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介護悩み解決!注目道具とは

(2016年6月17日放送)

スポーツ選手の筋力強化にも使われてきたある弾力性の高い素材を使って開発されたグリップが、いま、介護現場の悩みを解決する道具として注目を集めています。名古屋放送局の松岡康子記者が取材しました。

リハビリの悩み

愛知県阿久比町の介護老人保健施設「メディコ阿久比」です。

この施設で体が思うように動かないお年寄りのリハビリを担当している理学療法士の榊原和真さんは、脳梗塞の後遺症などで握りしめたまま固まってしまった人の手を、どうしたらリハビリで改善できるか長年にわたって頭を悩ませてきました。

握りしめたまま手が開かないと、蒸れたり、手のひらに爪が食い込んだりします。
このためリハビリの際に指を動かそうとしますが、痛みを訴えるお年寄りが多く、榊原さんは限界を感じていました。

榊原さんは「リハビリが苦痛になってしまうので、その痛みがないようにできるだけしているが、やっぱり時間がかかってしまうので」と、これまでのリハビリの難しさを語ります。
蒸れを防ぐため、タオルを挟んだこともありましたが、それがかえって手の握り込みを強くしてしまうことになりました。

新開発グリップを試す

そこで試したのが、新たに開発されたグリップです。

通気性のよい素材を使っているため蒸れを防ぐことができるのではないかと、お年寄りに使用してもらうことにしました。

脳梗塞の後遺症で左半身にまひのある杉浦勝利さん。
お風呂の時以外は、ずっとグリップを握っています。
その結果、蒸れていた手が乾燥するようになりました。

榊原さんは「風が通るので蒸れは改善しているのかなと思います。
利用者の皆さんの手の臭いも軽減されます」と、その効果について話します。

グリップの製造現場

グリップを製造したのは、名古屋市に本社がある「ホワイトサンズ」です。

社長の白木基之さんは10年前から下半身を鍛えるための運動用のクッションを販売しています。

素材は、細いポリエチレンの繊維を絡み合わせたもので、白木社長は「2000本くらいの繊維がランダムに絡まって作られています。高反発で飛び跳ねることができます」と説明します。
このクッション、弾力性が高いことからスポーツ選手の筋力の強化や子どもの遊具として広く使われてきました。
4年前、脳の専門家から手の運動やリハビリにも使えるのではないかと提案され、介護の専門家の指導も受けながらグリップを開発しました。

白木社長は「最初は、握り心地が悪かったり、繊維が太かったりしたため、いろいろ試行錯誤した結果、握って心地よいグリップを作ることができました」と話します。

グリップの思わぬ効果

このグリップによって、思わぬ効果が出ています。
阿久比町の介護施設でグリップを使っている杉浦さん。使う前は、痛みが強く指を開くことができませんでした。
しかし、3週間使うと痛みがなくなり大きく開くようにもなりました。
杉浦さんは、使用する前とあとでの違いについて「そりゃ違うわ、痛くないもん」と話しています。

理学療法士の榊原さんは、これまでに25人のお年寄りにグリップを試しました。
このうち8割の人は、1か月から3か月の使用で、指の第2関節だけみても平均で30度ほどまで開くようになったといいます。

手が開くようになったことで、爪を切ったり、手を拭いたりすることが楽になり、介護側の負担を減らす効果も出ています。

榊原さんは「グリップ特有の反発力というのが他のものになく良くて、反発も強すぎず、徐々にのびていく。利用者にとっても負担なく使えるものなので、最初からこんなに効果があるとは思って使っていませんでしたが、結果的にすごくいいものに出会えた」と話しています。

グリップ効果の仕組み

グリップを握ると、なぜ手が開くのか。
社長の白木さんにグリップの製作を提案したのは脳の専門家、名古屋市立大学の西野仁雄名誉教授です。

西野さんは、グリップを握っている時の脳の状態を調べました。
赤くなるほど、脳の血流が増加していることを示しています。
何も握っていない時や、タオルを握っている時に比べて、グリップを握ると、脳の血流が大きく増えることが分かりました。
西野さんは、グリップの反発力で無意識のうちに手に刺激が加わり、その影響で脳も活性化されて、手が開いたのではないかと考えています。

西野さんは「グリップを握ると、リズミカルな刺激が絶えずあるので、脳の回路も正常に動くのではないか。そうしたリハビリの結果、何年も固まっていた手が開いてきたと思っています」と説明します。

手が開いたり蒸れが治ったりするという、このグリップ。
お年寄りや介護現場の長年の悩みを解決する新たなリハビリの道具として注目されています。
また、脳を活性化させるという特性を生かして、認知症予防にも応用できるのではないかという期待も膨らんでいるということです。

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