ページの本文へ

  1. トップページ
  2. ニュース特集
  3. CO2・二酸化炭素を効率的に回収できる技術とは!?

CO2・二酸化炭素を効率的に回収できる技術とは!?

2022年6月13日

東海地方の底力をあちこちで探っている「東海すごいぜ!」
今回のテーマは「空気中のCO2・二酸化炭素を回収せよ」です。
挑戦しているのが「東邦ガス」。地球温暖化防止で、脱炭素化はいまや待ったなしではありますが、そのCO2の回収を、なぜガス会社が目指すのか。東邦ガスの増田信之社長に経済ジャーナリストの関口博之キャスターが聞きました。

どうする脱炭素!?

関口キャスター

世界的に脱炭素化が課題になる中、極論すると、もう石油もガスも使えなくなるかもしれないと考えてしまうのですが、ガス会社としてどう考えていますか?

増田社長

われわれが扱う天然ガスは化石燃料です。燃やすとCO2・二酸化炭素が出るわけで、これをどうカーボンニュートラルにしていくかというのは、真剣にずっと考えていて、そのシナリオも作っています。ただ、いっぺんにCO2の排出を止めようとすると、やはりエネルギーは皆さんの生活に欠かせないものなので困ります。そこで3つの段階で脱炭素化を進めたいと思っています。
一つは、化石燃料でも最もCO2の排出量が少ない天然ガスに、石炭や石油から変えて頂く、それで足元のCO2の排出量を減らします。電気と熱を両方利用するコージェネレーションのように高効率な設備への切り替えも提案していきます。
また、植林など世界のCO2削減プロジェクトで削減したCO2の価値を購入し、カーボンニュートラルLNGとして、都市ガスのお客様に提供するのが2つ目です。
そして第3段階が天然ガスを今後、カーボンニュートラルな合成メタンに変えていくことです。都市ガス自体をカーボンニュートラルなものにしていこうということで、いろいろな技術開発は必要ですが、これがこれからもっと力を入れていかなければいけないことです。

関口キャスター

東海地域は自動車はじめ、世界と競争しているメーカーも多いわけですが、企業側の脱炭素化への関心やニーズはどうですか。

増田社長

ここ2,3年ニーズ、要求は高くなっています。やはり輸出企業などからは一刻も早く合成メタンを持ってこられないかというニーズも強く出ていて、エネルギー会社としては要望に少しでも早く答えられるようにと考えているところです。

合成メタンとCO2分離・回収とは

関口キャスター

合成メタンを作るカギになる技術としてCO2の分離・回収の研究に取り組んでいますね。

増田社長

合成メタンには原料としてCO2と水素が必要になります。これを組み合わせてメタネーションという反応をおこします。
ですから▽CO2を効率的に回収する技術と、▽水素を安定して安く作れる技術、それと▽メタネーションの技術、これらが揃って初めて合成メタンを都市ガスに使えるようになります。

超低温で冷やせ!

増田社長

CO2は工場などからの燃焼排ガスにも多く含まれますが、それに加えて空気中に薄くあるCO2をギュッと集めて回収してくるという技術も必要です。東邦ガスはLNG・液化天然ガスを扱っていますが、これはマイナス162度の超低温です。この冷熱を冷却に使うとCO2を回収する効率が格段に上がるので、その技術開発を進めています。

関口キャスター

その仕組み、ざっくりいうとどうなりますか。

増田社長

一言では難しいんですが(笑)まず特別な吸収液を使ってCO2を吸着し、次に吸収液にくっついたCO2をまた分離します。この時、従来は熱を加えるため、そこに大量のエネルギーを使っていました。一方でCO2はマイナス80度に冷やすとドライアイスになります。LNGの超低温を使ってCO2を一気にドライアイスにすると体積が急激に減って、装置の中が真空に近くなります。それによってCO2の分離が加速度的に進みます。 使うのは冷熱だけなので、非常に効率的です。

実用化はいつ?

関口キャスター

これは社会課題解決の野心的な目標を掲げる、国の「ムーンショット型研究開発」に採択されています。

増田社長

トータルで効率的にやるのは今まで事例がなく、初チャレンジです。こういう形での開発は世界でも初で、2029年をターゲットにしています。

関口キャスター

山登りだと、今はどの辺ですか。

増田社長

まだ今、実験室ベースなので三合目ぐらいという感じですか。まだハードルがあります。

カーボンニュートラルへの挑戦

関口キャスター

去年東邦ガスが出した「カーボンニュートラルへの挑戦」という構想では2030年までに合成メタンを製造という目標も掲げられています。実現できますか。

増田社長

技術的には可能だと思っています。いろんなハードルが当然ありますが、実はメタネーション技術自体は、100年ぐらい前にできた技術です。実は東邦ガスでも天然ガスを導入した時に、LNGが万が一、需給バランスで足りなくなった場合の代替ガスとして、ナフサを原料にメタンを作れるように、というようなことも試みていましたので技術的にはやれます。

関口キャスター

われわれ消費者にとって、この技術はどう役立つのでしょう。

増田社長

合成メタンができると国民の皆さんに大きなメリットがあります。合成メタンは今の都市ガスと同じような成分です。天然ガスがカーボンニュートラルな合成メタンに変わっても、今、お客さんが使っているガス機器はそのまま使えますし、市中に張り巡らされているガス管もそのまま使えるんです。お客様負担、あるいは社会負担をできるだけ少なくしながら、カーボンニュートラルに持っていける、非常に有効な手段だと思っています。

関口キャスター

そもそもの質問で申し訳ありませんが、どうして合成メタンを使えば、カーボンニュートラルだと言えるのでしょう。合成メタンでも家庭のガスコンロで使えば二酸化炭素は出ます。

増田社長

必要なのは「CO2をリサイクルしてくる」ということなんです。合成メタンを作る原料としてCO2と水素といいましたが、その水素を化石燃料から作ると、やはりその過程でCO2を出すことになってしまいます。しかし再生可能エネルギーで作った水素を使えばCO2フリーです。それとCO2についても、大気中からとか、例えばバイオガスから出てくるCO2を集めてこられれば、いわゆる「カーボンリサイクル」になります。仮にそれを燃やしてCO2が出たとしても、そのCO2がそもそも空気中からとか、植物が大気中から吸収して作った燃料から出てきたものなので、CO2を増やさないということになるんです。

関口キャスター

俗な言い方だと「行って来い」になっている、少し上品に言うと「相殺されている」と。

増田社長

そういうことです。

関口キャスター

合成メタンを作るメタネーションにはガス業界各社がそれぞれ特色のある技術を持っています。各社が手を組むことで、それこそ日本の強みになるのではないでしょうか。

増田社長

例えば大阪ガスや東京ガスはメタネーション自体をいかに効率化するか、技術開発を進めていますし、われわれはCO2の分離回収に力を入れています。ガス業界だけでなく、いろんなメーカー、素材メーカーや機械メーカー、化学メーカーも技術開発を進めてくれていますし、国もグリーンイノベーションの補助金など後押しする施策を打ち出しています。良いものができてくればそれを組み合わせながら、さらに良い方向に進めると思っています。

世界をリードせよ!

関口キャスター

チーム日本として、世界に対してもこれは日本の強みだと言えるようになりますか。

増田社長

その意味では、ガス業界は合成メタンを目標にしていますが、より広く「合成燃料」は日本にとってものすごい強みになると個人的には思っています。例えば合成ガソリン、カーボンニュートラルの合成ガソリンを作れば日本が強いハイブリッド車にそのまま使えます。またコージェネを含めた省エネ設備や技術力も生かせます。合成燃料は日本にとって非常にプラスになる技術開発だと思います。今、燃料会社、エネルギー会社が合成ガソリンに取り組み始めているので、将来楽しみになってくると思っています。

関口キャスター

脱炭素化という目標の一方で、社会的なコストを考え、インフラをどう再整備していくかも同時に考えるべき課題です。

増田社長

脱炭素化は避けて通れない、必ずやっていかないといけない目標ではありますが、それに向けて今はやや、再生可能エネルギー一辺倒になっているかもしれません。「カーボンニュートラル=再生可能エネルギー」という形で、少し固定的になっています。けれども選択肢は決してそれだけではなく、出力が不安定な再エネの電力を補うものとしても、合成メタンなど合成燃料は必要です。貯蔵もできますから、安定したエネルギーとしても使えます。こうしたものを組み合わせながら将来的なカーボンニュートラルに向け進めていく、このモデルは世界にも当然役立つと思います。