ことしは戦後75年の節目の年ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で、戦争体験を語り継ぐ講演会などが中止となりました。
戦争の風化が懸念される中、戦争体験者が語る機会を残していこうという新たな取り組みが進められています。

【戦争経験「語り継ぐ義務」】

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土浦市の金城圀弘さん(81)です。
沖縄県で生まれ育ち、終戦の時は6歳だった金城さん。
空襲や艦砲射撃により大勢の人が亡くなる姿を目の当たりにし、アメリカ軍に捕まった祖母が焼身自殺をするなど、戦争の悲惨さを身をもって経験しました。

「日中はB29による空爆があり、夜になるとアメリカの戦艦からの艦砲射撃が行われていました。負傷者や死体が道やあちらこちらに散らばるようになり、それが日を追うごとに増えていきました」(金城圀弘さん)

就職のために茨城に移り住んだ金城さんは、戦争の恐ろしさを忘れてはならないと、定年退職後に語り部になりました。20年にわたり、県内を中心に学校などで講演しています。

多い年には25回以上に上った講演ですが、その数は年々減少し、今では年に2、3回ほどになっています。

81歳となった金城さん。ここ数年は病気も相次ぎ、病院通いが欠かせません。ことし2月には心不全を患いましたが、自分の体験を若い世代に伝えなければと治療に励みました。

「健康には十分に気をつけて長生きし、語り部として『戦争は駄目だよ』ということを訴えていきたいです。自分の中では、戦争体験を語り継ぐことは義務ではないかと感じています。自分に与えられた、宿命と言ったらちょっと言い過ぎかもしれないんですけど」(金城圀弘さん)

しかし、回復した金城さんを待ち受けていたのは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。予定していた講演はすべて中止になり、語り継ぐ機会はもうないのではと危機感を抱いたと言います。

「今回は新型コロナウイルスの感染拡大により、保護者の心配もあって、講演は取りやめますということでした。非常に寂しい思いがしました」(金城圀弘さん)

【戦争の記憶 語り継ぐには】

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戦争体験者が語る機会をなくしてはならない。これまでの講演に代わる新たな取り組みが進められています。
戦争体験を語り継ごうと取り組んでいる市民団体の田所智子さんです。

「体験者の方とひざを突き合わせるような近さで話を聞き、質問するという場だったんです。“3密”プラス高齢者という、今となってはやってはいけない典型のような催しでした」(戦争体験放映保存の会 田所智子事務局次長)

ウイルスが収束する見込みが立たない中で考えたのが、WEB会議システムの活用です。終戦の日前後に毎年行ってきた講演会も中止にはせず、ことしはオンラインで開くことにしました。

「新型コロナウイルスが収束して、さぁ講演会を再開しましょうとなった時には、元気にお話しできる戦争体験者の方はいなくなっているんじゃないか。とにかくやれることはやるんだと、オンラインで開くことにしました」(戦争体験放映保存の会 田所智子事務局次長)

【新たな手法 メリットも】

オンラインにしたことで、思わぬメリットもありました。
8月、田所さんは戦争体験者の自宅を訪れました。女性は足腰が弱くなり遠出が難しいことから、ここ数年は講演会への参加を辞退していました。しかし、オンラインなら、自宅から全国に話を届けることができます。

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女性は負傷した兵士の看護に当たった日々について語り、画面越しに60人余りが耳を傾けました。
田所さんはオンラインで戦争を語り継ぐことに手応えを感じています。

「外出しにくい方や遠くに住む方も参加できるので、新型コロナウイルスの影響がなくなっても、対面での講演会とオンラインを組み合わせていきたいです。戦争体験者が高齢化していく中で、みんなが話せる期間を延ばすことにも役立つのではないかと考えています」(戦争体験放映保存の会 田所智子事務局次長)

【オンライン講演 反響に手応え】

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金城さんもことし6月、WEB会議システムを使った沖縄戦についての講演会に参加し、平和への願いを込めて戦争体験を語りました。

「B29による爆撃もあり、昼は爆弾の投下や機銃掃射、夜は戦艦から艦砲射撃がまいります。爆弾から破裂した破片が、鉄の暴風というようにところ構わず飛んできます。それに当たると、豆粒ぐらいの小さい粒でも当たりどころによっては切断、あるいは即死してします」(金城圀弘さん)

120人を超える人が金城さんの話に聞き入り、金城さんのもとには、大学生から70代まで、全国から50人以上の感想が寄せられました。

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「学校での授業や資料からは学ぶことができない戦争の現実味が伝わってきました」
「実際の体験の様子がむごい程リアルで涙が出た」(寄せられた感想)

金城さんは、オンラインを通しても戦争の悲惨さや平和の尊さは十分伝わっていくと期待しています。

「今まで戦争を体験した人から直接話を聞いた事がないという人が多かったということなので、私の話が胸にジーンと来たとか、人間の真髄をくすぐったんじゃないかと思いました。オンラインによって自宅で映像を見て、またそれを自分の子どもたちとか、友人知人に話していただくという輪が広がると思います」(金城圀弘さん)

 

取材:齋藤 怜記者

 

 

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