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若者と選挙の"距離"を縮めたい「センキョ割」・新イベント

2023年2月16日

選挙で課題となっているのが、「若者の投票率の低さ」です。
令和3年に行われた衆議院選挙と令和4年に行われた参議院選挙では、10代と20代の投票率が全体の投票率よりも低い結果となっていて、「若者と選挙の距離」が見られます。

その距離を縮めようと、愛知で奮闘する大学生たちを取材しました。

(NHK名古屋 ディレクター 金久保遥)

センキョ割に取り組む若者たち

この日、名古屋・栄にあるラーメン店を訪れたのは、名古屋センキョ割実行委員会のメンバーたち。
目的は、センキョ割への協力を呼びかけることです。

センキョ割とは、投票所でもらうことのできる投票済証明書などで選挙に行ったことを証明すると、協力店舗で割引やサービスを受けることができるというものです。

2月5日に行われた愛知県知事選挙の場合、喫茶店で飲み物のサイズアップが無料でできたり、温泉入浴施設で入館料が2割引になったりします。
利用できる期間は店によって異なりますが、多くの店で2週間ほど利用することができます。

この日は、これまでセンキョ割を知らなかったという店長に仕組みを説明しました。
ラーメン店では、投票済証明書を提示すると、味付け卵か麺大盛りが無料になることになりました。

割引やサービスは協力店舗の負担となりますが、利用者が増える期待があるといいます。

ラーメン店 店長

「がんばっていそうな感じだったので、お客さんが喜んで来てくれるのであれば」

名古屋センキョ割実行委員会・小嶋優香さん

「ご協力いただけることが、すごくありがたいと思っていまして、選挙に行くきっかけづくりになればいいかなと思っています」

活動を始めて2年。縮まらない若者と選挙の「距離」

大学生13人からなる名古屋センキョ割実行委員会。

愛知東邦大学の学生を中心とする団体で、令和3年10月の衆議院選挙から活動しています。

実行委員長の小嶋優香さんです。
実行委員会の設立当初から、リーダーとして活動を引っ張ってきました。

活動を始めて2年となる今でも、若者と選挙の距離を感じているといいます。

理由の1つが、センキョ割への協力企業数の伸び悩みです。

小嶋さん

「前回使ってくれなかった人が多かったから、今回は辞退でという言葉があったりとか。そこが1番多いのかなぁと思っていまして」

材料費高騰などの現状に加え、前回の選挙でセンキョ割の利用者がいなかったことが原因で、協力をやめる店が目立ちます。

センキョ割をより広めようと広報活動にも力をいれ、学生向け用と企業PR用の2つのSNSアカウントを運営しています。

それでも、周囲の反応からも、若者と選挙を近づける難しさを感じることがあるといいます。

小嶋さん

「周りの友達とかって『選挙?おわったの?』みたいな、そもそも選挙があることを知らなかったりとか、『行かないんだけどね』っていう言葉めちゃくちゃもらいます」

距離を縮めた当事者として

実は、小嶋さん自身も、かつて選挙との距離を感じていた若者でした。

小嶋さんがセンキョ割の活動に参加したきっかけは、コロナ禍。

思い描いた学生生活が送れず焦りを感じていたときに、ゼミの先輩に声をかけられて参加しました。

はじめは興味がありませんでしたが、店へ説明したり、選挙について学んだりするうちに、自信を持って投票できるようになったといいます。

小嶋さん

「投票所に行くときは、今までこうシャットダウンされた不安なところから、ちょっと胸張って文字書けたりとか、大丈夫だよね?っていうのなく、選挙行けたかなと思いますね」

自分と選挙の距離を縮め、選挙にポジティブなイメージを持てるようになった小嶋さん。
当事者である若者の一人として、センキョ割の活動を通して、選挙のイメージを変えていきたいと考えています。

カジュアルさが鍵? 新たな「接点」

若者と選挙の距離を縮めるためには、どうしたらいいのか。
小嶋さんたち実行委員会のメンバーは、今回の知事選に合わせて新たな挑戦をすることにしました。

初めて企画したのが、投開票日当日の対面イベントです。

この日、小嶋さんたちは名古屋市の貸しスペースに訪れ、会場の下見をしました。

イベントは投開票日に、選挙や社会問題に関心のある高校生や大学生、およそ50人が集まり、気軽に語り合うというものです。

イベントを共催する、大学生の油口琢磨さんです。

油口さんが去年撮影した、スウェーデンでの開票イベントの様子です。
開票速報が流れた瞬間に大きな歓声があがります。

さらに油口さんが見たのは、バンドによる演奏を聞きながら、飲み物を片手に談笑する人々。
にぎやかな空間で、街のことや候補者について自由に話し合う様子でした。
この様子を日本で再現したいと考え、イベントを企画することにしました。

学生団体Polivoice・油口琢磨さん

「どんな街に住みたいか、どんな困りごとを解決したいかということを、本当に和気あいあいとワクワクしながら話し合ってもらう空間がスウェーデンにありまして。日本の選挙のイメージが当たり前じゃないというのを皆さんにお伝えしたい」

イベントでは、学生バンドによるギターの生演奏があったり、バーカウンターが設置されたり。
かしこまらず、居心地の良い空間を目指します。

油口さんの狙いに賛同した小嶋さんたちセンキョ割実行委員。
選挙や政治についてカジュアルに話し合う場が、若者と選挙の距離を近づける新たな「接点」になると考えています。

小嶋さん

「こういう風に盛り上がるんだとか、そういうことに気がつけたら、おそらく今後の選挙に行ってみようとかきっかけ作りになるかなと。一緒に知恵を絞り合いながら皆さんで楽しめたらいいなと思っています」

投開票日イベントで感じた若い世代のエネルギー

投開票日当日の夜、イベント会場には若者たちが集まっていました。

参加したのは約50人。17歳から25歳までの高校生と大学生です。

8つのテーブルの周りに5~6人ずつ座り、グループごとに話ができるようになっています。
参加者たちは席につくと自然に自己紹介を始め、開始前から和やかな様子に。
席にはお菓子と飲み物、手作りの名札が置かれています。
また、受付の横にはセンキョ割が体験できるブースもありました。

そして、いよいよイベントがスタート。
まずセンキョ割実行委員会の活動や、油口さんのスウェーデンでの体験が紹介されました。

その後はグループセッションがスタート。参加者たちが自由に語り合う時間です。
ここで、ギターの生演奏も始まりました。

最初のお題は「愛知のここが○○」。
ふだんの生活や活動の中で感じたことのある不満や疑問を共有します。

「大企業があるから、良くも悪くも人が出て行かない。自分も出づらいと思ってしまう」

「社会福祉をもっと充実させてほしい。税金を払っているのは人だから、人をもっと大切にしてほしい」

愛知ならではの風土の話や行政の話、環境や動物愛護の話まで、多種多様な話題について意見が交わされます。

次のお題は「具体的な『Do』を考えてみる」。
不満や問題を解消するために、具体的に何をすれば良いのか考えるというお題です。

「何かの問題に関心を持っても、情報にアクセスすることができない。もっと情報を開示してわかりやすくしてほしい」

「このイベントみたいな対面で話し合う機会が大切だと思う」

異なる関心を持つ参加者たちが共通する問題意識を見つけ、共感しあっている様子が印象的でした。

イベントの最後、油口さんがプロジェクターの前に立つと、ぼやけた風景写真が映し出されました。

油口さん

「ピントがあっていなくて、これだけ見てお友達と会話が弾むっていうことは難しいと思うんですね。これが今のぼくたち、若者から見た政治だと思っています」

そして、油口さんに促され、参加者が手で眼鏡をかけると...

ピントのあった風景写真が映し出されました。

油口さん

「ぼくたちから見た政治をこんな鮮やかな景色にしたいと強く思っています」

油口さんたちイベント主催者の「政治と若者の架け橋になりたい」という強い意思がこもっているように感じました。

イベント終了後も参加者たちは帰らず、そのまま話をしたり、写真を撮ったり、SNSを交換したり。
1時間以上話し込んでいる参加者もいました。
参加した大学生はー。

名古屋市立大学3年生・寳門海さん

「社会問題や政治に興味のある人で、こんなに同年代がいるんだと驚きました。自分の学校に戻ったら仲間がいなくて寂しく感じるときもあるので、心強いです」

イベントには異なる関心を持つ若者たちが集まっていましたが、問題意識を持って何かに取り組む「仲間」をつくることができたようです。

主催者の小嶋さん、油口さんはー。

愛知東邦大学4年生・小嶋さん

「グループセッションのスタートと同時に、参加者の人がどんどん話し始めてて、驚きました。ちゃんとみんなが話し合う環境があることが大切だと思います」

中京大学2年生・油口さん

「『楽しかった!』と第一声で言ってくれる人が多くて、うれしかったです。もっとディスカッションの時間が欲しかったという声もありましたが、とにかく同年代の人と楽しく過ごそうっていう目的は達成されたと思います」

最初から最後までにぎやかで、若い世代のエネルギーを感じることのできるイベントでした。

同世代として "若者と選挙の距離"を取材して

私は大学、大学院で政治学を学んでいました。政治学科に入学すると決めたとき、周囲から「政治家になりたいの?違うならどうして政治なの?」と言われたことを憶えています。もちろん悪気のあった人はいなかったと思いますが、言われる回数があまりに多かったので「なんだよ、勉強しちゃだめなのかよ」と気を悪くしていました。この周囲の「なぜ政治を学びたいと思うのかわからない」という態度こそ、私の感じていた「若者と政治の距離」だったのだと思います。

今回、小嶋さんたちセンキョ割実行委員会の方々や油口さんにお会いして、私も感じてきた「距離」に立ち向かう同年代の人がいることが、とても尊いことであると感じました。また、小嶋さんたちの「とりあえず行動してみよう!」という意識は、学生時代の自分にはなかったと思い、心強く感じました。

取材で特に印象に残っているのは、小嶋さんが「はじめは選挙に興味がなかった」と言っていたことです。誰でもきっかけさえあれば、選挙や政治に前向きになることができると体現している小嶋さん。「若い世代だから選挙に興味がない」と決めつけることがあってはならないし、諦めてもいけないと思います。
これからも、「若い世代と政治・選挙の『接点』となる放送ができているか」という問いを持ちながら、取材していきたいと思います。

筆者

金久保遥 ディレクター (NHK名古屋放送局)

茨城県つくば市出身。
大学と大学院で政治学を学ぶ。
大学時代にアカペラサークルに所属し、趣味はカラオケ。