あの日放送は何を伝えたか 第5回-3

2022年06月24日

【1942年5月22日「国民学校放送」~戦時下の学校放送(3)~】
今回は80年前の5月22日午前11時に放送された「国民学校放送(5年生の時間)~軍艦生活の一日」が、教育現場ではどのように利用されたのかを探っていきます。

国民学校放送 第83号 1941年

テキストに示されたこの番組の「主題」には「軍艦生活の一日を忠実に描写し、(中略)崇高な帝国軍人精神を伝えようとするもの」とあり、児童たちに軍人への敬意を養い将来の軍人育成への誘導を目指していたことがわかります。
実際に学校で1942年5月22日に放送されたこの番組をどのように授業の中で実践したのかについての記録が「学校放送研究」という雑誌の1942年7月号に掲載されています。

「学校放送研究」は放送を教育現場にどのように活用していくかについての研究誌で、昭和14年(1939年)に創刊されました。毎号テーマごとの特集記事に加えて教育現場からの「聴取指導報告」という実践についての記事が掲載されています。

この7月号で「軍艦生活の一日」の指導報告が詳細に記載されていました。報告は名古屋市内の国民学校からのもので、教員がどのように児童に放送を聞かせれば教育効果を得られるかについてのポイントや、実際に放送を聞いた子どもたちの感想が報告されています。 この中で、教師の側からは「子どもたちの心には(中略)海軍に対する関心度も次第に高揚しつつあるのであるが、(中略)この放送を聴取することは何よりもまずわが海軍の強さの源を掘りあてずにはおかぬであろう」という指導上の要点を述べています。

また放送を聞いた後の子供たちの感想には「私な日本の水兵さんのように元気な少国民になろうと決心しました」「いいつけをよく守り、お国にご奉公しようと思います」さらに「僕も大きくなったら水兵さんになろうと思いました」という言葉が並んでいます。その意味でこの放送は国や軍部が期待した教育効果があったようです。

教室では日本海軍の艦船や日本軍が侵攻した南方の地図など使って、視覚も使って海軍の活躍を子どもたちにも実感できるように工夫をしたということも報告されています。こうして放送は「軍国少国民」を育成する手段としても利用されていました。

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