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長崎のバリアフリー・ランキングは?鳥海連志選手のメッセージ

  • 2022年04月26日
新型バリアフリー車両

新型バリアフリー車両の導入

長崎放送局 記者 池田麻由美

 長崎電気軌道は3月24日、バリアフリーの新型車両を導入しました。新型車両は出入り口には折りたたみ式の渡り板が設置され、車いすやベビーカーの利用者は乗り降りしやすくなっていて、車両内には車いす用のスペースが設けられています。

長崎のバリアフリー どれくらい進んでいるの?

 さて、長崎市のバリアフリーはどれくらい進んでいるのでしょうか?ランキングは?

まずは、街の人に聞いてみました。

若い男性
横断歩道もちゃんとあるので、大丈夫かなと

ベビーカーで子連れの女性
エレベーターがないとかベビーカーのまま行けない。ベビーカーに優しい街じゃないのかな

高齢の男性
自分の体に障害が起きてからは電車なんかについては、駅前そのものが車いすの方はだめなんだなとつくづく思う。障害者にとっては厳しい

赤ちゃんを抱いた女性
エレベーターの数がベビーカーに使うには足りない

街の反応はいかがでしたか

私が長崎市内で話を聞いたところ
県外との行き来がある人ほど
長崎市は大都市と比べると
バリアフリーが遅れている
と話していました

そうですか。
具体的にどんな場所がバリアというか障害になっているのでしょうか。

町中にどんなバリアがあるのか。
長崎県障害者バドミントン協会の
久保里司会長と長崎駅の周辺を
歩いてみました

 長崎駅周辺を歩いてみた

久保さんは長崎市で生まれ育ち、20年ほど前からは常に車いすで生活しています。久保さんは「長崎市のバリアフリー化は徐々に進んできているが、まだまだ課題は多い」と感じています。路面電車やバスの車両の多くは乗降口が高いままで1人で乗り降りできないほか、車いすを停めるスペースがありません。

長崎駅前の停留所付近の階段

長崎の玄関口、長崎駅の周辺です。路面電車の停留所があるのは階段の先です。車いすの久保さんはたどり着くことはできません。 

我々は電停にもいけないじゃないですか。この駅は利用できないからひとつ手前で降りようとか、考えないといけない

長崎駅前の歩道橋にあるエレベーター

 長崎駅前の歩道橋です。歩行者はあらゆる方角に行き来できますが、エレベーターは2か所しかないため、久保さんは目的地まで大きく回り道せざるを得ません。
 

回り道しないといけない。あそこにもう1つあればすっといけるのに2か所しかエレベーターがないから。自分はまだ体力があるけど、普通の車いすの人だったら来ないと思う

長崎駅近くの道路のみぞ

 長崎駅近くです。道路のへこみやみぞがあり、転倒すれば、危険な事故につながるおそれがあると言います。
 

スロープになってる箇所が割れてたり、スロープも急だったので、あのまま前輪をつけたまま行ってたら転んでしまう。長崎はちょっと行くと坂、階段があって、地形的にしょうが無いけど。福岡なんかもごちゃごちゃしているけど、きょう長崎を歩いてみて危険に感じたようなところは無かった気がします。長崎は(移動するのは)怖いなと改めて思いました

 ハード面のバリアフリーが遅れている分、久保さんが必要だと感じているのがまわりからのサポートです。

ちょっと気に掛けてそばを通って、何かあったら手を差し伸べてくれたら。町でそういう人を見かけたら気に掛けるとか。お互いに助け合って生きていきたいと思う

久保さんと実際に歩いてみて本当に気づきが多かったです。「坂や段差」「ちょっとした傾き」が車いすの利用者には大きな障壁となっていて場合によっては深刻な事故につながりかねないことがよく分かりました

なるほど。その長崎市はほかの都市と比較するとどうなんでしょうか

九州の路面電車 バリアフリー車両の導入状況

路面電車のバリアフリーで比較すると次のようになりました。長崎市は71両のうち7両がバリアフリーで9%にあたります。熊本市は54両のうち16両で29%。鹿児島市は55両のうち17両、30%となっています。
一概には言えませんが路面電車で見ると長崎市は遅れていると言わざるを得ません

今後、長崎市のバリアフリーは進んでいくのでしょうか?

長崎市は去年11月にバリアフリーの基本構想をまとめ、市の中心部については、官公庁の施設、観光地、公共交通機関を結ぶ経路のバリアフリー化を推進するとしています。長崎市は「長崎は地形上の制約も多く、コストもかかるがしっかり取り組んで行きたい」と話していました。
長崎駅前の停留所は車いす利用者も利用できるエレベーターがことし8月に整備される予定で、バリアフリー化の促進が期待されます

池田さん、取材を通じてほかに感じたことはありますか

久保さんが指摘するようにハード面の整備だけでなくまわりのサポートも必要だということです。ふるさと西海市を訪問した車いすバスケの鳥海連志選手も同じ指摘をしていました

鳥海連志選手のメッセージ

長崎はバリアフリー難しいように思えるが、ここに住むひとりひとりが目を向けることで、本当のバリアフリーという意味ではクリアになる。僕も階段は友達におぶってもらったりとか移動教室の時に道具を友達に持ってもらうとか、周りの人間がどうアプローチするかでバリアフリーは変わると思っていて、見てくれている人たちに少しでも意識変革がおきてくれれば、バリアフリー進んでいくのではないか

鳥海選手が言うように本当のバリアフリーに向けてはハード面に加えてわたしたちひとりひとりが周りにある「バリア」に目を配ること。そして目の前で困っている車いすやベビーカーの利用者、重い荷物を抱えたお年寄りや妊婦さんがいたら、手を差し伸べる心遣いができるかどうか。そのことが大切だと取材を通じて感じました

取材後記

「長崎のバリアフリーは進んでいるのか?」という命題に挑むために、今回私は車いす利用者や視覚障害者に話を聞きました。「坂や階段ばかりだし進んでいないだろう」と仮説を持って取材に臨みましたが、実際には自分の仮説がいかに甘かったか突きつけられ、新しい発見が多い取材になりました。私が長崎に住み始めたのは2年前で、坂や階段を上らないと到達できない場所やエレベーターの設置数が少ないと感じる場所が、これまでに住んだことがある場所に比べて長崎には多い印象はありました。実際、長崎駅周辺は、普段車いすやベビーカーを使わない私も、階段が多く不便だと感じていました。

 実際のところどうなのか。
 普段車いすで生活している、長崎県障害者バドミントン協会の久保里司会長と長崎駅周辺を歩いてみると、思わぬ発見が多くありました。例えば、長崎に多い坂について、 私がバリア・障壁になりうると想定していたのは、NHK長崎放送局近くの西坂公園につながる坂のようなものでした。ただ実際は、急な「坂」はもちろん、ふだん私が「坂」だと認識していなかった傾きも、車いすを利用する方々にとっては危険の種であることがわかりました。横断歩道に向かって、歩道が下り坂になっているような場所。こういった場所も傾斜が急だったり凹凸があったりすると、車いす利用者が転倒する危険があると、久保さんは教えてくれました。

 道行く町の人に話を聞くと、「バリアフリー化は十分なされているのでは」とか「自分は困りごとを感じることがない」という意見もありましたが、やはり、ベビーカーを押している人、車いすを利用する人、視覚障害者など、障壁を感じている方にもたくさん出会いました。ひとりの視点からさまざまな立場の人の困りごとを知ることはできないと思いますが、知ろうと歩み寄ることはできます。違う立場に置かれた人々の架け橋になりたい、という記者を目指した当初の志を思い出しました。

 一緒に長崎駅周辺を歩いてくれた久保さんをはじめ、困りごとを教えてくれた皆さんの多くは、「~してほしい」という話し方をしていました。「エレベーターを増やしてほしい」、「道の凹凸をなくしてほしい」...。しかし困っている当事者の「お願い」がなければ行動しないのでしょうか。ハード面のさらなる整備が必要なのはもちろんですが、私たち市民ひとりひとりの心構えについても同じことが言えると思います。何に困っているのか、当事者にしか分からないことがあるのは当然です。しかし「分からない・知らない」を言い訳にせず、お互いに歩み寄ることの重要性を改めて実感しました。

  • 池田麻由美

    長崎放送局 記者

    池田麻由美

    令和2年入局
    警察担当を経て
    現在は長崎市政担当

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