インタビュー

天と地へ

原作者・上橋菜穂子さんメッセージ

シーズンⅡ、いかがだったでしょうか。

原作を読んでくださっている方は、このシーズンが『神の守り人』と『蒼路の旅人』メインで構成されていて、ラスト2話で『天と地の守り人 ロタ王国編』を描いたのだ、と、気づいていただけたのではと思います。
そして、なぜ、一作一作を原作順に描かず、こういう構成にしたのか、その理由を察した方もおられたことでしょう。

『精霊の守り人』を書き始めたとき、私は、シリーズものを書こうとは、まったく思っていませんでした。
ただ、バルサが狩り穴でチャグムに自分の過去を語ったときに、『闇の守り人』の物語が頭に浮かび、トロガイとタンダを描いているうちに『夢の守り人』が生まれ……という風に、植物が芽吹き、段々に枝葉を伸ばしていくように物語が生まれて、いつしか大きな樹になっていたのです。
そういう書き方をした物語なので、『精霊の守り人』『闇の守り人』『夢の守り人』は、つながっているようで、さほどつながってはいない、それぞれ独立した物語になっています。
ですから、全12巻を、ひとつのドラマとして構成するためには、一度すべての作品をばらして、どの枝が、どこへつながっているのか考えてみる作業が必要でした。

大河ファンタジーをつくるだけなら、チャグムを主人公にする方法もありました。
バルサを脇役に回し、『精霊の守り人』『蒼路の旅人』『天と地の守り人』を一連の物語として描いてしまえば、原作を知らずにドラマを観ておられる方々も、すっと滑らかに物語に入って行けることは、制作陣も私も、わかっていたのです。
でも、そういうやり方をしてしまうと、「守り人シリーズ」は、最も大切なものを失ってしまいます。――その方法では、『闇の守り人』が描けないから、です。

私の守り人シリーズが、わずかなりとも他の異世界ファンタジーと異なるところがあるとすれば、それは、バルサが主人公であったからでしょう。
ファンタジーの主人公には似合わぬ、孤高の、しかし、心優しい女用心棒。
王権争いや国盗り合戦が繰り広げられる歴史絵巻の外にいる、ただひたすらに小さき者を守りながら大地を旅していく、ひとりの女。
このバルサが全編を貫いて輝いてこそ、守り人シリーズは、守り人シリーズなのです。
そのバルサが唯一、他者ではなく、自分自身と向き合う物語が『闇の守り人』で、だからこそ、この物語が、守り人シリーズの中で、最も大人の読者に愛されているのでしょう。

では、チャグムの話を描かずに、バルサの話だけ描いたら、どうなっていたか?
その場合も、このドラマは、守り人シリーズではなくなっていたと思います。
なぜなら、バルサが守った小さき者が、やがて、自らの人生を生きていく姿を描いてこそ、バルサという人間が輝くからです。

シーズンⅡの6話で、タンダが、
「バルサが何のために生きているのかは、チャグムやアスラの方が良くわかっていると思うよ」
と、言うシーンがありますが、これは、ふたつの流れをひとつに結ぶ、実に良い言葉でした。

バルサは万能のスーパーウーマンではありません。
斬られて血を流す人間だからこそ、彼女に命がけで守られた子どもたちは、バルサが自分を命がけで守ってくれたということを、温かい、決して折れぬ杖として、心に抱いて生きていけるのです。

チャグムもまた、神のごとき英雄ではありません。むしろ、徒手空拳(としゅくうけん)の無力な少年です。それでも、彼は歴史を創っていかざるを得ません。 バルサの温もりに育まれ、厳しい中でも顔を上げて歩む背骨を与えられたチャグムが紡いでいく歴史には、バルサ自身はそうと気づいていなくても、彼女の生き様が深く関わっているのです。

チャグムの物語と、バルサの物語が、互いを支え合い、ゆったりとひとつに溶け合って、はじめて、「守り人」シリーズは「守り人」シリーズとして「成る」。
それで、シーズンⅠでは、ふたりの出会いを描き、シーズンⅡでは、『神の守り人』と『蒼路の旅人』で、それぞれの人生の転機を描く、という構成になったのでした。

『神の守り人』は、アスラという少女と向き合う中で、バルサが、己の中にある「闇」と向き合わざるを得なくなる物語です。ドラマの7話「神の守り人」は、神話的な美しさと武闘の躍動感、人々の思いの交錯が、見事な融合を見せていました。ドラマ制作者たちは、ここへ至るまでの過程で、バルサの闇を深く掘り下げて、11月から始まる最終章で『闇の守り人』を描くための重要な布石を打ったのです。

最終シーズンでは、バルサの物語とチャグムの物語が、ひとつに溶け合って盛り上がり、クライマックスを迎えます。
これまで打たれてきた、いくつもの布石が意味を成していく最終シーズン。
11月のスタートを楽しみにしていただけたら、幸せです。