貧困に苦しむ「仮放免」の外国人 医療・教育の実態は
住野博史(記者)
2022年12月27日 (火)

みなさんは、「仮放免者」と呼ばれる人たちを知っていますか?
在留資格がないため入管の施設に収容されたものの、その後、一時的に釈放された外国の人たちのことをいいます。
その数は、2021年末で全国で4174人。最近は、増加傾向にあります。強制送還の対象となっていますが、母国での政情不安などを理由に、送還に応じない人たちもいます。
こうした「仮放免者」の人たちは、法律で働くことを禁じられ、医療などの公的なサービスもほとんど受けられずに厳しい生活を送っていることは、あまり知られていません。
その影響が命にも及んでいる実態を取材しました。
国連も注目する「仮放免者」
“karihomensha”(仮放免者)の文字。
2022年11月3日、国連の人権に関する委員会の勧告に、この日本語が初めてローマ字で記されました。勧告では、日本政府に対し、必要なサポートを行うことや、働いて収入を得られる機会をつくることを検討するよう求めています。
「仮放免」の人たちは、入管から病気などの事情が認められれば、仮放免が許可され施設から出ることができます。
しかし、仮放免の人たちは働くことが禁止されているほか、住民登録ができないため健康保険に入ることができないなど、さまざまな制限があります。
心臓手術ができない・・・
イラン出身のアフシンさん。「仮放免者」です。
40年ほど前、革命が起こったイランで反政府組織に入っていたことから、長年迫害を受けていたといいます。
イランでは、頭や脇腹に銃を突きつけられ、公園の中で殺そうとされた。同じ組織にいた私の彼女は16歳で死刑にされた。家族からは、私たちがお金を出すから、とにかくイランを出るようにと言われた。当時出られる国は日本など少ない国しかなかった。
命の危険を感じ1990年、やむを得ず短期ビザで日本に入国。すぐにビザが切れ、在留資格を失ったため、茨城県牛久市にある収容施設・通称牛久入管に収容されました。帰国させられれば死が待ち受けていると思い、いつ強制送還されるのか、おびえる日々が続いたといいます。
12年前、訴えが認められ、施設の外で暮らすことのできる仮放免が許可されました。
しかし、仮放免の人は、法律で働くことが禁止されているため、支援団体の援助で生活しています。
いま、アフシンさんが恐れているのが心臓の病気です。
病気は7年ほど前にわかりましたが、「仮放免」だと健康保険に入れず、医療費を払えないため、抜本的な治療をすることができていません。治療しなければ、命の危険があると診断されています。
さらに、アフシンさんの心臓の治療には、病院から実費の3倍にあたる約810万円がかかると言われたといいます。健康保険の自己負担額から比べると、実に約10倍にのぼります。健康保険に入っていない外国人の場合、診察や通訳などにコストがかかるなどとして、通常の2倍から3倍の医療費がかかるケースがあるためです。
アフシンさんは、実費で治療ができる病院をなんとか見つけたため、 約 280 万円を負担することになりました。それでも自力での支払いは困難です。援助を募った結果、治療は可能になりましたが、その後の治療のことを考えると不安だといいます。
無保険で治療できないことがどんな悔しいことか。悔しくても叫びたくても、残念ながら自分1人だけでは何もできない。
生活が苦しい「仮放免」の家族
一方で、教育面で悩みを深める「仮放免」の家族もいます。
茨城県内に住むスリランカ出身の家族。夫婦と日本で生まれた子ども2人の4人暮らしです。
スリランカで有力議員のボディガードをしていたという夫。政治的に対立するグループからの襲撃で大けがをし、それをきっかけに日本に来たものの、いまも対立は続き、帰国できないといいます。
難民申請をしても認められず、家族全員が在留資格のない「仮放免」の状態になってしまいました。仕事をすることが認められていないため、コメや野菜などの食料は支援団体や近所の人たちから譲り受け、毎日の生活に苦しんでいます。
働けないからお金はなく、子どもはおもちゃや食べ物など、いろいろなものがほしいと言うけど、買ってあげることもできないし、すごく大変です。
教育をきちんと受けさせられない・・・
最近、心配しているのが子どもの教育です。
小学校に通う6歳の長男。家に帰ってきてすぐ読むのは、支援者からもらった昆虫図鑑。
勉強が好きで成績も優秀です。
虫のことが詳しく、すごく頭がいいなと思っている。今も全部のテストで100点を取っているのだけれど…。
「仮放免」でも、義務教育は受けられますが、高校の入学は難しいといいます。
まず、働くことができず、授業料を支払えません。さらに、高校に入る際に求められることの多い、住民登録がないことが壁になります。
現在の行政の仕組みでは、在留資格がないと住民登録ができないためです。
いまの長男の夢は、博士になること。
母親は、長男が自分の未来を描けなくなるのではないかと悩んでいます。
学校では、友達から長男は、博士って呼ばれています。でも、大学まで行かないと、自分(長男)がなりたいと思っている『博士』になれない。それは本当に心配しています。
子どもに腎臓の病気 将来に大きな不安
家族には、さらに深刻な問題があります。
4歳の次男には、生後まもなく腎臓の病気が見つかっています。右の腎臓は機能しておらず、左の腎臓も負担がかかるため機能が低下しているというのです。次男は3歳で仮放免になったと同時に、それまであった保険証は期限が切れて使えなくなりました。

2022年12月のある日、家族で次男の病気の経過をみるため、つくば市内の病院を訪れました。医療費を支払うことができないため、支援団体のメンバーが付き添います。
いつもどおり、尿検査と血液検査、おなかの検査をします。今はビザがなく、保険証もなく、お金を払うのが難しいので、本当は1か月に1回行く必要がありますが、3か月に1回にしています。
今後、医療費をどうしていくのかなどの話し合いも行われ、およそ4時間に及びました。
今回の診察では、緊急の治療が必要な異常は見つかりませんでしたが、今後、病状が悪化するのではないかと夫婦は不安を感じています。
いつも病院に行くとき、お金をどうするのかばかり考えてしまいます。夜は眠れないぐらい考えて、泣くときもあります。本当は子どものことを考えたらすごく苦しいです。子どものことや将来のことが心配です。
「仮放免者」の現状 どう考えたらいいか
「仮放免」の人は、どうしてこのような状況になってしまっているのでしょうか。
入管は、仮放免の人は日本から離れるべき人たちで、そもそも在留資格がないため強制送還の対象となっているとして国外への退去を求めています。
このため、公的なサポートなどに国の費用をあてるのは困難だとしていて、入管は自分たちで生計を維持すべきという立場です。
一方で、仮放免の人たちのなかには帰ることができない事情があります。
イラン出身のアフシンさんのように、母国に帰ると命に危険が及ぶおそれのある人たちがいます。
また、スリランカ人の家族の子どもは日本で生まれ育ち、日本語しか話せず、子どもが母国のことばや習慣になじめないという問題も抱え、戻ることが困難な状況になっています。
こうしたことから、結果的に社会の中で置き去りにされ、貧困に陥っている状態になっています。
特に医療については、深刻な状況となっています。
国内外の移民の現状に詳しい、上智大学総合グローバル学部の稲葉奈々子教授は海外との対応の違いを次のように指摘しています。
例えばフランスでは、緊急医療だけではなく、在留資格がない外国人のためだけに普通の医療を受けられる予算があります。 一般的に言って命に関わる状況の段階で健康保険に入れるようにするのが、国際基準からいうと常識だろうと思います。
取材を終えて
適切な在留資格で滞在することは重要ではありますが、仮放免の人たちのように何もサポートがないという現状は改善の余地があると感じます。
まずは、私たちの身近にいる仮放免の人たちが置かれた厳しい現実を知ることが大事だと思いました。
これからも、取材を続けていきたいと思います。