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性暴力 声を上げ続けて

ニュース特集

2022年7月26日

私たちが日頃当たり前のように使っているインターネットの「検索サイト」。
去年、一部の大手検索サイトにある変化が起こりました。
性犯罪や性暴力に関する言葉を検索すると、これまでは加害者向けの弁護士広告やアダルトサイトが上位に表示されていました。ところが去年から、一部の大手検索サイトで「被害者向けの相談先」が優先的に表示されるようになったのです。
このきっかけを作った女性が、愛知県にいます。
性暴力被害の当事者として、被害者ケアのため奮闘する姿を取材しました。

性被害・・・頼れる場所がない

愛知県に住む前田かや子さん(23)。
高校生の時、学校から習い事へ向かう途中に公園で見知らぬ男性数人から、無理やりに性交をされる被害に遭いました。

前田さん

「すごく痛かったしつらかったです。性暴力や性行為の知識を持たない中で突然そういう目に遭ってしまって、自分が何をされているのかもわからなくて。自分がされたことを恥ずかしいんじゃないかと思っていたし、自分が悪かったんじゃないかという風に自分を責めていました」

しかし、被害を知った親からかけられたのは「近所に知られたら恥ずかしい」という言葉。
本来なら安心して相談できる相手だと思っていた家族や、家という場所が"そうではない"と突きつけられたことが、被害そのものと同じぐらいつらかったといいます。

親からの言葉がきっかけで、その後、被害を相談できなくなってしまった前田さん。
すがるような思いで頼ったのが、インターネットでした。

しかし、性暴力に遭ったときどうすればよいか調べても出てくるのはアダルトサイトや加害者向けの弁護士広告ばかり。
支援情報にはなかなかたどり着けなかったといいます。

前田さん

「被害者がどうしたらいいかっていう情報よりも、アダルトサイトだったりとか性暴力を人の楽しみとして描写されているものばかり目についてしまって。どうしたらいいのかとか、どこで話を聞いてくれるとか、どこで今の私の心をケアしてくれるのかっていう情報にたどり着けなかったんです。被害当事者である私にとっては結構つらいものがありました」

家族や学校、さらにはネットにも、被害者に寄り添ってくれる場所はないと絶望した前田さん。
支援を受けることができないまま時間が経ち、体調は次第に悪化していきました。
被害のトラウマで制服が着られなくなったり、夜眠れなくなったりしたのです。
学校に通うことも難しくなり、家にこもりきりになりました。

やっとたどり着いた支援、しかし問題も

そんな生活を2年ほど続けたあるとき、見かねた知人がある場所を紹介してくれました。

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院内にある、「日赤なごや なごみ」。
性暴力被害者のケアに特化した看護師や医師、支援員が当直し支援を行う病院拠点型の「ワンストップ支援センター」です。
24時間365日体制で性暴力被害者からの相談を受け付けています。

カウンセリング室に案内された前田さんは、ここで始めて被害に遭った事実を安心して話すことができたといいます。

前田さん

「被害に遭ったとき、性的な話をすることはすごく恥ずかしいと思っていました。ワンストップ支援センターに行ったときも「自分が悪い」と思って話していたんですけど、それを誰も「悪い」とか、「恥ずかしいことだ」と言わない。結構面食らったというか、あ、こういう感じで性暴力の話を堂々と話していい場所があるんだということを感じました」

「日赤なごや なごみ」の医療ソーシャルワーカー、坂本理恵さん。
性暴力の被害に遭った人の相談を受け、医療機関や警察などにつなぐ支援をしています。

坂本さん

「相談に来てくださる方ってまず自分を責めてるんですね。被害に遭っていても、突然襲われても、自分がその時その場所を歩いていたことを責めてしまうんです。だからはっきりと、それは全く違うよっていうことをお伝えする。性暴力(被害者)は孤立させてしまうとトラウマを抱えてPTSD(=心的外傷後ストレス障害)になりやすいので、早い段階で安全な場所にいていただけるような支援と安心感を持ってもらえるような支援を大事にと思っています」

しかし、おととしの内閣府の調査によると、強制性交の被害に遭った人のうちワンストップ支援センターに相談したのは全体のわずか0.7%。

坂本さんは、性暴力のトラウマは1人での立て直しが困難だからこそ、支援機関について知ってもらう必要があると話します。

坂本さん

「相談をしたくても(被害者が機関を)知らない。知名度もまだ十分じゃないのかなって言うのもありますし、自分がされたことが性暴力だと認識できていない場合もあると思います。こういうことが起こっているっていう現実をもっと伝えて「相談してもいい」って思っていただけるようにしていかないといけないなと。0.7%という数字はまだまだお役に立ててないなと感じるので」

「被害者を守れる社会に」

前田さんはワンストップ支援センターでカウンセリングを受けたあと医療機関へつながり、PTSDの治療を受けることができました。
適切な治療を受けたことで、社会復帰を果たして大学を卒業しことしの春には就職した前田さん。
こうした支援の情報が被害者に届く仕組みが必要だと痛感しました。

そこで、前田さんは去年、仲間とともにインターネットで署名活動を始めました。
性暴力についてインターネットで検索したとき、検索結果の上位に支援の情報を優先的に表示するようにしてほしいと大手検索サイトなどに求めたのです。

前田さん

「精神科とかワンストップセンターにちょっとでも早くアプローチできていたら私が1人で悩んでいた時間がもう少し短くなっていたかもしれないし、どこかに居場所があることによって緩和できていた部分はあるんじゃないかと思って。私みたいなPTSDとか心の影響はもちろん、意図しない妊娠だったり性感染症のリスクを考えてもいち早く誰か専門的なところに繋がるのは大切なことなんじゃないかと思います。」

署名を始めて2か月。
講演や記者会見などの活動を通じて訴えを続けていると、大手検索サイトの「Yahoo!」にある変化が起こりました。

昨年3月

「痴漢」という言葉を検索すると、これまで上位に表示されていたのは加害者向けの弁護士広告でした。

今年6月

それが、ワンストップ支援センターの案内に変わっていたのです。

NHKの取材に対し、Yahoo!は「変更にあたり、前田さんらの活動も参考にした」と回答しています。

前田さん

「違うかもって思ったことに正直に声を上げることによって変えられるものとか社会に届くものってあるんだみたいなのが実感としてわかったのが嬉しかった。「ちょっと違ってるかも」と思ったその違和感って、信じていいのかも知れないというか」

自分と同じ思いをする人がこれ以上出ないように。
前田さんはこれからも、仲間とともに声を上げ続けていきます。

取材を終えて

つらい経験をバネに、活動している前田さん。「被害を乗り越えた体験を話すことで、今傷ついている被害者を追い込むことにならないか」といつも気遣い、慎重に言葉を選びながら話す姿がとても印象に残っています。
また、「性暴力で悪いのは加害者なのに、被害者が責められてしまう今の社会の風潮を変えたい」という言葉に心から共感しました。「被害者は悪くない」とみんなが口をそろえて言える社会にするため、私も取材を続けていきたいと思います。

記事中で取り上げた「ワンストップ支援センター」は各都道府県に設置されていて、全国共通の短縮ダイヤル「#8891」で無料の電話相談をすることができます。
性暴力の被害に遭われた方、過去のトラウマでつらい思いをされている方、またそういった方が周りにいらっしゃる場合も、ぜひ電話での相談をご検討いただければと思います。

筆者

前岡 和 カメラマン(NHK名古屋放送局)

2020年入局
名古屋局が初任地。これまで東海地方の在留外国人を取材。
性暴力やリプロダクティブ・ヘルスについても取材中。