

なんて美しい交差点!・森賢治さん

東京、渋谷駅前のスクランブル交差点。
カメラを構えたこの人、妙に目線が低い。
ちょっと、何撮ってはるんですか?
「交差点の雰囲気ということで、
建物も入れて…」
こ、交差点ですか。
なんでも、交差点を鑑賞するマニアな世界があるそうで。
この人、日本中の交差点を巡り歩いているんです。

愛知県にあるこの交差点は、ものすごく美
しいんだそうです。えっ、どこが?
ここは複雑な五差路(ごさろ)。
それなのに、いつも複数の方向に車が滞る
ことなく流れる。その有様が美しい、らし
いんです。放っておくとぐちゃぐちゃにな
るはずの車の流れを、信号機が美しく制御
する。
まず、青は「進め」。そらそうですよね。
けど、次からちょっと違う。 黄色と同時に点灯した矢印は、1、2、3、4つ。
これ、よく考えたら青と同じ意味ですけど…。あえてこうすることで、直進とは別
に斜め右があるってことが、はっきりわかる。だから、次に2つだけ矢印が点灯し
たとき、斜め右へ行く車は、自分の行く方向をちゃんと理解して止まることができ
る。はあ、なるほど。
「そういう特殊なものを使ってドライバーにわかりやすくしているという点では、
すごくいい交差点だと思います。ずっとここで見ていても飽きないと思います」
入って、止まって、進んで、曲がって…。
わかろうとする人にだけわかる、交差点のお話。

森賢治さんは福井県敦賀市にお住まい。
お仕事は公務員。趣味は交差点。パソコン
を開けると、信号機や交差点の写真ばっか
り。こういうのばっかりを探して、これま
でに全国34都道府県をまわりました。
数えたんですねえ。
こっちは、森さんのホームページ。
単に珍しい信号機を探すんじゃなくて、
その働きを読み解き、
一つの生き物のように交差点をとらえたい、そういうことらしいんです。
「警察がどういった意図で信号サイクルを作っているかというのを、
交差点を見ながら推測したりするのが好きですね」
森さんが5歳の頃の写真。持っているのは、画用紙に書いた信号機。
いわゆる一つの筋金入りです。

近所の交差点はあらかた見尽くしたので、
近ごろはおニューの信号機の情報をこまめ
にチェックしています。自治体のホーム
ページに詳しく出てるんですって。
ふむふむ、これはおもしろいかも。
太い道に、互い違いで細い道が二本交わる
変形四差路。ただちに現場に急行です。
ここは福井のお隣り、滋賀県は大津市にあ
る長等一丁目交差点。
交差点自体は前からあったけど、交通量が増えたので、最近信号機を設置したんだ
そう。現場に着いた森さん。えっと、リアクションは…? ナシ…。
ひととおり交差点を把握するまで、ゴルゴ13のように無口になります。
基本的に愛想はなし。写真は、交差点の機能がわかるよう四角四面に撮ります。
この間も無言。信号機も真正面から撮ります。
「うまく撮れそうですか?」(スタッフ)
「・・・」 なんか言うてください。
「一応これで青、黄色、赤が撮れました」 そうですか…。
「どうしても撮っておきたいので」 そうですよね…。

森さん、データを冷静に分析し、この交差
点には大きな問題があることを発見しまし
た。その問題というのは、ここ。車が交差
点の中で止まっちゃうんです。本来止まる
場所はこの停止線の所なんですが、横断歩
道との距離が遠くて、皆さん勘違いするみ
たいです。
「おそらくあそこに最初から横断歩道があったんだと思うんです。
あそこに停止線を消した跡があるんで」
まだ信号機がなかった時、停止線は横断歩道のすぐ前にありました。
で、信号機を設置する時に、停止線を思い切って手前にした。
それで、かえってわからなくなった。
森さん、改善プランを考えました。横断歩道を現在の停止線の前に作ること。
そうすれば、今の停止線の通り止まってくれるでしょう。
交差点界のゴルゴ13こと森賢治。冷静沈着な仕事師です、趣味だけど。

で、ゴルゴさん、次は? 見ている地図は
そう、東京だよおっ母さん!っていつの時
代やねん? 東京の皇居の周りは大きな道
路が曲線で交わる変形交差点の宝庫。ゴル
ゴの好きな五差路や六差路も、わんさか。
「もちろん交通量も多いですし。いろんな
方向に行く車を、方向別に信号でコントロ
ールしてるイメージがあるので。
そういう所を見てみたいですね」
複雑な形に交わる道路地図を見るだけで、静かに燃えるゴルゴの指先。
東京駅に到着。今日もいたって冷静。レンタカーを借りて、カーナビを交差点に設
定。見るだけじゃなく、通ってみたくもあるんだそうで。さて、ゴルゴによれば、
大規模でも、単純でおもしろくない交差点もあるんだそうです。
「ぱっと見てあまりすごくないのに、じっくり見るとすごいとか。逆に、すごい複
雑そうに見えて、あまり複雑じゃなかったっていうのはありますね」
本人的にはいろいろあるみたいですけど。どんと来い! 東京の交差点。

皇居のお堀に面した赤坂見附交差点。
片側だけで最大6車線という、都内でも有
数の巨大交差点。なぜか、ゴルゴはいきな
りホテルへ。ホテル最上階のお洒落なラウ
ンジ。なるほど、地上からじゃわからない
大交差点の全貌が一目瞭然。
「こんなに上からで全体が見えるところは
ないですね」
飲みものは頼んだだけ。車の流れをつかむのに没頭します。
「すべての5方向で車を流してる感じですね、1回ずつ」
なんかつまらないみたい。流れを見てみると、基本は一方向ずつ順番に交差点に進
入させる仕組み。単純でわかりやすいけど、おもしろみはないかも。ぱっと見は派
手だけど、じっくり見たらなんかアレやった…ってやつですね、ゴルゴ先輩。

次にやってきたのは渋谷。
日本一有名と言ってもいいでしょう、渋谷
駅前交差点。
横断する人の数も恐らく日本一。
ゴルゴはこのおなじみの光景の中に、重大
な交通違反が潜んでいるとおっしゃいま
す。
「例えばこの方向の斜め横断にはちゃんと
信号機がついてるんですけど、こっちの横断歩道がない方の斜め横断は、
信号機がないからできないですね」
上から見ると、横断歩道は4つだけ。
それ以外の方向は横断距離が長くて渡りきれないから、横断してはダメなんだっ
て。スクランブルだからどの方向に渡ってもいいかと思ってたけど、違うみたい。

再び都心に戻ってきたゴルゴ。
東京タワーのお膝元、赤羽橋交差点。
ここは、何か違う。
「ここは流れがかなり複雑ですね。メモを
書いていないと忘れてしまいそうです」
ここは、一度に複数方向から車が交差点に
進入する変形五差路。しかも進入パターン
がいくつもある。
私たちには何が何だかわからない。
信号もたくさんの矢印を使って、進行方向を複雑に制御している模様。これはほん
まもんですな。交差点の一画に立って、車の流れを追いかけること一時間。
ゴルゴ、まさか…解明しちゃったみたいなのよね。
「流れとしては5パターンだけですね。ここはおもしろいです」
それでは、解説いたしましょう。ここでは一度の信号で、車が複数の方向から同時
に出入りしています。だから、一方向ずつゴーストップさせるタイプより効率がよ
く、美しい交差点なのです。
中でも驚きがこれ。一瞬ですが、3つの方向から同時に車が出入りしています。
この交差点の最も美しい瞬間。
「一度にいろんな方向から入ってくるのをさばいている状態と、
この複雑さがいいという感じもあります」
あ、ゴルゴが笑った。

写真もいっぱい撮って、今日は楽しかった
なあ…という感じで、そろそろホテルへと
思ったら、駐車場から動かない。
「今晩はどうするんですか?」(スタッフ)
「うーん、明日の朝早く出たいので、この
まま車の中で寝てしまおうかなという感じ
ですね」
さすがゴルゴ13、遠征の時は車中泊なんだって。
理由は翌日朝早く出て、1つでも多く交差点を見たいから。
ではすみませんが、私たちはここでおいとまを。
明日もがんばってね、森さん。

