愛知県の奥三河地方にある豊根村には、大みそかからお正月にかけて食べる「お平(ひら)」と呼ばれる郷土料理があります。この冬、地元の人たちに愛されてきたこの料理で、村を訪れる人をもてなそうという新たな取り組みが始まりました。どんな料理なのか取材しました。
(NHK豊橋支局 記者 渡辺善信)
村に伝わる年越し料理

豊橋市から車で1時間半、山深くにある豊根村は、人口およそ980人。
2022年の大みそかに訪ねると、道路脇には雪が残っていました。

先祖代々この地に暮らす村松昭さんの家には、手作りの門松が飾られ、村に伝わる恒例の年越しの準備に追われていました。神棚には、海のものから山のものまで、たくさんのお供えをします。

料理を仕込みます。作るのは古くから村に伝わる郷土料理「お平」です。大きな鍋に地元で採れた冬野菜などさまざまな具を入れて、かつおとシイタケのだし、しょうゆと少々の砂糖で味付けします。

おおみそかに ごちそう食べる"年取り"

(みんなで)「乾杯」。
豊根村では大みそかの夕方、里帰りした家族全員で、「お平」をはじめ
豪勢な膳を囲むのが伝統で、地元で「年取り」と呼ばれています。
村松さんの孫の夫
「おいしいですこれ」
村松 昭さん
「味がいいだ最高の出来だ」

村松 幸代さん
「やっぱりこのお平がないと年が明けないです。これを食べないと。そういうものです。絶対に作りますね。手を抜けません。年取りにめいっぱいごちそうを作ってそれをいただくと、そして新年を迎える」
地元の当たり前が新たな魅力に

それぞれの家庭で伝えられてきた「お平」。今、その味を多くの人に知ってもらおうと取り組んでいる人たちがいます。
道の駅の駅長の塚本新一郎さんです。

きっかけは、去年3月、文化庁の「100年フード」という世代を超えて愛される地域の食文化に認定されたことでした。

「道の駅 豊根グリーンポート宮嶋」の駅長 塚本新一郎さん
「ぼくらの当たり前、年末年始においしく食べているものが当たり前が、外から見た人からしたら新しい魅力になると気づいた」
地元のおかあさんたちが作る

この冬、道の駅のレストランで「お平」の提供を始めました。 作るのは豊根村の女性たちです。

山のレストランふるさと 石田いま 店長
「豊根特産の乾燥シイタケを戻したものです。生シイタケは使わずに1度乾燥したほうが味もだしも出ます。できるだけ大きいまま切って鍋に入れて煮る。丸く切ってくださいと、丸く収まるという意味で」
身も心も温かくなる"お平"

山のレストランふるさと 石田いま 店長
「はい、お待たせしました、ふるさと定食でお平です」
訪れる人たちに「お平」と受け継いできた伝統を伝えます。
山のレストランふるさと 石田いま 店長
「豊根で大みそかに食べるものなの」
食べた人
「シイタケのだしですかね。すごい味が出てて大根とか里芋もすごい味が染みててめちゃめちゃおいしかったです」
「味がしみしみで心も温かくなる」
お平の魅力を磨き上げる

村では高齢化や人口の減少で年々、お平の作り手が少なくなっているといいます。
塚本さんたちは地域の力をあわせて「お平」の魅力と伝統を伝えていきたいと考えています。
山のレストランふるさと 石田いま 店長
「もうひとつ何かね、何かを添えてあげると。食べ合わせがいい料理を欲しくて」

「道の駅 豊根グリーンポート宮嶋」の駅長 塚本新一郎さん
「道の駅の本当の魅力、一番の魅力ってここで働いているお母さんたちだと思います。例えばふるさとへ帰ってきてお母さんのいつもの料理を食べるという感じの、豊根村の当たり前のおもてなしを楽しんでいただきたい」


山のレストランふるさと 石田いま 店長
「お客さんの声を聞いて、また改良して、この料理なら、というのを出して。地味だけどやっぱりこの味が忘れられないから食べに来たってそういう料理を作りたい、自分たちで。もう1度食べてみたいとか、もう1回食べに行こうかねって言うような料理を」

おかあさんたち
「豊根村、故郷の味、おひら食べに来てください、来てね!」
取材して
「お平」という名前ですが、名古屋にある大学の研究者が調べた結果、平らなおわんに、盛られていたため、その名がついたということです。
今回取材した豊根村の皆さん、本当に温かい人ばかりで、駅長の塚本さんが話していたとおり、一番の魅力だと感じました。
この冬のお平の提供は、2月いっぱいをめどに終える予定ですが、レストランの店長の石田さんによりますと、「なつかしい」とか「暖まる」と好評だったということです。いつもの年なら冬場は、閑散とする時期ですが、この冬は、道の駅を目指してきてくれるお客さんもいたということで、今後も冬の名物になるように出していきたいと話していました。
豊根村の道の駅は、愛知県内で最も早い平成5年にオープンして以降、村の魅力を発信し続けています。「お平」という古くて新しい魅力が、多くの人に届き、豊根村の良さの再発見につながることを期待したいと思います。
筆者

渡辺善信 記者(NHK豊橋支局)
1987年入局
現在、およそ20年ぶり2回目の豊橋支局勤務です。
村松 幸代さん
「おいしくなあれ、おいしくなあれ、これで煮込めばできあがりです」