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女性議員を追いつめる“選挙ハラスメント”の闇

政治家といえば社会的地位もあって、“ハラスメントをされる人・対象”とは思わないのではないでしょうか。

しかし内閣府の地方議員を対象にした調査によると、6割近くの女性議員、3割強の男性議員がハラスメントを受けた経験があることが分かっています。(※関連ショート動画を本文中でご覧いただけます)

議員“だからこそ”陥りやすいハラスメントの実態とは。
そこには日本社会が慢性的に抱える“選挙”や“政治”の課題も折り重なっていました。
(『クローズアップ現代』ディレクター 荒井拓)

【関連番組】『立つ女たち ~女性議員15%の国で~』

4月に行われた統一地方選で女性議員の当選者は過去最多に。茨城県と長崎県で子育てをしながら選挙に挑んだ2人の女性議員の姿を通して、日本の選挙や政治、日本社会の今について考える。(初回放送 2023年6月11日(日)<BS1>)

<総合>2023年9月18日(月)午前6:10-6:59
※放送後1週間、NHKプラス(見逃し配信)でご覧いただけます。
【配信期限 ~9月25日(月)午前6:35まで】
   
NHKワールドで放送した内容(英語のみ)はこちらから動画でご覧いただけます。

横行する“選挙ハラスメント”

2023年2月 「女性議員のハラスメント相談センター」設立の会見
2023年2月 「女性議員のハラスメント相談センター」設立の会見

今年2月、都内で現役・元議員や研究者など、さまざまな立場の女性たちが共同で記者会見を開きました。翌々月に控えていた統一地方選挙を前に、立候補者へのハラスメントに警鐘を鳴らし、被害に遭った人たちをサポートする「女性議員のハラスメント相談センター」を立ち上げたのです。

立ち上げメンバーの研究者
「(被害を受けた女性議員に)『それはハラスメントですよ』と言うと、『これも被害といってよかったんだ』という声が本当に多い状況があります。何か相談したいことが頭の片隅にあれば相談に来ていただきたいと思っています」

設立メンバーのひとり、女性議員のサポート団体・Stand by Women 代表の濵田真里さんは、これまで100人以上の女性議員や候補者にインタビュー調査を行ってきた、この分野の第一人者です。実は欧米ではこうした議員へのハラスメントの調査は進んでおり、相談先窓口の整備なども行われているといいます。しかし日本では、ほとんど注目されてきませんでした。

「女性議員のハラスメント相談センター」を立ち上げたStand by Women代表 濵田真里さん
「女性議員のハラスメント相談センター」を立ち上げたStand by Women代表 濵田真里さん

5年前、濵田さんが調査を開始すると、想像以上に政治と選挙の現場でハラスメントがまん延している実態が明らかになりました。特に日本で多い傾向にあるのが選挙活動中の「選挙ハラスメント」、すなわち有権者などからの執ようなつきまといや嫌がらせ、脅迫などのハラスメントだといいます。

濵田真里さん

「選挙活動中に(女性議員や候補者が受ける)ハラスメントは、街頭演説をしているときに多く起きています。街頭演説をしている時にぶつかってこられたり、どなられたりする。突然抱きつかれたというケースもあって。街頭に立つときに後ろから(誰かに近づいて)来られた経験がトラウマになってしまって、壁があるところを背にしてじゃないと演説ができなくなってしまったという人もいました。ストーカー被害を受けて引っ越された人もいます」

支援者や同僚議員からのハラスメントを受けたという人も数多くいました。

濵田真里さん

「支援者や同僚議員から『あなたはこのやり方に従っていればいいんだ』と押しつけられるハラスメントについても非常によく聞きます。多くに共通しているのは(ハラスメントをする側が議員や立候補者を)支配やコントロールの対象としてみていることです。『毎日自分に電話してこい』とか、『自分の言うことを聞け』というようなフレーズはよく聞きます。(ハラスメントをする側には)価値観がアップデートされていない人が多く、民間企業でこれをやったら“一発アウト”ということも、選挙の現場では非常に多く見受けられます。


こんなに多くの人がハラスメントを受けていることに、まず衝撃を受けました。これまでそれほど調査されていなかったので表に出てきたのは最近になってからですが、これまでもずっとあったと思うんですよね。特に日本は議員へのハラスメントの認知が各国に比べて低いと思います。『これくらい当たり前』という部分があまりにも広い。『みんな我慢しているんだからそれくらい我慢しろ』という部分が強いかなと思います」

選挙イメージ
イメージ

こうした選挙におけるハラスメントはどのくらい広がっているのでしょうか。2020年(令和2年)に内閣府男女共同参画局が公表した「立候補を検討したが断念した人」を対象に行った調査によると、「立候補を検討している時または立候補準備中に、有権者や支援者、議員等からハラスメントを受けた」と答えた人は、男性で58.0%、女性で65.5%に上ります。女性では「性別に基づく侮辱的な態度や発言」が最も多く27.2%に上りました。

出典 内閣府男女共同参画局『共同参画』令和2年度
出典 内閣府男女共同参画局『共同参画』令和2年度(※NHKサイトを離れます)

“議員だから我慢しなければ”

議員に当選したとしても、ハラスメントは続きます。濵田さんは現役や元議員らと立ち上げた「女性議員のハラスメント相談センター」などを通して、20人以上の議員に対し、ハラスメントの被害を受け止めて心理的サポートを行ったり、具体的な対処法をアドバイスしたりしています。そのうちの1人の女性の地方議員がハラスメント被害の経験を語ってくれました。

ハラスメント被害を受けた女性議員

「いまコロナ禍が明けて、以前(私が)ハラスメントを受けた方とイベントなどで再会することが出てきました。この前もその方が近づいてきて、(私が)別の方と話している間、20分くらい周りをウロウロしていたんですよ。結局あきらめていなくなったんですけど。


夜8時とか9時に『いま飲んでるから来い』とか、『来ないとお前の支援はやめるから』とか。私が『家に帰って、寝る準備もしてメイクも落としているし、パジャマなのですみません』といっても、『そんなの関係ない。タクシー代を出してやるからすぐ来い』と。そういう問題じゃないんですということを言っても、全然伝わらない。拒絶すればいいと言われることがありますが、議員である以上、相手に選んでもらわないといけない。そうすると拒絶した相手は当然今後、私を選ぶことはないので、そのことで次の選挙で落選したらどうするのかというところまで考えると、ハラスメントを回避するのはなかなか難しいと思います」

自身の被害について話を聞かせてくれた女性議員は、濵田さんたちに相談することで精神的に救われたといいます。特に「議員だから」相談できないと思い込んでいる人こそ、濵田さんたちのグループのような第三者にサポートしてもらうことが必要ではないかと語ります。

ハラスメント被害を受けた女性議員

「ひとりで悩んでいると、解決策を見つけるのは難しいと思います。『議員である以上 選ばれるために、自分が傷ついても我慢しなきゃいけない』とずっと一人で抱えていたのが、相談相手ができることで、その気持ちをシェアして、解決策をアドバイスしてもらえる。被害を受けている側も何がハラスメントか分からないということも多々あるので、『それはハラスメントだよ』と教えてもらうだけでも、本人の支えになると思います」

※相談窓口の連絡先は記事の最後にあります。

女性議員と“選挙ハラスメント”の実態【2分動画】

多様性の欠如がハラスメントの土壌に

内閣府は男女の地方議員5000人を対象にハラスメントに関する調査も行っています。それによると、議員活動や選挙活動中にハラスメントを受けた経験がある人は男性議員で32.5%、女性議員で57.6%に上ります。

女性議員が受けたハラスメント行為のうち、もっとも多かったのは「性的、もしくは暴力的な言葉による嫌がらせ」(26.8%)、次いで「性別に基づく侮辱的な態度や発言」(23.9%)、「SNS、メール等による中傷、嫌がらせ」(22.9%)、「身体的暴力やハラスメント」(16.6%)、「年齢、婚姻状況、出産や育児などプライベートな事柄についての批判や中傷」(12.2%)でした。

男性議員が受けたハラスメント行為のうち最も多かったのは、女性議員で3番目に多かった「SNS、メール等による中傷、嫌がらせ」で15.7%でした。女性議員の場合、性的もしくは性別に基づく発言や事柄についての嫌がらせが比較的に多いことが分かります。

出典 内閣府男女共同参画局『共同参画』令和2年度
出典 内閣府男女共同参画局『共同参画』令和2年度(※NHKサイトを離れます)

濵田さんは、議員たちに対するハラスメントが生まれやすい背景について、多様性に欠けている議会の現状があると指摘します。

濵田真里さん

「地方議員の8割以上が男性で、(全国の)地方議会の4割が、女性が1人かゼロという状態です(2023年4月の統一地方選前)。そういう多様性がないところに(高齢男性以外の人は)入って行きづらい。1人か2人の女性議員がそこに入っても“別物”として扱われ、いじめやハラスメント被害に遭うという話は聞いています。


権力性をもっている立場からハラスメントは行われやすいですが、(ハラスメントを行う人は自身が)権力がある立場だと自分で認識しにくい。(そのため、相手に対して)『それくらい大丈夫でしょう』とか『我慢しろ』という認知になりがちです。


男性の高齢者ばかりが議員の席に座っていることで、『ハラスメントなんて問題じゃないよ』と言わせてしまう議会の空気を作っているのではないかと思います」

ひとりで抱え込ませず、相談できる体制を

現状では“選挙ハラスメント”について相談できる先がほとんどなく、そもそも「相談する」という選択肢が議員や立候補者に思い浮かばないというのが現実です。濵田さんは、ハラスメントを受けたらひとりで抱え込まず、相談してほしいと話します。また公的相談窓口がもっと増えるとともに、ハラスメントを禁止したり防止したりするための法律を作ることも必要だと言います。

濵田真里さん

「日本でもハラスメントを禁止する法的な基盤が必要です。世界銀行によると、ほとんどの国はセクシュアルハラスメントに対して、刑事罰または民事上の救済策を持っていますが、日本はどちらもありません。いまの私たちの活動が大きくなってほしいとは思っておらず、むしろ公的な相談窓口が私たちのかわりに早くできてほしいです。特に、地方自治体の相談窓口が設置されることが重要だと考えています」

取材を終えて

この4月の統一地方選挙では、女性の立候補者数、当選者数ともに過去最多となりました。私は選挙運動期間中にさまざまな女性議員を取材しましたが、選挙期間中にハラスメント被害に遭ったとしても候補者本人が誰かに相談することのハードルは極めて高いと感じました。

「弱さを見せてはいけないのではないか」「仲間を心配させるのではないか」。

そう考えやすい候補者たちの状況につけ込んだハラスメントが結果的に多様な議員を議会に送り出す上で壁になっているという濵田さんの指摘を受け止め、いち早く現状を変えるための制度づくりが必要と強く感じました。

また、濵田さんたちによる支援活動は特に被害に遭いやすい女性議員が対象ですが、男性議員もさまざまなハラスメントを受けている現実があります。「男だから」とハラスメントを口にできない人もいるかもしれません。

ハラスメントを受けた誰もが声をあげやすい空気を周囲から作っていくことも大事だと思いました。

【関連番組】『立つ女たち ~女性議員15%の国で~』

4月に行われた統一地方選で女性議員の当選者は過去最多に。茨城県と長崎県で子育てをしながら選挙に挑んだ2人の女性議員の姿を通して、日本の選挙や政治、日本社会の今について考える。(初回放送 2023年6月11日(日)<BS1>)

<総合>2023年9月18日(月)午前6:10-6:59
※放送後1週間、NHKプラス(見逃し配信)でご覧いただけます。
【配信期限 ~9月25日(月)午前6:35まで】
   
NHKワールドで放送した内容(英語のみ)はこちらから動画でご覧いただけます。

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みんなのコメント(1件)

質問
りーり
2023年11月28日
おとなになったらそういうこと増えますか?