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外傷患者の救命率は上がるのか?

2022年10月14日

命に関わる大けがをした時、頼りになる救急医療。愛知県は、24時間いつでも緊急手術などができる病院を「重症外傷センター」に指定し、命に危険がある外傷患者にいち早く治療を始められる体制の整備を目指すことになった。どのような仕組みなのか、そして、課題はないのか探った。

「重症外傷センター」設置の狙い

いつ、誰の身に降りかかるかわからない事故や事件。「重症外傷センター」が想定しているのは、その中でも、特にけがの程度が重く、大量に出血して血圧が下がるなど、命に関わる状態の患者だ。

こうした重い外傷患者の命を救えるかどうか、鍵になるのが、いち早い止血だ。

救急医療と言うと、まず思い浮かぶのは「救命救急センター」。愛知県内には24の医療機関が指定されている。ただ、一刻も早く出血を止めないと命が危ない患者に対して、迅速に止血するための手術が、いつでもどこでも行えるかというと、実は、そう言い切れないのが実態だ。

ある救命救急センターの医師は、救急医療の課題をこう指摘する。

「交通事故や労災事故のほか、刺されたり撃たれたりした患者の中には、早く止血できる施設に運ばれれば助かったかもしれないと思う症例がある。事故や事件は、夜間に発生することも多いが、全ての救命救急センターが、24時間いつでも、こうした患者に対応できる体制があるわけではない。医療スタッフも、ある程度の症例を経験し、ノウハウを蓄積している必要がある」

こうした状況を踏まえ、愛知県は「重症外傷センター」を指定し、重症の外傷患者をセンターに搬送する体制の整備を目指すことになった。

まずは2病院で試行

具体的に「重症外傷センター」の整備はどのように進んでいくのか。

愛知県は、9月、名古屋市中川区の「名古屋掖済会病院」と、長久手市の「愛知医科大学病院」の2つを『試行病院』に指定する方針を決めた。

この2つの病院は、今でも、24時間体制で外傷の診療や手術に対応できるほか、消防からの要請に応じて、医師を現場に派遣する体制も確保しているという。

愛知県は、まずは、この2つの病院の周辺の名古屋市と海部地区、尾張東部地区で、2023年1月にも、患者の搬送や治療に関して試験的な運用を始める方針だ。県によると、「重症外傷センター」は、横浜市が2つの病院を指定しているものの、都道府県による指定はこれまでに例がないという。

試行病院の1つ、名古屋掖済会病院で、救命救急センター内部の取材が許可された。この病院では、現在、名古屋市内で最も多くの救急車を受け入れている。

救急車から患者を運び込む出入口に直結する場所に、CTと血管撮影、カテーテル治療、そして手術ができる「ハイブリッドER」と呼ばれる部屋があった。

大量に出血するなどした患者は、すぐにCTで体の中の負傷状況を確認。その結果をもとに、ほかの場所に移すことなくその場で、ただちに手術ができる体制を24時間整えているという。

小川健一朗医師

「重症の外傷患者の場合、24時間問わず、けがをしてから1時間以内に抜本的な止血が行えないと助からない。事故が起きてから、救急隊が駆けつけ、病院に搬送されるまでに20分、30分かかってしまうので、われわれが手術をするまでに、もはや30分しかない。その準備をあらかじめしておいて、すぐに取りかかれるようにすることで、患者さんの救命率を向上させることを狙っている」

大村知事も「重症外傷センター」の整備に意欲を見せる。

「試行的に取り組む形で、医療関係者の合意が得られた。県としても、より救急患者の命を助ける医療を提供するのが、やはり望ましいので、そういった形で進めていきたい」

救命率向上につながるか

自分や家族、大切な人が大けがをした際、少しでも助かる可能性が高まるのは、うれしいことだ。

ある救急の医師は、「重症外傷センター」に程度の重い外傷患者の搬送が集中するようになれば、それだけ医師の経験値も上がり、救命率のさらなる向上が期待できると期待を寄せる。

一方、課題も指摘されている。

救急患者の搬送では、現場に一番近い救命救急センターに運ぶのが、これまでの原則だった。重症外傷センターの構想に対しては、医療関係者や行政関係者からも「近くの救命救急センターに運ぶ方が、より迅速に治療ができ救命できるケースもある」、「試行病院に搬送すべきケースかどうか、救急隊が判断するのは難しい」などといった疑問や懸念の声もあがった。

このため、試行では、まず現場から一番近い救命救急センターに連絡し、そのセンターが受け入れが困難だと判断した場合にのみ、試行病院に患者を搬送することになった。

新しい救急医療の仕組みがスムーズに機能するのか、まずは2023年からの試行に注目したい。そして、しっかりと検証を行いながら運用を進め、適切な診療が受けられずに死亡する患者がいなくなることを期待したい。

筆者

松岡康子 記者(NHK名古屋放送局)

静岡局、豊橋支局、名古屋局、科学文化部、生活情報部を経て、2013年から再び名古屋局。主に、新型コロナなどの医療分野や介護分野の取材を担当。
愛知県小牧市出身で、2人の息子の母親。

三野啓介 記者(NHK名古屋放送局)

2012年NHK入局。徳島局、津局を経て、2020年から名古屋局。2年間、愛知県政を担当。現在は、文化や学術分野を幅広く担当。