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在日コリアン成人式"変わる若者の意識"

ハロー!ネイバーズ

2022年3月9日

名古屋市では毎年、在日コリアンの若者たちが集う成人式が開かれてきました。
ことし式を主催した男性は過去に自らのルーツを隠して在日コリアンの成人式に出席しなかった人でした。
新しい時代を生きる在日コリアンの若者とそれを見守る男性の思いを取材しました。
(名古屋放送局 宗像正勇記者)

知られざる盛大な成人式

ことし1月8日、名古屋市のホテルで在日コリアンの若者の成人式が開かれました。去年、新型コロナの影響で参加できなかった成人も集まり、例年に増してにぎやかな式となりました。

女性はこの日のために韓国の伝統衣装「チマチョゴリ」を用意しました。式が始まる前には、家族とうれしそうに記念写真を撮っていました。

成人式を主催したのは、在日コリアンで作る団体「民団=在日本大韓民国民団」の愛知県地方本部の事務局長、チョウ・チョルナムさんです。

チョウさんは県内に住む在日韓国人の支援などとともに日韓友好に取り組んでいます。

感染予防を徹底するためホテルと何度も打ち合わせを重ね、成人式の開催にこぎつけました。

チョウ・チョルナムさん

「人生で1回しかないことなのでなんとか開催できてよかったです。みんな喜んでくれたんじゃないかと思います」

韓国人であることを隠し続けた子ども時代

現在は韓国人の名前を名乗り、「民団」で働くチョウさん。
幼いころは差別を恐れ、韓国人であることを隠して生きていました。

「安田」という日本名を使い、自分が韓国人であることが友人たちに知られることを恐れて過ごしていたといいます。

忘れられない出来事があります。
当時、チョウさんが通っていた学校では家庭の状況を詳しく調べる「調査書」がありました。親の名前や勤務先に加え、国籍も書かなければなりませんでした。

チョウ・チョルナムさん

「今ではありえないことですが、新学期に入ると個人情報を書く書類を提出させられていたんです。そこに国籍を書く欄もありまして。先生が『前の席の人に送りなさい』と言って書類を集めるんです。でも、そうすると前の席の子たちにも自分が書いた書類が見られて『何だおまえ韓国人だったのか』とバレてしまう。それが嫌で先生に『持って来るのを忘れました』とウソをついてその場では提出しませんでした。あとで1人だけ職員室に持って行きました。友だちと違って韓国人であることが嫌でした。国籍は子どもにとって自分の力ではどうしようもないことでした。布団に入る前に神様にお祈りしたこともあります。『目が覚めたら日本人になっていますように』って」

大人になり、同じ境遇にある在日コリアンの人たちと話したり、行事に参加するうちに祖国に対する考え方が大きく変わりました。

今も残る不安

しかし、現在でも差別や偏見について考えさせられることも少なくありません。去年、残念な出来事もありました。民団の施設が放火されたのです。
幸い、けが人もなく、大きな被害はありませんでしたが、日韓友好に取り組んできただけに、恐怖とショックを感じたと言います。

チョウ・チョルナムさん

「まさか火をつけられるとは思いませんでした。命を狙われたということで怖いです。こういうことがあると私たちも怖くて萎縮してしまいます。韓国人であることをオープンにしづらくなってしまいますね」

若者に胸を張って欲しい

実は、チョウさんは、韓国人であることを隠していたため、30年ほど前の、自らの韓国式の成人式には出席しませんでした。

自分ができなかった分、若い人たちには家族と晴れの日を祝ってもらおうと趣向も凝らしました。

家族に向けた手紙を読み上げるサプライズを演出しました。

女性

「ママとパパへ。20年間育ててくれてありがとう」

男性

「今までの自分にとっての“あたりまえ”はすべて母のサポートだったことをようやく知りました」

女性

「21年間何度も支えてくれて、こうして大人になることができました。私にとって2人は世界一のお父さんとお母さんです」

子どもたちからの感謝の言葉に、会場では涙ぐむ姿が見られました。

うれしいジェネレーションギャップ

会場の新成人からは、自らが在日コリアンであることについてポジティブな言葉が返ってきました。

K-POPや韓国ドラマが世界で注目されるなか、新成人たちは、自分のルーツを愛していると感じました。

女性

「自分が韓国人だというと、友だちからうらやましがられることが多いのでうれしいです。みんなも興味を持ってくれて」

男性

「誇りに思ってます。すぐ友達に免許証を見せて『オレ韓国人だよ!』って言ってます」

女性

「韓国の血が入ってるって自慢しています。うれしいです」

親と子の世代で韓国人であることに対する意識が大きく変わっていました。

「チマチョゴリかわいくて絶対着たかったんです。きょうの写真もSNSに投稿しています。自分が韓国人であることを隠したりしません」

父親

「私たちの世代は韓国人であることを隠していました。いまとなっては、隠していたことを恥ずかしいと思います。娘は韓国人として誇りがあると思う。その心にありがとうって言いたいです」

日本と韓国の2つの文化を持つことを「個性」として、前向きに捉えている若者たち。
チョウさんも、彼らがこれからの社会を変えていくと実感しています。

チョウ・チョルナムさん

「自分は、子どもの時にすごく大きな抱えきれないような問題だと思っていました。でも、社会が少しずつ変わることで、若い子たちはなんとも思っていない。解決しなければいけない問題や課題も山積しているのはあるんですが、少しずつ着実に社会が開かれていっていると思います」

取材をして感じたこと

7年前、東京新宿区の取材を担当していたとき、若者に広がった爆発的な韓流ブームでコリアンタウンの大久保が大きく変わりました。
若者向けの韓国料理店や化粧品店、KーPOP関連の店が次々とオープンし、全国から修学旅行などで若者が押し寄せ、細い路地は歩けないほどでした。

ことし成人式を迎えた若者たちは物心ついたときから”韓流”があふれている、いわば「韓流ネイティブ」ともいえる世代で、取材した新成人も、韓国人であることを誇りに思い、「カッコイイ」「カワイイ」という価値観を持っていました。

一緒に成人式に出席していた親の世代が「こんな時代が来るとは思わなかった」と口々に言われていたのが印象に残りました。

取材したチョウさんの言うとおり差別や偏見が無くなったわけではありませんが、こうしたポジティブな変化を通じて社会がどう多様性を獲得していくのか、取材を続けていきたいと思います。

筆者

宗像正勇 記者(NHK名古屋放送局)
2007年入局 京都府警→大阪府警→東京社会部警視庁で11年間警察・事件取材。
福井局を経て2021年から名古屋局。
食に文化あり。いろいろな国の料理をいただきながら勉強しています。最近はメキシコ料理が主食です。写真はハラペーニョ(青とうがらし)のフライ。

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