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そのとき何が~住民が語る 線状降水帯の夜

防災

2022年6月15日

積乱雲が帯状に連なり、ゲリラ豪雨のような激しい雨を集中的にもたらす線状降水帯。2020年7月7日、その線状降水帯が岐阜県下呂市を直撃しました。そのとき住民たちの身に何が起きたのか。証言を追いました。

恐怖の一夜の始まり

2020年7月7日夕方。下呂市小坂町長瀬地区に住む後藤あけみさんは子どもたちと自宅で過ごしていました。夕食の用意にお風呂、いつもと変わらない時間のなかテレビでは大雨のニュースを伝えていましたが、よくあることだと感じていました。

後藤あけみさん

「この地域は山あいにあってよく雨が降るので。ことしは少し長雨だなとは思いましたが、普通の雨の降り方だったので危機感はあまりありませんでした」

7月7日午後8時

後藤さんがいつもと少し違うと感じ始めたのは7日午後8時から9時ごろ。線状降水帯の発達した積乱雲が小坂町にかかり始めたころでした。きっかけは「音」でした。「テレビの音量を上げても聞こえないぐらいのざーっという雨の音。そこまでひどい雨の音という経験はなかった」。いつになく激しい雨に後藤さんは不安を覚えました。しかしそれでもすぐに避難するほどではないだろうと考えていたといいます。

7月8日午前0時

それから4時間ほど。雨は激しさを増したまま一向に弱まる気配はありませんでした。一日の終わりの疲れを感じながらも避難の文字が頭をちらつき始めたころ、後藤さんは次の異変に気づきました。

後藤あけみさん

「ちょっとうとうとはしていたんですけど。土の匂いがしてきたので、ちょっとやばいかなと思って。家の中から見たらもう一面が土砂で埋め尽くされるような感じで」

避難所へ向かう道に土砂

7月8日午前2時半ごろ。町じゅうに避難を呼びかけるサイレンが響き渡りました。後藤さんは避難を決意。車に3人の子どもを乗せ、自宅を出発しました。道路上には流れてきた土砂がつもり、川のような流れのなか安全を確認しながらゆっくりと車を走らせました。しかし500メートルほど進んだところで通行止めに。その先の道路が大きく崩れた土砂で埋まってしまっていました。避難所につながるほかの道も土砂が流れ込んで進むことができず、自宅に引き返さざるを得ませんでした。

後藤あけみさん

「もうこれ以上行けないんや避難所行けんのやっていう恐怖と不安。この後どうなるんだろうっていうよりは今、今どうしようって。どうなっちゃうんだろうって思った」

平年1か月の半分以上の雨

線状降水帯は7日午後8時ごろから翌8日午前2時ごろまでの6時間、後藤さんの暮らす小坂町長瀬地区に激しい雨をもたらしました。周辺で最も雨量の多かった地点では平年7月1か月に降る量の半分以上にあたる250ミリの雨が観測されました。

後藤さんが眠れずに過ごしたこの夜。下呂市周辺では線状降水帯による雨で土砂崩れや浸水の被害が相次いでいました。

異変の確認 情報が命救う

この激しい雨のなか、避難の判断で九死に一生を得た人が同じ小坂町長瀬地区にいました。後藤さんの自宅から歩いて10分ほどのところに暮らす山下信義さん(85)です。

山下さんはこの日、1人で暮らす2階建ての住宅でテレビで雨の情報を確認していました。九州での激しい被害を伝えるニュース。アナウンサーは線状降水帯の危険性を訴えていました。雨雲が東海地方にも近づいていると知った山下さん。7日午後8時ごろに裏山の小川の様子を見に行きました。ふだんは水が流れていない空の小川ですが、この日は深さ10センチほどの水が流れていました。それ自体はよくあることでしたが、問題は石が転がるような音が聞こえたことでした。これまでに聞いたことのない音でした。

山下信義さん

「この40年住んでおる中で初めてだったんです。多分、土砂崩れの始まりじゃなかったかと思うんですが、これを聞いたときにちょっと危険かなと。そのとき初めてこれは大変だなと思った」

テレビで雨雲の情報を確認した山下さんは午後9時半ごろに近くの中学校へ避難。これが生死を分ける判断となりました。

翌朝、自宅に戻った山下さん。目にしたのは裏山から自宅の壁を突き破り、部屋のなかに流れ込んだ大量の土砂でした。山側の1階はほぼ土砂に埋もれ、寝室では高さ2メートルほどの天井近くに達していました。この夜、避難していなければ寝ていたベッドは完全に土砂の下敷きになっていました。

隣の部屋の時計の針は午前2時16分で止まっていました。線状降水帯の激しい雨が6時間ほど降り続いたあとの時間帯でした。山下さんはそのほかの証言などからちょうどそのころに大量の水を含んだ裏山の土砂が崩れたのではないかと考えています。

山下信義さん

「安心して寝とりゃあの世やったろうし。幸いやったなと。思いついた時に避難するのがやっぱり一番かなと思いますよ」

早めの避難を

避難できず自宅で眠れない夜を過ごした後藤さん。幸い被害はありませんでしたが、今はできるだけ早い避難を心がけています。

後藤あけみさん

「テレビとか携帯とか、ラジオでもそうですけど 情報を得てもらうのがまず第一だと思うんです。いつもと違うなっていう感覚もですけど、"とにかく早めに"が一番だと思います」

予測発表も道半ば

気象庁は6月1日から線状降水帯の発生のおそれがある場合には半日前から6時間前までに発表する取り組みを始めました。しかし現状の予測では「関東甲信」や「東海地方」といった地方単位での発表にとどまり、的中率も全国で2回に1回程度、地方単位では4回に1回程度とされています。気象庁は「正確な予測は難しいが呼びかけをするときは状況が急激に悪化する可能性が高いと考えている」としていて、情報が出たら警戒を強めることが大切だと訴えています。

また線状降水帯は情報がないままに発生することも度々あります。ハザードマップや避難場所、避難経路などを日頃から確認し、異変や異常を感じた時はすぐに避難する。そうした心構えが命を救うと取材を通して感じています。

筆者

秋山大樹 記者(NHK岐阜 高山支局)

東京都葛飾区出身。妻と生後5か月の娘と暮らしています。2018年入局後、岐阜局を経て2021年から高山支局へ。当時は道路が寸断され、長瀬地区に入れたのは7月10日でした。

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