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ローカル鉄道が延伸 攻めの戦略で廃線を乗り越える

執筆者のアイコン画像三輪知広(記者)
2022年05月18日 (水)

茨城県ひたちなか市の14.3キロを結ぶ、 ひたちなか海浜鉄道 。全国の地方鉄道が危機的な状況にあるといわれるなかで、典型的な地方鉄道のひたちなか海浜鉄道は、路線を延伸する攻めの戦略で、時代に抗しようとしています。その戦略を詳しく取材中です。

ローカル鉄道が異例の延伸計画

20220518m_1.jpgひたちなか海浜鉄道は、15年前には廃線の危機に陥りました。市などが出資する第三セクターとして存続していますが、非電化の単線で、ラッシュ時でも1時間に3本しか運行されていません。この鉄道が、去年1月、国からの認可を受けて、終点の駅から3.1キロ延伸する事業を進めています。

廃線を乗り越えるための攻めの戦略

小規模な地方鉄道が、なぜ、延伸計画に乗り出したのか。カギは「攻めの戦略」でした。延伸先には、国営ひたち海浜公園があります。春のネモフィラや秋のコキアが世界で紹介され、新型コロナの前は、年間200万人が訪れていました。この来場者を取り込もうというのです。そこには、沿線の住民が減る中、延伸で乗客を確保しなければ、生き残ることができないという危機感がありました。

延伸認可へ高いハードル

しかし、地方鉄道の廃線が議論されているなかで、国の反応は厳しく、認可を受けるにあたっては、採算性があるのかや事業が継続できるのかを厳しく問われ続けました。国としても認可した路線の運行が継続されなければ、責任を問われかねません。国からは「本当に実現できると思っているのか」「各地の地方鉄道で廃線が議論されているなかで、面倒な事案を持ち込まないでほしい」という冷ややかな反応だったといいます。

これに対して、会社側は、公園来場者の10%程度が利用するとした厳しい予測で採算性を試算。延伸先には、ショッピングセンターや会員制の大型スーパー「コストコ」などもありますが、この利用者の見込みは試算に入れませんでした。そのうえで、延伸地域で宅地開発が進んでいることから、通勤・通学による利用者の増加も期待できるとして、さらなるプラス材料もあり、住民の利便性確保のためにも延伸が必要だと訴えました。

茨城県 ひたちなか海浜鉄道 吉田千秋社長
延伸すれば、ショッピングセンターへ行く人も利用してくれると思っています。しかし、さまざまな要素を入れると、『不確実な見通しだ』などとして国が認めてくれないことも考えられました。海浜公園を利用する人たちのうち、わずかでも乗ってくれれば採算がとれるように、手堅い見積もりで計画を作りました。

 

利用者を増やした実績も強調

20220518m_2.jpgひたちなか海浜鉄道は、これまで、さまざまなアイデアを出して、利用者の増加を図ってきました。その一つが通勤や通学などで定期的に乗ってくれる乗客の確保です。高校生の通学定期券は、120日分の料金で1年間利用できるように大幅に割り引きました。さらに、住民の要望で新しい駅を設置したり、終電を遅くしたりすることで、潜在的な需要を掘り起こしました。

その結果、開業から10年で利用者が1.5倍に増加。単年度での黒字化も達成しました。

20220518m_3.jpg行政と連携した取り組みも実現しました。去年の春、ひたちなか市は5つの小中学校を統合して義務教育学校を設置しました。これを受けて会社側は、学校から徒歩2分の場所に新しい駅を作り多くの児童・生徒が利用しています。こうした成果も示して、これからも安定した経営を続けられるという信頼を獲得。

最終的には、有識者からも「事業見込みが堅すぎるぐらいだ」とお墨付きをもらい、国を納得させました。

茨城県 ひたちなか海浜鉄道 吉田千秋社長
有識者の知見によると、一般的に鉄道の価値は、採算性だけではなく、地域住民の利便性など公共交通としての存在意義も考慮したうえで評価されるということでした。しかし、延伸計画にあたっては、純粋に鉄道の利用による採算性だけを突き詰めて計画を練り、かなり厳しい試算をしていると有識者に評価してもらいました。

 

認可受けても前途洋々とはいかず

こうして延伸の認可までこぎつけた、ひたちなか海浜鉄道ですが、その前途は洋々ではありません。国の決まりで、新しい踏切を設置することができないため、区間のおよそ70%を高架にせざるをえなくなってしまい、概算の事業費は78億円余りと多額です。

さらに、少人数で運営している会社に、延伸のノウハウがある社員はいません。大手の鉄道会社から経験のある人材を呼び込む財政的な余裕もないため、今いる人材で事業を進めるしかありません。吉田社長や社員は、高架橋や駅を、どのように建設していくか、鉄道整備のコンサルタント会社の助言を受けながら具体化させています。

工事の着手に向けて、ことし1月に予定していた工事施工認可の申請は間に合いませんでした。このため、2年後を予定していた利用開始は遅れる見通しです。さらに、新型コロナによる乗客の減少や燃料の高騰も続き、目先の課題も山積しています。それでも吉田社長をはじめとした社員たちは、生き残りをかけた唯一の道として、延伸計画の具体化に向けて奔走しています。

茨城県 ひたちなか海浜鉄道 吉田千秋社長
経験のないことばかりなので、模索しながら進めています。次から次に、乗り越えなければいけない課題が出てくるかもしれない。それでも、鉄道を維持するためには延伸が必要だと考えています。延伸が実現する頃には、新型コロナも落ち着いて、観光客も増えていると思っています。その時に、しっかりと乗客を確保できるように延伸を実現します。


ひたちなか海浜鉄道の攻めの経営は、地方鉄道の生き残り策の一つのあり方になりうるのか。吉田社長へのインタビューなど、さらに詳しく取材を進めています。今後の「いば6」などをご期待ください。

 

 

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