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戦争に向き合う子どもたち

2023年2月13日

ロシアによるウクライナの軍事侵攻からまもなく1年。
現地では戦闘が続き、収束の兆しは見えていません。
多くの人の命を奪う戦争。
その実相に演劇を通して向き合ってきた子どもたちがいます。
子どもたちが演じるのは愛知県出身の元日本兵が伝えてきた沖縄戦の記憶。
部下に死を命じ、みずからもひん死の重傷を負いながら苦しんだ戦争の現実です。

(NHK名古屋 記者 松岡康子)

「己の命をかけて敵戦車隊に戦いを挑むときが来た」

部下に突撃を命じる日本兵。
命令に従い爆弾を抱いて死んでいく兵士たち。

先月、沖縄県南城市の百名小学校で上演された劇のワンシーンです。
子どもたちが演じるのは元日本兵が伝えた沖縄戦の記憶です。

愛知県出身の元日本兵、日比野勝廣さん。
その体験を語り継ぐ娘の桂子さんがこの学校を訪れたのは去年6月。
学校近くに残るガマで、戦時中、日比野さんが命をつなぎ、戦後も地域の人たちと交流を続けていたのがきっかけでした。

話を聞いた子どもたちは、日比野さんの体験を自分たちも語り継いでいきたいと劇の上演を決め、みずからシナリオを検討。

練習を重ねながら、沖縄戦の現実を追体験してきました。

「今すぐに爆弾を抱いて仲間が死んでいく姿を日比野さんは見ることになるから、元気だったらおかしい」

「『好きで命令しているわけではないんだ』というのも違うという感じで、首とか振ったりしたら?」

劇づくりを通して戦争の実相を知る子どもたち。
そのなかで向き合ったのが今起きているウクライナでの戦争でした。

仲村保校長

「もしも日比野さんが天国で今の世界の状況を見ているとしたら、何を考えるだろう。何を伝えようとするだろう」

「戦争への考えが薄れていっていると思う」

「よくばりなんじゃん、今でも安全に暮らして生きているはずなのに、もっといい暮らしを求めてやるからだめなんじゃん。戦争を止めるんじゃなくて、起こさないようにするのが一番大事なんじゃない」

日比野さん役の仲村羽高さん

「戦争についての考え方がどんどん変わってきました。戦争はとても怖いイメージがあります」

本番当日。
子どもたちに日比野さんの記憶を伝えた桂子さんも駆けつけました。

「われわれ日本軍人はお国のため、愛する家族のため自分の命をささげるために生きているのだ。立派に戦って散ってもらいたい。本日の出撃は、大城、當間、具志堅。以上、解散」

「俺もいずれお前たちのところに行くよ。必ずだ」

「あー、それにしても本当にたくさんの人が死んでしまった。本当にたくさんの人が死んでしまった」

半年以上をかけて戦争に向き合ってきた子どもたち。
劇の最後、日比野さんの言葉でこう呼びかけました。

「おーい、武力ではなく話し合いで解決できることはないのか」

「おーい、戦争のつらさや悲惨さを忘れていないか」

「おーい、命をもっと大切にしてくれないか」

保護者の話

「本当に苦しんで亡くなっていった人たちがこんなにもたくさんいたんだということを改めて思いますし、僕たちもわからない戦争を子どもたちがこうして劇にするということは本当にすごい」

「私たちも一緒に平和というものをどうやって伝えていけばいいのか、改めて考えさせられました」

日比野桂子さん

「子どもたちがいうセリフを聞いていまして、まさに日比野勝廣がそこにいるような、語っているように伝わってきまして、平和を願うだけではなくて平和を作り上げていく一翼、1つの力になっていけたらと願っています」

演じた子どもたち

「戦争というのはどれだけ悲惨なのかを、昔こんなことがあったんだよということをほんの少しでもいいから語り継いでいきたい」

「今ウクライナやロシアのこともあって今も続いているから、沖縄戦のことは目をそむけずに、ちゃんと向き合っていってなくしていきたいです。戦争を」

生前、ガマの中で体験を語る日比野さん

取材後記

劇中の「おーい」という呼びかけは、戦後、日比野さんが生き延びた「糸数アブチラガマ」の慰霊碑を訪れるたびに、亡くなった戦友に向けて呼びかけていた言葉だったといいます。
日比野さんは2009年に亡くなるまで、自分を救ってくれたこの地域の人たちのもとに100回以上通い、みずからの体験を伝えていました。
その日比野さんの戦時中、そして戦後の心の内をできるだけ正確に語り継ぎたいと劇に取り組んだ百名小学校の子どもたちは、練習を重ねるなかで、日比野さんの戦争の記憶を追体験し、戦後の苦しみを感じていったといいます。
この小学校では今後も日比野さんの記憶をつなぐ取り組みを続けていきたいとしています。
戦争が過去の話ではなく現実に起きている今、日比野さんが「おーい」と呼びかけた言葉は、私たち全員に突きつけられていると感じます。

筆者

松岡康子 記者(NHK名古屋放送局)

静岡局、豊橋支局、名古屋局、科学文化部、生活情報部を経て、2013年から再び名古屋局。主に医療分野や介護分野の取材を担当。
愛知県小牧市出身で、2人の息子の母親。