

手作りヒコーキで大空へ・藤田恒治さん

大空を自由に飛びたい。誰もが一度は思う
ものですよね。ここには、そんな夢を持ち
続けた大人たちが、毎週日曜日、集まって
きます。自分で作ったヒコーキを持ち寄
り、仲間で管理している飛行場で飛ばすの
です。こうしたヒコーキは、超軽量動力機
と言うそうです。一人乗り又は二人乗り
で、重さは225キロ以下。
意外にも乗る人に免許はいりません。
みんなに操縦法を伝授するこの人が、今回の熱中人、藤田恒治さん。62歳。
「着陸の場合は速度がだんだん死んできてるから。ジャンプは、行かなきゃなんな
いのを止めなきゃなんないから…。」
いわば、この飛行場のボス。
ヒコーキのことを語らせたら、終わらないそうです。

藤田さんの作るヒコーキは本格的なもの。
今挑戦しているのは、アルミのヒコーキ。
軽量で、風の抵抗が少ないので、今までに
ないスピードが味わえるそうです。
「(藤田さんは)相当なばかですね、ヒコー
キばか。もうどうしようもない。」
(ヒコーキ仲間の大橋さん)
みんなから尊敬されるヒコーキばかの藤田さん。手作りの練習機を使って、誰より
も自由自在に空を舞います。
空からは、こんな見晴らし。絶景を独り占めですねえ。
この練習機は、風の影響をもろに受けるため、操縦は通常の軽量飛行機とはまた別
の難しさがあります。一番緊張する場面はやはり着陸。落ちない程度にどれだけ速
度を抑えるのかがカギです。

「一回飛び出すとやめられなくなっちゃう
んだよな。何がいいんだろうね。毎回違う
からね、同じ条件てないから。
だから面白いんでしょうね。」
藤田さんがヒコーキを作っているのは、秘
密基地だそうです。ホントに秘密基地って
書いてあります。
家族に迷惑がかからないようにと、自宅の裏に倉庫を建て、ヒコーキ作りに明け暮
れています。
「自分の遊び小屋。一応、秘密基地ってことにしてますけど。ハハハ。」
以前は、自宅の六畳の和室でトントンガシャガシャしていたそうです。
奥さん、あきれ果てていたんでしょうね。ヒコーキ作り28年。作ったヒコーキは
6機。1つ作ると、すぐまた次のを作りたくなります。

「アメリカの雑誌見て、アルミのやつが
あったんですよ。ピカピカのが。それ見て
作りたい作りたいって。」
見たのは、アルミ製のピッカピカなヒコー
キ。早速調べたら、アメリカ・オハイオ州
で、アルミのヒコーキを設計している人に
たどり着きました。すぐに連絡をとり、図
面と材料の一部を手に入れました。
エンジンは自動車のエンジンを改造したもの。そして、長いアルミの板。
400種類を超える部品を自分で作ります。板をハサミで切り、自作の工具で折り
曲げます。たたき出して立体的に仕上げていきました。
一日中、秘密基地にこもって作業をすすめ、1年3ヶ月かけて完成したのが、これです。使ったお金は150万円。ほぼ新車1台分です。
それにしても、なんでそんなにヒコーキが好きなんですか?

「子どもの頃、ヘリコプターからのチラシ
を見て…昔のビラまきです。ヘリコプター
見に行って、あぁこんな空飛ぶものがある
んだって。それから空飛ぶものに興味があ
りましたね。」
子どもの頃から機械いじりが大好きでし
た。高校生の時には、車を自分好みに改造
するのに夢中になりました。
その頃入り浸っていたのが、近所の解体屋さん。実は藤田さん、今も週に4日
ここでアルバイトをしています。人生で大事なことは全て解体屋さんで覚えたと
言っても過言ではありません。
「毎日こうやって見てると、オヤジが、何だおめぇ好きなのか?やってみるか?な
んて始まるわけですよ。で、触らせてもらって解体の手伝いしながら、車の構造か
らエンジンのばらしも全部やって、そういうので覚えたんですよね。」

車の解体の次に夢中になったのは、ラジコ
ンヒコーキ。手作りヒコーキ1号機は34
歳の時でした。以来、4年に1機のペース
でヒコーキを作り続け、どんどん本格的な
ものになっていきました。生活費は、奥さ
んと中古車販売をして稼ぎました。6年前
にたたんでからはヒコーキ一直線。奥さん
は、旦那の趣味に口出ししません。
息子さんが孫を連れてやってきました。
「いや〜いいと思いますよ、いい趣味持ってると思いますよ。やってみたいとは思
いますけど、時間も技術もないですし。」(長男・将史さん)
さてこの夜、藤田さんはなんだかうれしそうでした。実は、今回作った7機目の飛
行許可が下りたんだそうです。許可が下りるのに1年以上かかることもあるそうで
す。「3ついるんです。機体の許可、乗る人の許可、場所の許可がいる。」

藤田さんの7機目、初めてのテストフライ
トに向かいます。真新しいアルミの機体が
姿を現しました。鏡のように、ピカピカに
輝くボディ。これで大空を舞うのにあこが
れていました。重さ155キロの機体を動
かすエンジンの排気量は、1037CC。
空中でのスピードは140キロ。
こんなのが手作りでできるんですねー。
まずは地上でテスト。機体の調子をチェックします。藤田さん、すぐに表情が曇り
ました。ブレーキペダルに不具合が。
「内側過ぎちゃって当たんねえんだよ。上を少し広げて、曲げるから。
曲がるかどうかわかんないけど。」
左右のペダルが近すぎて、踏みにくいそうです。問題があるとすぐにその場で手当
てをするのが、藤田さんのモットー。左右のペダルが離れました。応急処置OK。

テストランが続きます。あれれ、機体がス
ピン!明らかに異常な動きです。
「ブレーキの具合が良くない。ブレーキが
ロックしちゃったから。」
ブレーキは、自転車のディスクブレーキを
流用しました。部品自体に問題はありませ
んが、取り付け方が悪いのか、急にロック
がかかります。
整備不良はあってはなりません。
「操縦不能だと落ち方によっては死にますね。死ぬ確率の方が多いでしょうね。」
かつて、仲間を墜落事故で失いました。それでも飛ぶことをやめない。
ブレーキの不具合の原因は、ワイヤーにありました。ワイヤーの固定を1ヶ所外し、遊びを多くすることで対処しました。
調整を何度も行いながら、地上テストが3時間続きました。

そして最後は離陸寸前までスピードを上げ
てチェックします。少しバランスが悪いけ
ど、浮きましたね、今。
「浮いた感じでどっちかに持っていかれる
ってことがないから、大丈夫だと思う。」
向かい風を捕らえて、見事離陸。藤田さん
7作目の機体、大空へデビューです。
機体に大地と空が映りこみます。高度130メートル。巡行速度120キロ。
この瞬間のために1年3ヶ月。15分の初飛行。
藤田さんカッコイイ!
「やっぱり自分の好きなことをしているのが一番いいと思いますよ。
一生は一度しかないんですから。」
62歳の藤田さん。たとえ歩けなくなっても、大空を飛び続けるんだそうです。

