ウクライナとアフガニスタン 同じ避難民でも異なる現実
- 2022年11月04日
「宮崎で暮らし続けたい…」アフガニスタン避難民の言葉です。
イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握して1年2か月あまり。宮崎で暮らすアフガニスタン避難民の現実とウクライナ避難民との違いを取材しました。
命の危険
混乱が続くアフガニスタンから宮崎県に避難している人たちがいます。祖国にいる母親などに危険が及ぶおそれのある中、顔を出さないことを条件にアフガニスタンの避難民に今の思いを聞くことができました。
ことし4月、アフガニスタンから家族を連れて避難してきたオメド(仮名)さんです。宮崎大学に「研究員」として一時的に雇用されています。アフガニスタンでは去年8月、イスラム主義勢力のタリバンが首都を制圧。前の政権の関係者が処刑されるケースが相次いでいます。国立機関に勤めていたオメドさんも命の危険を感じたといいます。
オメドさん(仮名)アフガニスタン避難民
みんな理由もなく殺された。誰がどんな理由で殺されたのかが分からないほど状況は深刻だった。とても怖かった。私も殺されるかも知れないと思って、国を脱出しようと決断した。
4年前、宮崎大学に留学していたオメドさん。かつての恩師である平井卓哉教授に助けを求めるメールを出しました。
平井卓哉教授(宮崎大学)
かなり精神的に追い詰められて切羽詰まった状況を感じたのでサポートしようと決断しました。
日本へ迎え入れるためには就労など在留資格が必要です。日本政府からの支援が望めないなか、平井教授たちは大学に掛け合い、オメドさんたちを雇い入れ、毎月給料として20万円を自らの研究費と大学の予算から捻出することにしました。
しかし、子どもを連れたオメドさん一家にとって日本までの道のりは厳しいものでした。隣国イランへ脱出する途中、タリバンの検問をいくつもくぐり抜けなければならなかったのです。
オメドさん
平井先生のしてくれたことは一生忘れない。
当時は「アフガニスタンを抜けられるのか?イランに行けるのか?」で頭がいっぱいだった。もしイランに行けなかったらタリバンに捕まって処刑されるかもしれない。多くのストレスを抱え、絶望的だった。多くの困難を乗り越えて、ようやく日本に来れたときは本当に嬉しくて。夢なんじゃないかと思うこともある。
親戚がイランにいると嘘をついて何とか検問を突破。2か月後、オメドさん一家はようやく宮崎にたどりつくことができたのです。
日本に着いても問題山積
オメドさんと同じように宮崎大学に避難してきたアフガニスタン人は5世帯26人。無料で提供されている大学の宿舎で生活しています。それでも、オメドさんらアフガニスタンからの避難民の支援は決して手厚いとは言えないのが現状です。妻と5歳と3歳の子どもの4人暮らしのオメドさんが研究員として働いた給料だけでは家族を養うことで精一杯なのです。
避難の際、タリバンに襲われ、財産のほとんどを奪われました。結婚記念で買った宝石も売りましたが日本に来るために100万円以上の借金を抱えることになりました。さらに大学の予算の都合でオメドさんの雇用は来年4月までという1年間の期間限定。日本で生活を続けるためには就労ビザを延長する必要がありますが、そのためには新たな仕事を探さなければいけません。
オメドさん
興味のある仕事には日本語のスキルが必要と書いてある。第一の目標は日本語を学ぶことです。諦めたくない。最後まで頑張りたい。
ハードルになっているのが日本語。就職のために求められている条件なのです。このためオメドさんは学生のボランティアから毎週、日本語を学んでいます。
宮崎大学も試行錯誤
オメドさんたちの就職について教授たちは毎週、知恵を出し合っています。
「西都にイスラム教のハラール認証の食肉処理施設ができるっていう話がある」
「まとめて雇用して頂ける可能性がある」
しかし、オメドさんたちの就職のめどは立っていません。
平井卓哉教授(宮崎大学)
なんとか支援したいという気持ち。最後までサポートしていくつもりではおります。
宮崎で生活を始めて半年。今でも厳しい境遇ですが、介護のパートを始めた妻からは、前向きな言葉があふれていました。
オメドさんの妻
(タリバンが権力掌握してから)女性は自転車にも車にも乗れない。女性の権利は全て失われた。働くこともできない。日本では働くこともできて、安全で幸せです
新たな就職先が見つからなかった場合は、日本に滞在することができず、アフガニスタンに戻らないといけないことになります。言葉の壁もあって厳しい状況が続いています。
難民などの問題に詳しい千葉大学の小川玲子教授は「ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに日本でも外国からの避難民の支援について関心が高まっているものの、その関心は特定の国に偏る傾向がある」と指摘しています。
アフガニスタンとウクライナ避難民の違い
ここまでアフガニスタン避難民の状況をお伝えしてきましたが、実はどの国から避難してきたかによって支援のあり方が大きく異なっています。
ウクライナからの避難民については、日本政府は身元保証人がいなくても受け入れるのに対して、アフガニスタンなど、ほかの国については就職先や留学先がなければ入国することができません。また、ウクライナの避難民には生活費の支給など、金銭面の支援もありますが、ほかの国にはありません。
ウクライナ以外の国からの避難民は厳しい状況に置かれています。今回アフガニスタンからの避難民を受け入れている宮崎大学では、ホームページで支援の寄付を求めています。遠い国の出来事と捉えるのではなく、関心をもつことが何よりも大切な一歩になるのではないかと思います。