ドラゴンスの福谷浩司投手は150キロを超えるストレートが持ち味。おととしは開幕投手を務めたが昨シーズンはわずか1勝に終わった。春のキャンプでは実績ある先発投手陣になんとか割って入ろうと、けがをするリスクを承知でこれまでにないハードなメニューに取り組んだ。プロ11年目、32歳の決意を取材した。
戦力外通告も覚悟したオフ

2013年に入団した福谷投手。これまで抑え、セットアッパー、先発とさまざまな役割でドラゴンズ投手陣を支えてきた。それが昨シーズンは5試合の登板で1勝3敗、防御率9.00と全くふるわなかった。厳しい競争があるプロの世界。福谷投手は「自分にはもうあとがない」と選手生命が終わる覚悟もしたシーズンオフだったという。
取り戻したいストレートの力強さ
復活を期す今シーズン。約1か月のキャンプで目指していたのはストレートの力強さを取り戻すことだった。それは去年5月5日に横浜スタジアムで行われたDeNA戦でのピッチングにあった。

この試合に先発した福谷投手は1回、4番の牧秀悟選手にアウトコース高めのストレートを逆方向のライトスタンドに軽々と運ばれた。その直後に2軍行きを命じられたのだ。
「あのホームランは自分の中でショックでした。一番自信を持ってやってきているボールなので」
プロ入り以来、自信を持って投げ込んできたストレートがなぜ捉えられるようになったのか。福谷投手が考える理由の1つが4年前の先発転向後に"脱力"を意識した投球スタイルに変えたことだ。当時はそのよくとしに8勝2敗、防御率2点台をマーク。次のシーズンは開幕投手の大役を務めるなど成果はあった。先発としての目標は完投完封。9回を投げきるには時に力を抑えながら投げることも必要だが、自身の生命線というボールの強さはキープしたいとも考えていた。しかし平均球速は年々落ち、昨シーズンは144キロになっていた。
「中継ぎ時代は何年も出力マックスで脱力なんてしない感じでやっていました。先発になり脱力を覚えてそれがちょうどマッチしました。先発を3年4年やってきて今度は出力のバランスが取れなくなった気がしています。中継ぎのつもりくらい出力を出すことが今はちょうどいいのかと」
体をいじめ抜いた約1か月のキャンプ
沖縄県北谷町で行われたキャンプでは意欲的に練習に取り組んだ。ブルペンでの投球練習はもちろん、強いボールを投げるのに欠かせない体幹と下半身の強化のために、重いもので5キロあるトレーニング用の大きいボールを使ったメニューなどを精力的に行った。

「ヘトヘトになるくらい練習できて、1日1日が本当に充実していました。ブルペンでの投げる練習は例年と同じくらいでしたが、個別練習でシャドーピッチングやメディシンボールスローでの投げる動きはボールを投げる以上にやったので、倍以上投げた感じですね(メディシンボールスローは)手先では投げられないです。体全体、また体幹や下半身とかを使って投げないといけないのが確認できるので、その動きを手に入れるためにやっていました」
落差の大きいフォークボール習得にめど
ストレートを生かすための変化球の改良も行った。フォークボールはこれまでより握りを深くすることで、大きく落ちるようになったという。キャンプ期間中の練習試合でも試して手応えを感じている。

「フォークボールを(深く)挟むことによってトラックマンの数字も明らかに違いが出てきています。これは使えるんじゃないかと思っています。元のフォークボールも選択肢として残すので幅は広がったと思います」
パンクするリスクも承知の上で
実績ある先発ピッチャーがそろうドラゴンズで、開幕ローテーションに割って入るのは簡単なことではない。そのことは福谷投手ももちろんわかっている。

「涌井(秀章)さんも来て、去年の最後ローテーションをまわったピッチャーも残っています。あの人たちを追いつく追い越すと考えたら普通にやっていたら、だめだと思っています。(キャンプでは)結構リスクを取っていました。練習量を含めていつパンクしてもおかしくない。それくらいリスクを取って初めて見える世界なのかもしれないし、そのつもりでやっていました」
キャンプではハードな練習で自分を追い込んだ福谷投手。目標とする開幕ローテーション入りに向けて、3月のオープン戦でもアピールを続ける。
「この年齢ですし正直なところ、本当に戦力外が頭のなかにちらついた去年の秋でした。もちろんこの1年がだめだったら(戦力外)ということが頭によぎることはあります」