ページの本文へ

長崎WEB特集

  1. NHK長崎
  2. 長崎WEB特集
  3. 長崎県”犬猫の殺処分ワースト1”猫の街で始まった地域猫活動

長崎県”犬猫の殺処分ワースト1”猫の街で始まった地域猫活動

  • 2022年04月26日

              長崎放送局 記者 榊汐里

「猫の街 長崎」の厳しい現実

 長崎は「猫の街」と呼ばれますが、一方で見過ごせない厳しい現実があります。長崎県内で野良犬や野良猫として保健所に引き取られた後、新たな引き取り手が見つからず殺処分されたの犬と猫は1900匹あまりにのぼり、殺処分された割合は71%と全国の都道府県別で最も高くなっています。

環境省の発表によりますと令和2年度、県内で野良犬や野良猫として保健所に引き取られたのは、犬は904匹、猫は1859匹で合わせて2763匹でした。このうち新たな引き取り手が見つからず、殺処分された犬は犬は425匹、ネコが1528匹で合わせて1953匹と前の年度に比べて139匹減りましたが、保健所に引き取られたうち、殺処分された割合は前の年度とほぼ横ばいの71%で、全国の都道府県の中で最も高くなっています。


殺処分 全国ワースト1の背景は?

 先月(3月)25日。長崎大学のキャンパス内の「燃やせないゴミ箱」の中に子猫3匹が捨てられているのがみつかりました。大学からの連絡でボランティア団体が駆けつけ、3匹を保護しました。

保護された子猫

 長崎市内では去年6月にもごみステーションで、生まれたばかりの子猫4匹が汚れた毛布などと一緒に捨てられているのが見つかり、その後、4匹は死にました。飼い猫が子猫を産んで育てきれなくなり、捨てられたと見られています。こうした無責任な飼い主や悪質な事例は氷山の一角と見られ、長崎で多くの猫が殺処分される背景のひとつとなっています。

長崎県生活衛生課
(殺処分率全国ワースト1について)
長崎県は温暖な気候で坂道や細い路地が多く、ネコが暮らしやすい環境のため繁殖する数が多い。対策として、引き取り手を探す催しを行っているがもともとの数が多いため、処分される割合が高くなっている。野良猫への無責任な餌やりを減らすための啓発活動も合わせて行っていきたい」

 どうすれば猫を取り巻く環境を改善できるのか。
長年、猫や犬を保護するボランティア活動を行っている
浦川たつのりさんは地域ぐるみの取り組みが必要だと指摘します。

浦川たつのりさん
「地域で猫を見守る目を増やすのが一番。地域の猫を見守る人がいることがみんなにつたわれば、困ったときに相談できて、猫を捨てるという犯罪行為を減らすことができますので」

”地域猫活動” にゃんとかせんば

 長崎市の出雲西地区の自治会は去年10月、「にゃんとかせんば出雲西」と名付けた活動をスタートさせました。
活動が始まる前、出雲西地区は他の地区と同様に猫の問題が山積していました。

出雲西自治会 吉田 勇会長
「周りから猫が多いと、フンが多いと。にゃんにゃん、うるさくて眠れないし、水を引っかけたりしていた。まわりから猫をどうにかしてほしいと」

 そんなとき、状況の改善に向けて声をあげたのがこの地区に住む、永野裕子さんでした。永野さんは人と猫が共生できる町づくり活動に取り組む、自称・ネコーディネーターです。

永野裕子さん
「個人的に自宅の周辺の猫の不妊化手術を1~2年続けていた。これを個人で続けていく中で、お金と時間と労力がすごいかかるから一人では無理だと限界を感じていて、自治会長のところに町全体でこの取り組みをすることができないかと相談に行ったのがいちばん最初です」

出雲西自治会 吉田 勇会長
「全面的に協力しますと、即答で言いました」

地域猫活動とは?

 にゃんとかせんば活動は、次のようなものでした。
▼地区の野良猫たちを「地域猫」とネーミング
▼地区内の空き地を「地域猫」の居場所と位置づける
▼「猫マンション」や猫専用のトイレを設置する
▼地域猫の不妊・去勢手術も進める
▼住民は分担して、1日に2回のえさやり
▼活動経費は、自治会がひと月1世帯あたり300円徴収している町費からまかなう

 活動開始から半年。効果が出始めているといいます。

永野裕子さん「発情期による鳴き声やけんかの声やゴミステーションをあさることが格段に減ったという声は耳に入っています」

出雲西自治会 吉田 勇会長
「苦情も来ずに、すいすい進んで怖いような感じです。

地域猫活動は広がるか

 「にゃんとかせんば活動」は他の自治会に広がろうとしています。この日は出雲西自治会の会合に隣接する出雲南自治会の会長が出席しました。出雲南地区は同じ活動ができないか検討しているのです。まずは地区内に猫用のトイレを設置することから始めることにしました。
 

出雲南自治会長 近河 修一会長「まだ本格的じゃないですけど、いまから進めていこうとしている段階です。管理を誰がやるのかとかそういう問題がでてくるから、その辺がちょっとひっかかる」

永野裕子さん
「地域猫活動は猫のためにって思われがちだが、
まちづくり活動なので、住民のためでもある。
隣町隣町へずっと広げていけば、広い地域で地域猫活動がうまくいくのではないかと」

 住民たちが立ち上げた「にゃんとかせんば活動」。
こうした地域ぐるみの活動が広がっていくかどうかは、
猫問題の解決に向けた試金石になるかも知れません。
 

木花アナ

にゃんとかせんば活動、取材した感想はどうですか

榊記者

今後に向けた希望を感じました。私は去年、長崎市内でゴミステーションに子猫が捨てられ、死んだケースを取材した際、あってはならないという憤りとともに何か良い解決策はないものかと感じました。出雲西地区の地域ぐるみの活動について長崎市は「良い活動で広まってほしい」とコメントしていまして1つのロールモデルと言えそうです

木花アナ

にゃんとかせんば活動は住民主体の取り組みですが、県内の自治体はこの問題にどう取り組んでいますか

榊記者

佐世保市は去年10月、動物愛護センターを立ち上げました。センターには▼猫を飼育・管理する専用スペース、▼不妊手術をする診療室があります。それに加えて猫の引き取りを希望する人が猫たちと対面する専用スペースも整備しました

佐世保市 動物愛護センター
榊記者

長崎市はことし7月から
新たな条例を施行します

長崎市が施行する条例のポイント
榊記者

また、長崎市はお伝えした「にゃんとかせんば」活動の不妊・去勢手術費の助成をするなど市内の地域ぐるみの活動を後押ししていく考えです

木花アナ

県内各地で猫の問題に取り込もうという具体的な動きが出始めているように感じますね

榊記者

そうですね。長崎は「猫の街」と言われます。取材を通じてかわいらしい、明るいイメージの裏側には毎年、1千匹を超える猫が殺処分されている現実があることを見過ごしてはならないと感じました。人と猫の共生に向けて官民が連携し、どんどん前に進んでいって欲しいと思います

長崎市出雲西地区のみなさん

取材後記

 取材を通して印象に残ったのは「ネコーディネーター」の永野裕子さんが「にゃんとかせんば活動は猫のためでなく住民のための活動。猫について困っている人ほど取り組んでほしい」と話していたことでした。この活動が広まれば、猫も人も街も幸せになれるのではないかと思います。「猫の街」長崎は、殺処分ワースト1位の汚名を返上し、「猫に優しい街」となれる日がくるのか、取材を続けます。

  • 榊汐里

    長崎放送局 記者

    榊汐里

    長崎のお気に入り
    スポットは水辺の森公園
    好きな言葉
    「犬、猫、家族」

ページトップに戻る