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思い出の竹林を憩いの場に

2022年11月4日

「整備されず放置された竹林を再生しようと、わざわざ外国から帰ってきて活動している若者がいる」。

愛知県の市町村担当として各地を回っていたある日、こんな話を聞き、なぜそこまで竹林に思い入れがあるのか聞いてみたいとその若者を訪ねることにした。
(NHK名古屋 記者 中川聖太)

竹を切る若者

愛知県大府市神田町の小学校の裏山に広がる竹林。

生い茂る竹やぶの中にその若者はいた。

箕浦希奈さん(31)。

放置された竹林を整備する活動を週に1回続けているという。

箕浦希奈さん

「とにかくこういう枯れてる竹が多い。で絡み合ってパズルみたいになっているので、これをほどいていく」

箕浦さんが案内してくれた竹林は、竹は枯れ、倒れ、前が見えなくなるほど荒れている。

これを1人で整備するのは、並大抵の労力ではない。

しかもボランティアで始めたという。

久しぶりに見てみると・・・

なぜそこまで竹林に思い入れがあるのか。

早速尋ねると、箕浦さんは小さなころの思い出を話してくれた。

大府市で生まれ、豊かな自然に囲まれて育った箕浦さんは毎日、学校が終わると外にでかけ、友達とあちらこちらを駆け回った。

その一番の遊び場が小学校の裏山に広がるこの竹林だった。

おにごっこにタケノコ掘り。そこは時間を忘れて遊びに夢中になれる場所だった。

箕浦希奈さん

「いろいろ創意工夫して秘密基地作ったりとか、ほんとに異世界じゃないですけど、そういう体験ができた場所としてはすごくやっぱ豊かだったなっていまになっては思います」

大人になるにつれ、竹林を訪れることもなくなった箕浦さん。

グラフィックデザインの仕事で移り住んだドイツで、意外なかたちで竹と再会する。

店で売られていた歯ブラシ。その柄の部分が竹製だったのだ。

ヨーロッパで竹はプラスチックの代わりの素材として注目されていた。

その竹製の歯ブラシを買い、1日の終わりに歯を磨いていると、時折、ふと頭に浮かぶのは、子どもの時に遊んだ大府市神田町の竹林だった。

『あの竹林はどうなっているのだろう』

なんとなく気になった箕浦さんは去年、3年ぶりの里帰りを機に、久しぶりに竹林を訪れた。

そこで目にしたのは、かつてと同じ場所とは思えないほどに荒れ果てた姿だった。

箕浦希奈さん

「どこで遊んでいたのかわかんないくらい。こんなんじゃなかったので、むなしい悲しいっていうよりかは「あーあ」っていう感じというか、こうなるんだっていう驚き」

夏には1日に1メートル成長するともいわれる竹。
管理には小まめな手入れが欠かせない。

この竹林では長年、地域の人たちが手入れしてきたが、高齢化が進み、担い手がいなくなっていた。

それを知った箕浦さんは「自分がやるしかない」と一念発起。

地元に戻って自ら整備することを決意し帰国。
竹に関する知識や伐採の技術も学んで1人で活動を立ち上げた。

箕浦希奈さん

「もう1回きれいにすれば楽しい場所にもなるだろうなって思ったので、でもそうですねあとはやっぱきれいにしてくださった方がいたんだっていうことに気づいた。これ私がやるかってなりました」

切るだけでなく再利用

竹林を将来にわたり整備し、残していくには、多くの人の協力と持続可能な仕組みが欠かせない。

箕浦さんはクラウドファンディングで資金を調達し、伐採した大量の竹を再利用する商品を開発して、協力を呼びかけていった。

その一つ、竹を炭にした土壌改良材。販売を始めると、大府市名産のぶどうの農家で使われるようになった。

消臭効果のある竹の特性を生かした消臭剤。
コンパクトなサイズで冷蔵庫や玄関先に置きやすくじわりと人気が広がった。

グラフィックデザインの技術を生かし、パッケージは自らデザインした。

商品が売れるにつれ、活動自体も少しずつ知られるようになっていったという。

箕浦希奈さん

「やっぱり竹林整備をしていくだけじゃなくて、外の人に使ってもらう消費してもらうことで竹を持続的に回していくっていうことが必要なので」

地域の憩いの場に

立ち上げからおよそ1年。

1人で始めた活動は地元で広がりをみせ、これまでに100人を超える人たちがボランティアで参加した。

そこにはかつての自分と同じ、子どもたちの姿もあった。

子どもたちに美しい竹林をつないでいきたい。

その箕浦さんの思いは今、地域に根づこうしている。

箕浦希奈さん

「周りの大人たちがやっぱ子どもたちがこう健やかに過ごすためにいろんな工夫とか努力を重ねてくれたっていうのをやっぱ大人になってやっと気づく。いろいろ子どもたちのために活動をしてみえる方がたくさんいてこれは私たちがそれをしてもらっていて恩恵を受けていたんだなってことをやっぱその中で育ってきたっていうのがあるのでそれを私たちが今度は返すターンなのかなって思います」

取材を終えて

行動力があるだけでなく常に明るく優しい。その人柄もまた多くの人を引きつけるのだろうと感じました。

放置された竹林は大府市だけの問題ではありません。富山県出身の田舎育ちの僕にもなじみは深く、実家の隣が竹林です。隣の家はおばあちゃんが1人で暮らしていたので、今度帰省した際に見てみようと思います。みなさんも家の周りの竹林、気にしてみてはいかがでしょうか。

筆者

中川聖太 記者(NHK名古屋放送局)

2020年入局。警察、司法取材を経て現在は中部空港支局。