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恋愛で“人生前向き”になった日本人とアフリカ系黒人のミックスの男性31歳が、パートナーのために悩んでVR空間に飛び込んでみたら…ドローンを手に入れていた/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後

現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。

参加者の1人マンゴーさん(31歳/仮名)は、アフリカ系の母親と日本人の父親のもとに生まれましたが、幼少期に肌の色を理由にからかわれ、強い劣等感を持っていたといいます。そんな状況を変えてくれたのは「恋愛」だったと語るマンゴーさん。今付きあっているパートナーと結婚を考えていますが、なかなか仕事がうまくいかず、相手の家に居候して1年。これからどうやって生きていくか…そんな悩みを持ちながら “VR空間”に飛び込んでみました。

(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 丸山 純平)

見た目の呪縛にとらわれていた思春期…“スペシャルな人間”を目指す日々

プロジェクトエイリアン番組の画像

NHKの開発番組『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。マンゴーさんはこの番組の存在を聞かされたとき、自身の小学生時代のことを思い出したといいます。

マンゴーさん

「昔からテレビゲームをするのが好きだったのですが、特に好きな部分が、そのゲームのキャラクターになりきれることだったんです。誰でも昔は“ごっこ遊び”をしたことがあると思うんですけど、僕にとっては特別な意味があって。自分の本当の見た目と“テレビゲームの中にいる自分”の見た目は異なるものなんで、それが好きだったんですよね。なので当時は、ゲームの中でこういう見た目だったらいいのに、ああいう見た目だったらいいのにというのを想像しながら、よく絵を描いていました」

日本で生まれ育ったマンゴーさん、公立の小中高に通ってきましたが、幼少期の頃からいつも自分の見た目をからかわれる日々を送ってきました。

マンゴーさん

「小6くらいですかね、あだ名はチョコレートって呼ばれてましたね。友達がマンゴーだけ黒!みたいな。色を直接的に言われるのって、アフリカ系あるあるだと思うんです。あと自転車で走ってた時に、通りすがりに見知らぬ中高生から『オー、ボブ。ボブじゃねえ?』みたいに言われたことがあって。見た目のイメージから浮かんだ名前がボブっていうことなんだと思いますけど。別に悪気がなくて言われてもすごい僕の中では傷ついたし、みんなにはこう見えてるんだなっていうのを感じてすごい劣等感を感じたことはありましたね」

マンゴーさんの子どもの頃の写真

周りの人と自分は肌の色が違う-コンプレックスを抱えながら過ごしてきたマンゴーさんは、本当はやりたくない、ある“処世術”を身につけました。

マンゴーさん

「周りから見られているイメージに合わせることさえできれば、すごい人気者になれるんじゃないかと思って。中学校の時とかに『外国人みたいな見た目だから英語喋れそう』と言われたのでラジオDJみたいな口調でしゃべってみたらすごく受けましたね。あとはドッキリの仕掛け人。外国人のフリをして初対面の人に英語で話しかける、みたいな。自分は結構人見知りだったんで本当はあんまりやりたくなかったんですけど、それをやることによって友達が喜んでたりするんですよ。面白い面白いって言って。だから自分の見た目を生かして外国人のフリをする日もありました、全然外国に住んだこともないのに。スペシャルな人間にならなきゃいけないというような感情はありました」

マンゴーさんが書いたイラスト

他者に受け入れられるためにはスペシャルな人間にならなくてはいけない、でもどうスペシャルになるのか…?マンゴーさんがたどり着いたのは、小さい頃から好きだった「アート」でした。

マンゴーさん

「小学校の頃、自分の描いた絵ですごく人の興味を引くことができたんですね。絵がうまいっていうわけじゃなく、友達の好きなものに合わせてそのキャラクターの服装や、アクセサリーとか武器とか、そういうものを変えてキャラクターを作ってあげる、その人のアバターを作るみたいなことをやっていたんですけど、絵を描けば人が寄ってくることがすごく楽しかったんですよ。それがやっぱ自分の人生の中の初めてのモチベーションになったことを覚えていて。アートは自分の武器として、自分の個性として役に立てていこうって思うようになりました」

いつしかデザイナーやイラストレーター、アーティストの道を志すようになったマンゴーさん。その背景には自分を認めてくれる他者の存在がありました。

マンゴーさん

「1つ人生の区切りになったなって思うのは、初めて彼女ができた時でした。自分なんか彼女できないだろうなってすごく思っていたんで。みんなと見た目が違うし、劣等感が強かったから。でも友達の友達の紹介で知り合った隣の中学校の子から突然告白をされまして。自分に自信持っていいって思えたし、自分の見た目で損してるところはあると思ってたけど、逆にこの見た目が好きな人だっているんだなって思ったっていうか。結局すぐ別れちゃったんですけど。隣の中学だったから。それ以降、“恋愛体質”になったなと自分でも思います。ずっと誰か好きな人がいるって感じですね。でも、それは単純に異性が好きなだけというよりは、常に人のことを好きになりやすいっていうか…。自分に優しくしてくれる人は性別問わず皆好きなんですよ。すごい自分のことを友達って言ってくれる人は好きになるし、すごく仲よくしたいと思うし…マンゴーだったらできるよねって思って連絡をくれるとかもすごくうれしいし、友達にとって貴重な友達として自分が存在できるっていうことがすごく快感というか生きがい、お金を稼ぐことよりも僕はハッピーを感じるようになったんです」

マンゴーさんのアバター
(大学時代に付き合っていた彼女からもらったぬいぐるみが捨てられないでいるマンゴーさん)

アートで食べていくと決めたものの…たどり着いたのはVR空間

自宅にいるマンゴーさん

社会人経験を積みながら芸術系の大学を卒業。晴れてフリーランスのデザイナーとしてキャリアを積もうとするマンゴーさん。しかし、コロナ禍以降仕事が激減。月に1~2件の仕事があるかないかで、収入のない月もあるといいます。付き合って5年目になる彼女の家に居候しながら今後どうしていくか悩みつつも、なかなかアクションをとれない日々が続いていました。

マンゴーさん

「彼女が一人暮らししていたところに転がりこんでいる感じですね。もうすべて彼女のもの、彼女名義なので、この家にはほとんど僕のものは置いていないですね。支払いも彼女持ちです。いわゆる“ヒモ”って言った方がイメージは伝わりやすいかなっていうところはありますね。恋人がすごく助けてくれるので、僕は今甘えているだけだし、切実にならなきゃいけないところで切実になってないって感じですかね」

街角にいるマンゴーさん
マンゴーさん

「自分がやりたいこととしては、アートを使って世の中から評価を得ることができて、そして安定した生活を送ることができれば、と思っているんですけど、それにしても時間がかかりすぎているので…。彼女が納得してくれるような仕事なら何でもいいかなと思っています。なので極端な話、アートを捨ててもいいし、芸術関連とかそういうデザインとかにまつわることでなくても今はいいと思っています」

自分の夢と現実の生活の狭間に揺れていたマンゴーさん。ある種の気分転換を求めていたところ「プロジェクトエイリアン」に参加することになりました。

4人のアバターが語り合う

現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をする。収録は全部で2回、1回目では相手が何者かわからないなかで距離を縮めてもらい、2回目では自分の素性を他の参加者に開示すると、その後の関係はどうなるのか…。マンゴーさんはすぐに参加することを決意しました。

マンゴーさん

「自分がアバターになればどんな姿にでもなれるっていうのは、僕が小学校の時に自由帳に描いていた妄想なんですよね。ゲームの中でいろんなものになりきれる。もしこういう見た目だったら…ああいう見た目だったら…。これに参加できてよかったなって思ったのは、今まで体験した事ない場所での話し合いじゃないですか。境遇は違うけど、みんな同じ見た目っていうか、みんな性質が違うけれども、中身の性質は違うけど、結構同じような緊張感を持っているから、すぐ話が合う感じだったので。ある意味それが同じ悩みになっているような気がして。今まで現実社会にはない環境だったのが面白かったかなって思いました。」

自己開示したマンゴーさん

4人との交流を経た結果、自分が何者であるか、そして自分の抱える現状の苦悩についても自己開示したマンゴーさん。参加者から寄せられた耳の痛い指摘も自然と聞くことができたと言います。

マンゴーさん

「自分が現状ヒモであることに結構突っ込んだところまで言われるだろうなと思ったけど、いわゆる図星的な感じもあったので。逆にこれを受け入れられなかったら自分は多分もう停滞している人だなあと思うことができました」

そんなマンゴーさんが、自分と同じ雰囲気を感じたと語る参加者がいました。

マヤさんのアバター

それは、引きこもる生活が続き、“誰にも選ばれてこなかった人生”と語ったマヤさんです。収録中「恋愛に興味がない」と繰り返し言っていたマヤさんのどこに、恋愛体質のマンゴーさんは共通点を感じたのでしょうか。

マンゴーさん

「他の参加者の方については、現実社会でも割と自分のままで生きていらっしゃる気がしたんですよ。ゲイでお父さんとの関係性などに悩まれていたダイゴロウさんも、僕の楽観的な考えではあるけど、自分のままで生きていけるような感じと言いますか。でも、マヤさんに関しては自分が抱える属性についての劣等感を感じているんじゃないのかなってちょっと見えたんですね。だから、できるだけ自分はそこに歩幅を合わせていきたかったというか、その時はそういう風に考えていました。“素の自分を受け入れてほしい”と話すマヤさんに対しても、やっぱいろいろ考えて思ったのが、必ずしも恋愛をすることが正しいことでもないと思うよってことを伝えました。大事なのは自分の血のつながった家族よりも大切にしたいと思える人、そういう人に出会えるかどうかなのかなと、僕は思っています。マヤさんにもそんな出会いがあれば、と願っています」

収録から2週間たって、変化したこと

収録から2週間後、改めてマンゴーさんにお話を聞いてみると…あることに挑戦しようとしていました。

ドローンを操作するマンゴーさん
マンゴーさん

「自分が指摘されたことを通して、やっぱり自分の今置かれた環境を再認識しましたね。それに輪をかけて自分はいろんなことを今サボっている状況なので、働こうっていうモチベーションができたというか。みんなとした旅が結構起爆剤にはなったかなって思いました。なので今年は本気でドローン操縦に取り組んでみようかなと。免許が必要なんですけど、その免許の教習所に4月から通います。それからは、ドローンのお仕事を受けている場所に自分の身を置ければ成長できると思うんですよね。やっぱり行動しないと何も始まらない。これまで自分のモチベーションになるのは、やっぱり他人の目しかなかったから。やっぱやらなきゃっていう気持ちに強く影響したので、自分で成し遂げたいことっていうのを早くやらないと進まないなって思いましたね」

他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。

プロジェクトエイリアン ”分断”が進む社会をVR×エイリアンアバターで解決!? 全く新しいドキュメンタリー番組!

2023年3月23日(木)午後10:45~11:30(NHK総合)
👆 放送から1週間 NHKプラスで見逃し配信

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みんなのコメント(1件)

感想
鯛焼き
60代 男性
2023年3月26日
マンゴーさんはきっと話し足りないことがあったのではと想像しております。
幼少期のころから、見た目をからかわれる日々、辛かったでしょうね。想像を絶するストレスもあったのだろうと推察します。私の幼少期、マンゴーさんのような方がクラスにいらっしゃったら、同様のイジメに加担していたのではないかと思わされました。社会全体で考えなくてはいけない(変えていかなくてはいけない)課題だと思います。
 彼女とのご関係については、当人同士でなければ理解しづらいと思っております。人生、チャンスは平等にあります。努力し続けると、デザイナーの仕事(収入)に、明るい未来が見えてくると思います。お二人を応援しております。