台風19号3年 要支援者を救え!
住野博史(記者)
2022年10月21日 (金)

3年前、2019年の台風19号で5000棟余りの建物が浸水するなど、大きな被害を受けた茨城県。
大子町では91歳の女性が自宅で死亡するなど、高齢者や障害者などが被災するケースが相次ぎました。
台風19号をきっかけに、見直しが進められるのが「要支援者」と呼ばれる体の不自由な高齢者や障害者の避難です。
支援が必要な人を全て把握し、安全に避難させるためには、どうしたらいいのか?
それを考える手がかりになる、常陸太田市の取り組みを取材しました。
“要支援者”に特化 初の避難訓練
10月、常陸太田市の山間部で土砂災害を想定した避難訓練が行われました。しかし、単なる避難訓練ではありません。
介護を受けていたり、障害があったりして1人での避難が難しく、支援が必要な人に特化した訓練です。
常陸太田市では、初めて行われました。
公民館には、地域の自主防災会のリーダーたちが集まりました。手がかりにしたのは、地区で支援が必要な人の「名簿」です。
住所や連絡先、どのような支援が必要かが記されています。名簿をもとに、地域での支援が難しい人について、市に支援を要請します。
災害支援を要請したい。支援を必要とする人は2人います。いずれも1人暮らしですので、よろしくお願いします。
市の専門チームや、あらかじめ決められた地域の人などが支援をすることで、地域で支援を必要とする人たちは無事に避難することができました。

「迎えに行きますと連絡がありました。助けてもらう人も近くにいないので、助かります。」
「おかげさまでみんな親切でした。年を取っているので、1人で歩くのは心配です。」
台風19号 名簿に残った課題
常陸太田市は、3年前の台風19号で市内を流れる久慈川や里川が氾濫するなどして、住宅など350棟余りが被害を受けました。

当時、市では、ダムの緊急放流に備えて、川の下流に住む高齢者や障害者など、避難に支援が必要な人を避難させようとしました。
ところが、名簿が古く、誰がどこに住んでいるのか、最新の情報を十分に把握することができませんでした。
さらに、課題となったのは、支援が必要な人の名簿の情報が不十分なことです。名前や住所など、ごく限られた情報しか載っていないケースも多く、どのような支援が必要かがわかりませんでした。

こうしたケースは全国的に相次ぎ、国は台風19号を教訓に去年、介護を必要とする高齢者や障害者など、支援を必要とする人一人ひとりの実情に合った避難計画「個別避難計画」をすべての市町村に対し作成することを努力義務としました。
全員を把握するため 職員が全員に聞き取り
このため、常陸太田市では名簿に載せられている1000人余りの全員の情報を、改めて確認し直す作業を進めています。
この日訪れたのは、高齢の男性の自宅です。
市の職員は、介護や障害の状況や、災害時に助けられる人がいるかなど、避難を支援するために必要な情報を丁寧に聞いていきます。
奥様の状態ですが、いまは歩けない状態ですか?
はい。歩くのは歩けるんですけど、やっぱり脇で介助しないとね。
そして、聞き取った情報を活用して、災害が起きたときに個別に避難を支援していくことを説明しました。

こうした確認の結果作られた名簿では、一人ひとりの支援に必要な情報が記載され、すぐに活用できるようになっています。
市では、担当の課以外の職員にも分担してもらい、来年の3月までに1000人余りへの聞き取りをすべて終える計画です。

台風19号の時に、ご自宅にいる高齢者の状況については情報がなかったので、本当に避難できたのかどうか確認が取れませんでした。その反省から、今回の名簿の整備を行っています。市民の安全と安心と財産を守るために、この名簿はぜひ早期に完成させていきたいと思っています。
ただ、市がきめ細かく情報を得たとしても、いざ災害が起きた際、1000人を超える支援を必要とする人すべてを市だけで支援することは困難です。
市では、今後もそれぞれの地域の自主防災会との連携を密にすることで、全員の確実な避難を実現させたいとしています。
名簿ができたから完璧な安全安心な街かというと、そうではない。地域の住民が、自分たちの街を自分たちで守るんだという意識ができてくる街が、災害に強い街だと思っています。自主防災会の意識が上がっていけばうまくいくのですが、そこが課題だと思っています。
“個別避難計画”どう進める?
常陸太田市では、1000人余りの自宅を1軒1軒訪問して支援が必要な人の確認作業を進めて、個別避難計画を作成しようとしていますが、進み具合は自治体によってばらつきがあります。
都市部などでは、自治体の職員や地域の民生委員、町内会でも把握しきれないというところもあり、水戸市やつくば市では、対象の可能性がある人に手紙を送って、みずから申し出てもらうやり方をとっています。
さらに、支援が必要な人の状況は日々変化します。
例えば、病院や福祉施設に入ったり、家族や親戚の家に移るなどした場合には、個別避難計画の変更が必要になります。
また、病気や障害の状況も変わることがあります。
このため、各市町村ができるだけこまめに個別避難計画を更新をする必要があります。
個別避難計画は、1人1人がどんな支援が必要かが記され、いざというときに避難を支援するために欠かせないものですが、限られた市町村の職員で支援が必要な人全員を支援できるとは限りません。同じ地域で暮らす人や、近くにいる親族など、周囲にいる人たちが日頃から気にかけ、いざというときに救える準備をすることも大切なことだと感じました。