アナウンサーの田中逸人です。土曜朝の番組、ウイークエンド中部を担当しています。
東海北陸各地からの旅リポートをお届けしている「ういちゅ~の旅」。
今回は愛知県蒲郡市にある三谷温泉を舞台に、地域を盛り上げようという動きをご紹介します。
タイトルも少し変えて「ういち"ゆ"~の旅」。お楽しみください!
(NHK名古屋 アナウンサー 田中逸人)

風光明美な温泉地として知られる三谷温泉。泉質の異なる4つの温泉を5つの旅館で楽しむことができます。

温泉のほかにも、旅の楽しみといえば...

食事です。こちらは新メニューの『家康御膳』。
家康長寿の秘けつとされるもち麦の釜飯や三河湾で獲れた鮮魚の盛り合わせが並びます。

なかでも人気なのが、みかわ牛(うし)のすき焼き。
家康も好んで食べていたという、八丁みそをベースにした優しい味付けになっています。
温泉卵につけていただきます。うまみの強い、やわらかいお肉です。
温泉と食事でゆっくりくつろげる三谷温泉。そんな温泉地で新たな取り組みが始まりました。

5つの旅館と『現代アート』がコラボしたイベント、ととのう温泉美術館。

40組ほどの作家による、100点ほどの作品が5つの旅館のあちこちに展示されています。
温泉とアート鑑賞の両方を一度に楽しめます。

客室や食事処など、普段は宿泊しないと入れない場所で展示作品を楽しめることも魅力のひとつ。

夕方には、日没の時間を知らせるバイオリンの音色が生演奏で響きわたります。

昔ながらの温泉地がどうしてアートイベントを開催することになったのか。発起人のもとを訪ねました。
老舗旅館の4代目社長、平野寛幸(ひらの・ひろゆき)さんです。
きっかけは新型コロナウイルス。
緊急事態宣言が出されていた2020年5月は、月全体の売上がゼロという経験をしました。
売上ゼロの経験が、"旅館の価値とは何か"を改めて考えさせてくれたと言います。

ヒントになったのが、おととし熱海で行われた、閉館したホテルが舞台の芸術祭です。
平野さん
「これを見てすごく何ていうか、心を揺さぶられた。きっと美術館ではあの雰囲気を出せなくて。畳の雰囲気であったりとか、そういった部分が織り成すものかなと思いました」
三谷温泉でも、いまある雰囲気を活かした"心を揺さぶる"取組みがしたいと考えました。

そんな平野さんに制作中の作家さんを紹介してもらいました。
吉村大地(よしむら・たいち)さん。インスタレーションと呼ばれる空間も含めた作品作りをするアーティストです。こだわりは展示場所ならではの廃材を再利用しながら空間を作り上げること。

今回、平野さんの旅館からもらってきたものの1つがこの大きな白い柱。
改装工事中のローマ風呂で使われていたもの。
ホコリがかぶった廃材にしか見えなくても、時間の経過に価値があると言います。
吉村さん
「あえてきれいにするというより、そのまま使った方がいい。その当時の"みんながここでお風呂入ってたんだな"とか、ここにいなくても感じられる部分があると思うんですよね。そういうのが"古いもの"っていうのが良いのかなって」

吉村さんの手で眠っていた廃材に新たな価値が生まれました。

そして迎えたイベント初日(1月21日)。
地元蒲郡や名古屋からも多くのお客さんが訪れ、このように話していました。
「温泉入るのも好きで、時々この辺りとか西浦の方とか日帰り温泉行くので。温泉に入れて、ゆるっとみられるのはいいなと思います」

発起人の平野さんは、今後に向けてこう話します。
平野さん
「今まで来ていたお客様とは全く違うお客様が、今お見えになってると思うんですね。それが非常におもしろいなと思っています。三谷温泉って何か楽しいところだねとか"あそこに行くといつも何かやってる"みたいな風になるといいのかなと思ってます」
昔ながらの温泉地で、心を揺さぶる豊かな時間を過ごした旅でした。
催しは2023年2月19日(日)まで開催
筆者

田中逸人 アナウンサー(NHK名古屋放送局)
平成17年入局
高知放送局などを経て18年春から名古屋放送局へ
平野さん
「売上がゼロっていうのは、約90年の旅館経営の中、戦時中も営業していたんですが、その時でもなかったって言われています。本当にショックでした」