入ってからのデータからは確信が得られていない。確信を得るには、以前の予想よりも時間がかかると思われる」と述べ、早期の利下げに慎重な姿勢を見せました。

一方、インフレの抑制に向けて国債などの金融資産の保有を減らしていく「量的引き締め」については、6月以降縮小のペースを減速させることを決めました。国債の保有を減らす上限を月に600億ドルから250億ドルに引き下げるとしています。

パウエル議長 会合後の記者会見 詳細

「確信には以前の予想より時間かかる」

会合後の記者会見でFRBのパウエル議長は、「インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が得られるまでは利下げをすることは適切でないと考えている。ことしに入ってからデータからは確信が得られていない。インフレ率は予想を上回っている。確信を得るには、以前の予想よりも時間がかかると思われる」と述べ、利下げに慎重な姿勢を見せました。

「確信持てない場合、利下げ見送ることが適切」

今後考えられる金利政策のシナリオについて、「もしインフレが予想以上に持続し、雇用が堅調を維持していたとする。(インフレ低下の)大きな確信も持てない。このような場合、利下げを見送ることが適切となるだろう」と述べました。

「次に利上げの可能性は低い」

「今の政策は十分金融引き締め的だと思う。それは今後、データが示してくれるだろう。次に政策金利が引き上げられる可能性は低いと考えている」

「第1四半期には(インフレ低下の)進展みられず」

また記者から、もう5月なのに、ことし中に3回利下げを行う余裕はあるのかと問われたのに対して、「もっと確信が必要だということだ。会合参加者と私がきょう言ったのは第1四半期には(インフレ低下の)進展がみられなかったということだ。確信に達するまでにはまだ時間がかかりそうだ。確信が得られたら利下げが視野に入ってくるが、それが正確にいつかは分からない」と述べました。

「利上げには説得力のある証拠が必要」

利上げに踏み切る条件については、「そのために何が必要か?インフレ率を2%まで引き下げるためのわれわれの政策が十分金融引き締め的でないという説得力のある証拠が必要だ。その質問に答えるためにはデータを総合的に見ることになる」と述べ、利上げの可能性は低いとの認識を示しました。

「スタグフレーションにはならない」

アメリカ経済の現状については、「今は3%の経済成長があり、どの指標から見てもかなり堅実な成長だと言える。今後、インフレ率も2%に戻り、スタグフレーションにはならないだろう」と述べ、物価上昇と景気後退が同時に進む、いわゆる「スタグフレーション」には陥らないとの見方を示しました。

円相場一時153円まで値上がり 政府・日銀の市場介入の見方も

1日のニューヨーク外国為替市場では、FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長の記者会見のあと、円高方向に大きく振れ、円相場は一時、1ドル=153円ちょうどまで4円以上、値上がりしました。

市場では日本政府・日銀がドル売り円買いの市場介入を行ったのではないかとの見方が出ています。

1日のニューヨーク外国為替市場ではFRBのパウエル議長が金融政策を決める会合のあとの記者会見で「次に政策金利が引き上げられる可能性は低いと考えている」などとと述べたことを受けて、FRBがインフレを抑え込むためにさらなる利上げを行うことへの警戒感が和らぎました。

このため、日米の金利差が当面、拡大しないという見方から、円を買ってドルを売る動きが出て、会見の最中に円相場は一時、1ドル=157円台前半まで値上がりしました。

パウエル議長の会見のあと、円相場は一時、1ドル=157円台半ばまでやや値下がりしましたが、日本時間のきょう午前5時すぎには一転して円高方向に大きく振れ、1ドル=153円ちょうどまで4円以上、値上がりしました。円相場はその後も荒い値動きとなっています。

市場では、日本政府・日銀がドル売り円買いの市場介入を行ったのではないかとの見方が出ています。

市場関係者は「パウエル議長の記者会見の後というタイミングで円高が急速に進み、多くの投資家が不意をつかれた形となった」と話しています。

このほか、ニューヨーク株式市場はパウエル議長の発言を受けて買い注文が増え、ダウ平均株価は前日に比べて一時、500ドルを超える大幅な値上がりとなりました。しかし、その後は、パウエル議長が利下げには慎重な姿勢を見せたことなども背景に値上がり幅が縮小し、終値は前日に比べて87ドル37セント高い3万7903ドル29セントでした。

為替の動き 神田財務官「ノーコメント」

為替の動きについて、現時点で財務省など日本の通貨当局からの正式な発表はありません。

外国為替市場で円相場が一時、1ドル=153円ちょうどまで値上がりしたことについて、財務省の神田財務官は「ノーコメントだ」と述べました。

為替トレーダー “市場介入の可能性高い”

外国為替市場で急激に円高が進んだことについて為替のトレーダーからは市場介入の可能性が高いという声が上がっています。

このうち首都ワシントンに拠点を置く「マネックスUSA」の為替トレーダー、ヘレン・ギブン氏はNHKのインタビューに対し、「市場介入について議論するときトレーダーが着目するのは2円以上の振れ幅で、今回はその基準値を大幅に超えている。率直にいって今回の市場介入とみられる動きは賢明なタイミングだったと思う。ヨーロッパとメキシコの市場が休場であり、FRBがどちらかというとハト派的(金融緩和的)なスタンスだったため、大きな影響を与えるだろう」と述べ、市場介入が事実とすればいいタイミングだったとの見方を示しました。

一方で「日本経済の基礎的な条件は依然として弱く、GDPの成長率はとても強いわけでもない。日銀は少なくとも秋までは利上げはしないだろうし、その場合でも日米の金利差はかなり開いたままだろう」と述べました。

そのうえで仮に市場介入があった場合の効果について「短期的には一定程度の効果はあるものの、今から1年後に円安が止まるとは必ずしも思わない」と述べ、金利差が開いた状況では円安の流れを止めることは難しいとの認識を示しました。

また今後のFRBの金融政策については「パウエル議長はインフレに注目していると発言したがインフレ率が再び上昇しているとは認めようとはしなかった」と述べFRBが年内に2回の利下げを行うだろうとの見通しを示しました。

日米金利差 なぜ円安要因に?

なぜ日米で金利差があると円安になるのでしょうか。

基本的にお金は金利の低いところから高いところに流れる性質があります。高い金利で資産を運用したほうが利益が見込めるからです。

例えば金利5%の債券に1万円投資すれば、1年間で500円を受け取ることができます。金利1%の債券だったら100円しか受け取れません。

アメリカ・FRBの政策金利は5.25%から5.5%。日銀はマイナス金利を解除しましたが、政策金利は0%から0.1%です。投資家は金利が高いドルに投資したほうが多くの利益が得られると考え、円を売ってドルを買う動きにつながるのです。

さらにFRBは去年12月の会合で会合参加者の政策金利の見通しを示し、ことし、年3回の利下げが想定される内容を明らかにしました。

アメリカが利下げに踏み切れば日米の金利差は縮むことになりますが、このところインフレの根強さを示す経済指標が相次ぎ、市場では利下げに踏み切る時期が遅れ、回数も減るのではとの観測が強まっています。

金利差は縮まらないとの見方から、円安圧力が続いているのです。

FRBの金融政策 これまでの経緯

FRBが利上げを開始したのはおととし3月。それまでのゼロ金利政策を解除して、金融引き締めへと転換します。

金融引き締めによって景気を冷やすことで、インフレを抑えこむねらいでした。

しかし、その後もインフレに収束の兆しは見えず、おととし6月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて9.1%の上昇と、およそ40年ぶりの記録的な水準となりました。このためFRBは、おととし6月から11月の会合まで4回連続で0.75%という大幅な利上げに踏み切りました。

これまでの急速な利上げの影響を受けて、去年3月から5月にかけては「シリコンバレーバンク」や「ファースト・リパブリック・バンク」など3つの銀行が経営破綻しました。

こうした中でもFRBはインフレ抑制を優先にする姿勢を示し、去年3月と5月にそれぞれ0.25%の利上げを決定しました。

続く6月の会合ではそれまでの金融政策の影響を評価するためなどとしておととし3月以降、初めて利上げを見送りましたが、去年7月の会合ではインフレの要因である人手不足が続いていることなどから0.25%の利上げを決定。これで政策金利は5.25%から5.5%の幅と、2001年以来、22年ぶりの高い水準となりました。

FRBの利上げはこれでおととし3月以降、あわせて11回に及びました。

去年9月からことし3月の会合では物価の上昇が落ち着き、インフレの要因となっていた人手不足に改善の兆しが見られたことなどから5会合連続で利上げを見送り、FRBがいつ利下げに踏み切るかが焦点となっていました。

しかしその後、インフレの根強さや経済の堅調さを示す経済指標が相次いで発表され、FRBのパウエル議長も繰り返し「利下げを急ぐ必要はない」という認識を示しました。

市場ではFRBの利下げが当初、市場が見込んでいた時期より大幅に遅れるという見方が一段と強まっていました。