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「OD(オーバードーズ)は『助けて』の"声なき声"」若者に広がる市販薬の過剰摂取に向き合うために

ニュース特集

2022年10月3日

「飲み薬」といえば、普通は1度にせいぜい2錠とか3錠といったイメージではないかと思いますが、いま1度に50錠や100錠といった大量の薬を飲む行為が若者たちを中心に広がっています。

特に目立ってきているのが身近に売られている風邪薬などの市販薬の過剰摂取「市販薬オーバードーズ(OD)」です。
その実態を取材しました。

救急救命センターに運び込まれたのは・・・

名古屋市内にある救命救急センター。
夜になって救急搬送の1報が飛びこんできました。

医師

「おう吐とかはされていない?70錠で確定?」

搬送されてきたのは20代の女性。
自宅で睡眠薬など70錠もの薬を一気に飲んだといいます。

医師

「きょう飲まれた薬って何時ぐらいに飲まれたかわかります?」

女性は質問に反応はするものの、ろれつが回っていない様子。
医師は直ちに点滴などの処置を行い、さまざまな検査に取りかかりました。

薬物の過剰摂取、「オーバードーズ=OD」です。
いまこのODによって救急搬送されるケースが相次いでいるといいます。

現場の医師にODによる搬送の頻度を尋ねてみると。

医師

「多い日は1日に数人来ることもあります。精神的なお薬を飲む人もいるし、市販薬をいっぱい飲む人もいます」

"市販薬OD"とは?

薬の過剰摂取を意味する「オーバードーズ=OD」は、もともとは覚醒剤などの違法薬物や、睡眠薬などの処方薬について使われることが多かったことばです。

しかし、最近目立つのは、薬局などで手軽に手に入るかぜ薬やせき止めなどを大量に飲む「市販薬OD」です。

市販薬は定められた量であれば問題はありませんが、大量に飲むと一部の成分によって、
「雲の上をふわふわと歩いているような感覚になる」
「意識を失うように突然眠ってしまう」
といった状態になると言われています。

国立精神・神経医療研究センターなどが、薬物依存の治療を受けている10代の若者を対象に行った実態調査では、8年前(2014)に0件だった市販薬ODは、おととし2020年の調査では「主たる薬物」のおよそ半数を占めるまでに増加しました。
(出典:国立精神・神経医療研究センターなど「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」)

若者に広がる市販薬OD

名古屋の街で若者に話を聞くと。

記者

「『OD』って言葉知ってますか」

10代女性

「あー知ってます」

記者

「どこで?」

20代女性

「ツイッターですね」

20代男性

「友達がそういうのに興味あるって言ってて、この間1回(ネットで)調べたんですけど、思ったより危険じゃないんだなって正直思って」

「死」の危険性も

医師は、市販薬であっても大量に飲めば死につながる危険性もあると指摘します。

名古屋市立大学病院救急科 服部友紀 部長

「脳にたくさんの薬が作用して、脳が興奮し過ぎるとけいれんを起こすんですよね。けいれんして呼吸が止まっちゃうとか。不整脈を起こしてですね、そのままある意味突然死する」

なぜ手を出してしまうのか?

なぜ命の危険もある市販薬ODに、若者は手をだしてしまうのでしょうか。

10代のころにODを繰り返したという女性に話を聞くことができました。

沙良さん(仮名)、22歳です。

沙良さんはODにのめり込んでいた当時、さまざまな悩みを抱えていたといいます。

沙良さん

「親がしんどくて、学校も嫌で。結局、居場所がないし、しんどさを言葉にできないし。とりあえず薬で一瞬、記憶を飛ばしたいみたいな感じで。一瞬で寝られるし、寝たと思ったらずっと吐いてる。一晩中とか。生まれてこなきゃよかったんだから、どうなってもいいになって。自分を傷つけたい。
矛盾しているけど、生きてることを実感したいから、やってた」

きっかけはSNSでした。

沙良さん

「ツイッターでなんかすごい飲んでるみたいな。薬局で買えるってすごいいいじゃんて。安いし」

さらに同じように市販薬ODにのめり込む大勢の若者たちとつながっていきました。
交わされたSNS上の当時のやりとりでは、互いのODを披露しあっていました。
薬を大量に飲めば飲むほど、仲間に受け入れられたと言います。

沙良さん

「すごい量飲めばほめてくれるみたいな。何十錠飲んですごいねっていう。承認欲求を満たしてくれる。ODがコミュニケーションツールでした」

沙良さんを救ったのは・・・

沙良さんは19歳のとき、ようやくODへの依存から抜け出すことができました。

きっかけは支援団体のメンバーとつながれたことでした。

支援団体に匿名でメールをしたところ、心配してすぐに長文の返信が来ました。
匿名の電話などでやりとりを続けるうちに、支援団体から「会おうよ。とりあえずごはん行こう」と誘われました。
沙良さんは、ほどよい距離感で話を聞いてくれる、一緒にご飯を食べてくれる、自分を心配してくれる何人もの大人に出会えたことで「私にはめちゃめちゃ親がいるから、大丈夫。この人生でよかった」と思えるようになったと言います。

沙良さんは今は居場所のない若者を支えるNPOに所属し、過去の自分と同じように苦しむ若者を支援しています。

沙良さん

「生きづらいからODするのであって、生きづらくなかったらODってないと思う。表面は『自分を傷つけたい』だけど、ほんとの本心は『誰かとつながりたい』だったのかなって。ODって、SOS、『気づいて』、『助けて』っていう『声なき声』なのかな」

"市販薬OD"その対策は?

市販薬ODを食い止めるため、国はODにつながる恐れがある市販薬の成分を指定して、注意喚起を行っています。
一方、薬局などの業界でもODにつながるおそれのある市販薬を一度に大量に購入できないよう、店頭で販売個数を制限する取り組みを始めています。

ただ、大量に薬を購入しようと思えば複数の店舗を回って購入できてしまいますし、対策に積極的な店ばかりでもありません。
対策は追いついていないのが現状です。

どうすれば市販薬ODを減らせるのか。
何人かの医師や専門家に話を聞くと、返ってきたのは「若者がODにのめり込む背景に、もっと目を向けるべきではないか」という指摘でした。

若者が生きやすいと思える社会に

若者の精神医学に詳しい、日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第二病院 竹内浩精神科部長

「『つらくて逃げたいからたくさん飲んじゃいました』っていう方はみえます。
SNSとかのつながりを重視していて救急で運ばれてきて初めて突然会ったような僕らにはあんまり何もしゃべってくれなかった。
人間誰しもそうだけど突然いろんなことを自分のつらいことやらをしゃべれない。
周りが支える、つながっていくことが実は遠回りのようでいてすごく大事なことではないかな」

名古屋市で居場所のない若者たちの支援を続ける全国こども福祉センター理事長 荒井和樹さん

「インターネットで薬の情報を得て試してみるとか、ロールモデルに触れる機会が圧倒的に増えたんですよね。生きづらさを乗り越える手段として、自分自身はどのように乗り越えるかというときに人の支えとかサポートではなくて、物質的な手段と言うか、薬物治療的な手段で自分自身をコントロールするというか適応させる。
学校以外にも仕事以外にもいろんな社会が存在して、評価が存在する、価値が存在することを、自分自身が体感できればそこで発生する苦しみ、無能感、無価値感を薬でやり過ごす必要もなくなるのではないか。
互いの存在を必要とする時間をどんどん過ごして。例えば雑談とか、のんびり食事をとることとか、ふれあうこととかですね。生きづらさから抜け出す何かポイントになるかなって思うんですよね」

取材を終えて

長い間ODに苦しんだ沙良さんはいま22歳。私とは1つしか違わないまさに同世代の女性です。
大好きなアイドルのことを満面の笑みで語ってくれる様子を見ていると、自らを傷つけ続けた壮絶な過去をまったく感じさせません。
この記事を読んで、遠い世界の話と思われる方もいるかもしれません。でも彼女を苦しめた「居場所のなさ」や「無能感」といった「生きづらさ」は、決して特別なものではなく、理解できないものではありません。
市販薬ODにのめり込もうとする人は私たちのすぐそばにいるかもしれないのです。

「ODって、SOS、『気づいて』『助けて』っていう『声なき声』なのかな」。

もしそうした人を見かけたら、この沙良さんのことばを思い出してください。そしてその人が抱える「生きづらさ」に目を向けてあげてください。

筆者

工藤楓 記者

2022年入局。初任地が名古屋局で愛知県警の担当。青森出身で、特技はカーリング。
大学では、薬学部と法学部を経験。薬学を学んだものとして、この問題に関心を持ちました。
同世代の声に耳を傾け、発信し続けます。