1月28日、愛知県清須市内で開催された「どうする家康 スペシャルトーク in 清須」。
徳川家康の家臣・石川数正を演じる俳優の松重豊さん、城郭考古学者の千田嘉博さん、「どうする家康」制作統括の磯智明チーフ・プロデューサーが、ドラマで描かれる家康像、石川数正像や、今後の見どころ、撮影の裏話について、たっぷりトークを繰り広げました。
この日は第4回「清須でどうする!」の放送前日。松重さんは「信長の本拠地・清須に、僕が一人で乗り込むとは思いませんでした」とあいさつし、会場は、笑顔と拍手に包まれました。
(司会:NHK名古屋 浅田春奈アナウンサー)
初登場は20代!有能な武将 石川数正


千田嘉博さん
『どうする家康』を毎回2度ずつ見ています。石川数正はカッコいいシーンがすごく多いですね!
松重さん
恥ずかしいですが、第1回、2回あたりの数正は20代です。出演シーンに年齢が出ないのが救いなんですが。僕は先日、還暦を迎えました。この40年のギャップをどう埋めるか(笑)。

磯プロデューサー
僕が、いちばん最初に松重さんとご一緒させていただいたのが「毛利元就」という大河ドラマです(1997年放送)。松重さんは吉川元春という非常に有能な武将で、まだ助監督だった僕は、松重さんと一緒に槍の練習をした記憶があります。だから松重さんにはずっと有能な武将のイメージがありまして。あらためて「(数正は)20代なのか」と思ったんですが、でもやっぱり徳川家臣団の一番の切り込み隊長、すごいキャラクターを演じていただいて、すごくよかったなと思っています。
20キロ超のよろいに過酷な時代を実感 強力なライバルにどう立ち向かう!?

松重さん
昨日も合戦の撮影で、みんなと「よろいを着る時間が短かったので少し楽だったね」と話していました。
ドラマの鎧はちゃんと見せるために鉄がふんだんに使われていて、20~30キロくらいある、重いんです。それで合戦をやならなきゃいけない。そういう日々を過ごす戦国時代の武将というのは、とにかく生きるか死ぬかで、やっぱり心の底から願うのは平和な時代、よろいを早く脱ぎたい。そういう思いでやっているんですが、どこでいつ命を落としてもおかしくなかったんだなと、演じていてリアリティがあります。
そのへんをハラハラしながらぜひどうなるか見届けていただきたいと思います。
磯プロデューサー
確かに、戦国時代は実感としてそうだったのかもしれません。すき好んで戦っているわけではなく、早く終わってほしいと思っている。家康は家臣団のそんな姿を毎日見ていて、早くこの戦争を終わらせなくてはと思ったんじゃないか。
ドラマの序盤は彼の優しさや共感できる人物像を描いていますが、やがて国や世の中をどう考えていくのか。今はその下地作りやキャラクターを描いているところです。
千田さん
この先のドラマの展開にあれもこれも期待しているんですが、信長との同盟を乗り越えても、次は家臣団分裂の危機の三河一向一揆がやってくる。その後は武田信玄がやってきますから、大変ですよね。数正はえらい武将に仕えちゃいましたね。
松重さん
岡田准一さん演じる信長はマッチョで圧をかけてくるし、武田信玄も強いし、すごい敵ばかり。松本潤、さあ頑張れと。

磯プロデューサー
今回の信長像は新鮮です。信長は、理解できない高度な発想をする人物として描かれることが多いですが、家康にとっての信長は、幼い頃から知っている兄貴的な部分があり、周りから恐れられる信長も、家康には違う表情を見せます。
岡田さんと松本さんは、アイドルという立場でも先輩・後輩の関係でリスペクトや絆があり、その味わいがお芝居に出てきて、信長と家康の関係も楽しく見ていただけると思います。
頭脳派、外交官役の石川数正 "数正出奔"事件に注目!
浅田アナウンサー
石川数正という人物について、松重さんはどんな人物だととらえて演じていらっしゃいますか。
松重さん
石川数正は、小牧・長久手の戦いの後、秀吉の元に出奔するとあらかじめ分かっています。物語の中でも大事件で、僕はそこが一番の魅力でした。
主君への裏切りの意味では、明智光秀とあまり変わらないことをしたのかもしれませんが、現代の組織に置き換えてもそういうことはあるかもしれない。それに出奔した年齢が53歳で、人生の晩年なんですよ。若手の家臣団が台頭し、僕もそろそろ引退したいという時に『悪いけど秀吉のところに行ってくれない?』『いや、それはちょっと...』という感じだったかもしれないし、個人の幸せを選んだのかもしれない。分からないんですよね。いろんなことを考えながら大事件に備えています。

千田さん
これはドラマの中でも非常に重要なポイントになると思うので、どう描かれるのか今から楽しみに、そして心配しています。石川数正は、秀吉から『うちに来たら3倍の金を出すよ』『じゃあ行きます!』ということだったのかもしれない。今、ドラマでは数正の株がすごく上がっていますが、そんなことになったら暴落ですよ、えらいことです(笑)。
石川数正は、三河一向一揆の時も、家康に仕えるために宗派を変えるんです。それほど家康に忠誠で、小牧・長久手の戦いの後、秀吉とギリギリの交渉を組み立てていくのも数正。頭の回転が早く弁が立ち、バランスが取れた人なんです。そんな人がなぜ?
磯プロデューサー
石川数正は常に今川方や織田方との外交官役なんですよね。三河の家臣団の中でも国際人的な発想を持つ人で、だからこそ家康も一目置いている。松重さんが石川数正をやっていただければハマると思ったし、まさに石川数正的なところがあるのかなと思う。数正の出奔については古沢さんも考えていて、そこに至る積み重ねを含めてドラマチックになると思います。
"等身大のヒーローとしての家康"と俳優・松本潤さん
磯プロデューサー
脚本の古沢さんが徳川家康の大ファンで、古沢さんは「家康という人物は信長ほど強くもなく、信玄ほど器の大きい人間でもない。ただ三河の殿だったことと、家臣団という優秀で個性的な人たちがいたから、たまたま天下を取れたんだ」と。古沢さんにとっては等身大のヒーローだったと聞き、この視点の家康はあり得ると思いました。
歴史家の先生方に話を聞くと、あながち間違っていない。家康は苦労の連続で、戦の勝率は3割くらい負けているんですよ。武田信玄や織田信長の成績には遠く及びません。それで天下を取るのはユニークです。主人公にしたらスリリングで魅力的じゃないかと思いました。
松本潤さんは、嵐というグループで長く活動されチームワークもよく知っている。魅力がないと誰も殿についていかないですが、役者としての力量に加えて人間的な魅力もある彼ならドラマ以上のものが表現できると思い、お願いしました。
浅田アナウンサー
愛されるリーダーというか、「俺についてこい」だけではなく皆が「殿」を愛して、徐々にリーダーになっていくというところが、松本さんのキャラクターとリンクしているということですね。
松重さん
家康のキャスティングは非常に難しいと思います。これからどんどん大きくなると期待させる人がふさわしく、その人物が姿を変えていくさまを見たい。松本潤くんは、そういう期待を抱かせるものを放っている稀有な俳優さんだと以前から思っていたので、大化けする期待を込めて家臣団として見守っています。
最後は見たことのないおぞましい部分も含め、古狸になっていくんじゃないでしょうか。
第4回で話題の清須城 今後も注目か!?
浅田アナウンサー
第4回で登場した清須城ですが、歴史上では、この先もいろいろな舞台になったそうですね。
千田さん
清須城は家康にとっても非常に重要な城になります。信長が本能寺の変で死んだあとに開かれた「清須会議」に家康は出席していませんが、清須会議の結果を了承し、それに従って行動していくという非常に賢い立ち振る舞いをします。そこでは石川数正の外交力が十二分に発揮されている。
一般に清須城は信長の居城で、織田信雄がその後城主になるというイメージがありますが、実は小牧・長久手の戦いの頃は、尾張の戦線は家康が担当していて清須城が作戦本部になるんです。だから清須は家康もよく知っているし、数正もあの角を曲がったら何があるか知っているくらいの街だったと思います。小牧・長久手の戦いのときにも、家康や数正はいきなり小牧山には行っていないはず。まずは清須で会議し、じゃ小牧へ行こうかと。
このあたりが「どうする家康」でどう描かれるか、1ミリも出てこないなんてことはないと思います!
磯プロデューサー
ちょうどそのあたりに取り掛かろうとしていたので、きょう聞けてよかったです(笑)
松重さん 「松本潤さんのサプライズ」に心わしづかみ!?
浅田アナウンサー
まだまだ撮影は続きますが、今の「三河家臣団」の雰囲気はどうでしょうか?
松重さん
「三河家臣団」というグループLINEがありまして(笑)、殿から「今日、お疲れ。大変だったね合戦」、みんなが「明日もよろしくお願いしまーす」とか、それぞれ書くんです。それがいまだに続いてますね。僕は石川数正なので距離を置いて既読スルーすると、殿に「松重さん、見てるなら何か返してください」と怒られるんですよ。ちょっとうっとうしい関係ですが、それが家臣団の結束力なのかな。
僕は今月(2023年1月)還暦を迎えたんですが、スタッフ全員が還暦祝いの赤いTシャツを着て「おめでとうございます!」と言われました。全部松本さんが考えたと。そういう気配りで人の心をわしづかみにするところが、家康だなと思います。
磯プロデューサー
背中に松重さんの写真が入ったTシャツです。松重さんは知らずに入ってきて、スタジオを赤いライトで染めて。そういうのを松本さんが考えました。
松本さんは、初めに「僕はどちらかというと信長タイプじゃないかなあ」とおっしゃっていたんですが、いつも台本を見ながら「この時、家康はどんな気分だったんだろう」と悩み考える姿を見ると、やっぱり家康タイプじゃないかと。その気配りにこちらもなんとか応えて頑張ろうと思いますし、それが映像ににじみ出て面白いドラマになるんじゃないかと思いますね。
松重さん
グループLINEは今でもよく鳴りますが、僕は勝手に一人で行動しています。山田裕貴くんや杉野遥亮くん、世代交代で彼らが時代を作っていかなきゃいけないし、物語の中でも意見しやすい空気に持っていくのが大事だと思うんです。だからもう古株は出奔!ですね(笑)。

物語は、東海から。
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【公式サイト】
松重豊さん
僕は大河ドラマを5回ほどやらせていただいたんですが、家康はすでに語り尽くされているので、逆にやりがいがあります。脚本家の古沢良太さんが、家康という大きな材料をどんな切り口で脚本に落とし込んでいただけるのか。序盤は、家臣団もまだチームワークがうまくいってるとは言いがたく、松本潤さん演じる家康がどうやって天下を取っていくのかを見届けてほしいです。