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情報公開度ランキングで最下位 名古屋市議会に問われる本気度

2022年11月28日

議員に支給される政務活動費の情報公開度ランキングで、名古屋市議会が6年連続で最下位となった。突きつけられた不名誉な現実を前に、議会は変われるのか。本気度が問われている。

(名古屋放送局・豊嶋真太郎)

政務活動費とは

政務活動費は、県や市などの地方自治体が議会の会派や議員に支給しているもので、地方自治法では「議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部」(第100条第14項)と定められている。

具体的には、視察や研修会への参加費用、自身の活動をまとめた広報誌の作成や事務所の備品などの経費として使われることが多い。名古屋市の場合、議員1人あたり毎月50万円が各会派に支払われている。

衝撃のランキング

この政務活動費について、地方議会や行政などの活動状況をチェックしている「全国市民オンブズマン連絡会議」が、2022年9月、情報公開度ランキングを発表した。ランキングは、都道府県と政令市、それに中核市の3つのカテゴリーごとに、収支報告書や領収書などが市民に公開されているか、情報にアクセスしやすい環境が整備されているか、100点満点で採点している。このうち、政令市のランキングで、名古屋市議会は横浜市議会と並び、12点で最下位となった。名古屋市が最下位になるのは、実に6年連続。不名誉な現実を突きつけられた。

インターネット公開は0点

名古屋市が最下位となった最大の理由は、収支報告書や領収書といった資料が、全くインターネットで公開されていないことだ。オンブズマンが設けた12の採点項目のうち、5つは資料のインターネット公開に関するものだが、名古屋市は5つすべてで0点。

スマートフォンなどで情報にアクセスするのが当たり前になったこの時代、名古屋市では、市議会まで足を運んで資料を閲覧し、さらに資料をコピーするには、情報公開請求という手続きを取らなければいけない。
一方、ランキングで1位を獲得した静岡市(97点)では、すべての資料をインターネットで公開。収支報告書はコンビニでも印刷できる。

幻の合意 進まぬ議論

実は、名古屋市議会でも、2019年2月に一度、政務活動費のインターネット公開を進めることで、各会派の幹部が出席する議会運営委員会の理事会で合意している。

「政務活動費については、規程を整備することにより、収支報告書・領収書のインターネット公開を、市の情報公開条例の基準に基づき、可及的速やかに行うことで、理事会において意見の一致を見たところでありますので、この際、ご報告申し上げておきます」

(2019年2月22日議会運営委員会議事録)

本来であれば公開が進み、とうにランキング最下位を脱しているはずだが、そこから3年半、状況は少しも変わらないままだ。

どうして、このような状態が続いているのか。ひもとくカギは、河村市長を支える市議会の与党会派「減税日本」と、その他の会派の激しい対立にある。

2019年は、各会派の幹部が議会運営委員会の理事会で合意したあと、インターネットでの公開に向けた議論が行われた形跡があるものの、2020年以降は、一部の議員の不適切な言動や議会運営のあり方をめぐり、両者が激しく対立。さらに、2021年9月以降は、不適切な発言があった所属議員の処遇をめぐり、減税日本の幹部が議会から問責決議を受け、この決議の解釈をめぐって、さらに対立が激化。理事会が開かれない状態が続いている。

こうした現状について、各会派の幹部に話を聞いた。
ある減税日本の幹部は、次のように話す。

「ほかの会派は私たちのせいにするが、実際は、本気で変える意思がないだけだ。私たちは自分たちのホームページで、独自に収支報告書などを公開している。やる気があるなら、まず会派としてネット公開すればいい」

これに対して、野党会派の幹部は、次のように反論する。

「会派ではなく、市議会として責任を持ってルールを定めるのが本来のあり方だ」

「話し合いをしようにも、減税日本のせいで、その機会を設けることさえできない」

一方、野党会派の中からは「すべてを会派の対立のせいにはできない。『ネット公開を進める』と決めた3年半前の合意は、市民に対する『約束』だ。どうにか実現の糸口を探らなければいけない」といった声も聞かれた。

専門家「情報公開は義務」

名古屋市の場合、政務活動費の財源のおよそ9割は税金だ。地方政治に詳しい法政大学大学院の白鳥浩教授は「議会にとって情報公開を進めることは義務だ」と指摘する。

法政大学大学院 白鳥浩教授

「政務活動費は、基本的に市民の税金を原資としている。本来であれば、情報が市民にとって、よりアクセスしやすい形で明らかになっているということが大前提で、そのための努力は義務とさえ言える。インターネット公開のめどが立たないということは、ゆゆしき事態で、議会の機能不全と言えるのではないか」

その上で、白鳥教授は、情報公開は議会に対するチェック機能となるだけでなく、市民の政治への関心を高めることにつながると強調する。

法政大学大学院 白鳥浩教授

「情報公開は、市民と議会との間のチェックアンドバランスを育む制度だと考えている。さらに、インターネット上での公開が実現すれば、議員がどのように活動しているのか、つぶさに知ることができ、市民と議会の距離を縮める効果があると考えられる。議会全体に対する市民の信頼を勝ち取るためには、インターネットによる情報公開を早急に進めることが求められている」

「約束」を守れるか 問われる責任

来年4月には統一地方選挙が行われ、名古屋市議会の改選も控えるなかで、政務活動費の使いみちは、有権者にとって重要な判断材料のひとつになりうる。
インターネットでの情報公開を進めるということは、ほかでもない議会がみずから決めたことだ。自分たちで決めた「約束」を守れるのか。今、議会には市民への責任と本気度が問われている。

筆者

豊嶋真太郎 記者(NHK名古屋放送局)

今回の情報公開度ランキングで都道府県中最下位の岡山県生まれ。大学まで政令市の中で最下位から2番目の福岡市で育つ。初任地は、名古屋市と並んで最下位タイの横浜市。2021年11月から現所属で名古屋市政を担当。今回の取材を通して自分が暮らすまちの政治に関心を持たなければと強く反省した。