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あのとき、何食べた? シャルビン 伝えたいお母さんの料理


皆さんには"忘れられない食事"はありますか?
「あのとき、なに食べた?」は、中部に住む外国籍や外国にルーツのある方々の"忘れられない一品"を掘り下げるグルメドキュメントです。

岐阜県郡上市でモンゴル文化を体験できるキャンプ場を運営するサルラさん(40)。14年前、日本の大学院で学ぶため中国の内モンゴル自治区からやってきました。中国の少数民族、モンゴル族です。サルラさんの胸にあるひとつの願い。それはモンゴルの文化を絶やさず、次世代に受け継いでいくことだといいます。

目次
モンゴル族の文化を受け継ぐ。

ここは岐阜県郡上市の「ミニモンゴルキャンプ場」。モンゴルの文化をそのままに体験できるキャンプ場です。モンゴルの移動式住居"ゲル"が立ち並び、馬や羊が放し飼いに。サルラさんが日本人の夫とともに運営しています。二人の間には娘が一人。6歳になるユリアちゃんを、サルラさんはもう馬に乗せ始めています。サルラさんが馬に乗り始めたのも6歳のころだったそう。家畜を追い、家の仕事をこなすためです。動物は常に身近な存在でした。「モンゴル人として、自分が親から教えてもらったことをできるだけ子どもたちに教えていけたらと思う」と話します。

お母さんから教わったシャルビン

サルラさんは娘に伝えたい料理があるといいます。モンゴルの揚げギョーザ"シャルビン"です。
モンゴルでは生地から自分で作るのが普通だそう。小麦粉に水を加え、練っていきます。その次は中身。使うのは牛肉です。みじん切りにしたにんにくとしょうが、長ねぎ、そして玉ねぎを混ぜ、練り込んでいきます。味付けは塩とうまみ調味料、こしょうです。中身を生地でつつみ、平たく潰したら、フライパンにたっぷりの油をしき、揚げ焼きに。これで完成です。

材料:2~3枚分
  • 小麦粉・・・400g
  • 水・・・250ml
  • ひき肉・・・250g
  • 玉ねぎ・・・50g
  • 長ねぎ・・・100g
  • にんにく・・・3g
  • しょうが・・・1g
  • 塩・・・8g
  • うまみ調味料・・・小さじ半分
  • 白こしょう・・・少々
伝え残したいモンゴルの文化 しかし...

サルラさんは牛肉を混ぜながら、「本当は羊肉で作るんだけど、日本ではなかなか手に入らないから」と少しさみしげな顔を見せました。
モンゴル族にとって、シャルビンは家族で集まる正月に必ず食べる料理だそう。サルラさんが最後に故郷に帰ったのは3年前。ユリアちゃんも一緒でした。すぐにモンゴルの文化が好きになったユリアちゃんは、モンゴルの言葉を覚え始めています。

しかし、日本に戻ってすぐサルラさんは衝撃を受けることになります。内モンゴル自治区で、中国語による教育の強化が始まったのです。内モンゴル自治区の学校で行われる授業の一部が、モンゴル語ではなく中国語で行われることになりました。モンゴル語が消えてしまうのではないか。抗議活動を行う生徒や保護者もあらわれました。サルラさんは「生まれ育ったなかで教わった言葉が、どうしてなくならなくてはならないのか。切なくて悲しいです」と訴えます。

仲間とともに 日本で故郷の文化を守り、伝える

サルラさんは、日本でモンゴル族の文化を守り、伝えていきたいと願うようになりました。故郷を思い出せる場所を作りたいと日本に住む内モンゴル自治区やモンゴル国の人々をゲルに招きます。振る舞うのはシャルビン。「おいしい」と好評です。日本に住む内モンゴル自治区出身者のなかには、もし故郷で「モンゴル文化を守りたい」と主張したら逮捕されるのではないかと不安を感じる人もいます。いつ帰れるか分からないと語る人もいました。遠くなってしまった故郷を思い、仲間たちと語り合います。

サルラさんはユリアちゃんに、羊の骨付き肉の食べ方を教えます。骨が真っ白になるまで肉を削り取り、決して無駄にしないのがモンゴル人の風習。「日本人がお米一粒も無駄にしないのと同じこと」と語ります。遠く離れたモンゴルと日本。しかし、人間として大切にしているものには違いがないようでした。
お父さんがユリアちゃんに問いかけます。「ユリアはなに人?」ユリアちゃんは「今まで考えたことなかった」と肉を食べる手を止め、そして少し考えると「モンゴル人と日本人、両方ともかな」と笑顔で言いました。

自分がどう生きるのか。それを自分で決めることのできる未来を残してあげることが私の願いだ、とサルラさんは話しています。

取材後記

印象に残っている瞬間があります。
モンゴルの移動式住居"ゲル"のあいだを馬や羊が自由に駆ける様子を見て、「なぜ動物を放し飼いにしているのですか?」と聞いたときでした。サルラさんはしばらく時間をおいて、「動物を自由にしてあげたいから」と話します。「本当は動物が先にこの世界にいて、そのあとに人間がいろんなものをつくった。そして、やがて柵をつくって、動物を囲うようになった」草原には国境もなかったはずなのに。サルラさんはそう続けました。
遊牧民として草原を自由に駆けたモンゴル族の人々は、いまさまざまな「柵」に囲われ、そのあり方が変わろうとしているのかもしれない。私はそんな風に感じました。



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