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「男だけど、かわいくなっちゃダメですか?」

「かわいい服を着たり、おしゃれな格好をして、友達とカフェに行ってケーキを食べながらだべったり…楽しい学校生活を送りたい」

17歳のアキさん(仮名)がNHKに寄せてくれた声です。

でも気持ちと裏腹に「男だからできない。誰にもわかってもらえない」と諦めに似た気持ちをもつアキさん。「誰かに共感してもらえたら…」とかすかな期待を抱えながら、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+の当事者たちと本音で話し合いました。

(『虹クロ』ディレクター 山田 一貴)

【関連番組】虹クロ『男だけど、かわいくなっちゃダメですか?』

2023年6月6日(火) <Eテレ>午後8:00~8:29
(再)2023年6月17日(土) <Eテレ>午前0:45~1:14 [※16日(金)深夜]

※放送後1週間、見逃し配信(NHKプラス)でご覧いただけます

「かわいくなりたい」気持ちと自分の体にギャップが…

左上/ロバートキャンベルさん(日本文学者)、右上/井手上漠さん(モデル)、左下/サリー楓さん(建築デザイナー・モデル)、右下/みたらし加奈さん(臨床心理士)

自分の“性のあり方”に悩む10代が胸の内を打ち明け、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+当事者がメンター(助言者)として解決の手がかりについて考える『虹クロ』。

今回のメンターはモデルの井手上漠(いでがみ ばく)さん、日本文学者のロバートキャンベルさん、建築デザイナーでモデルのサリー楓(かえで)さん、臨床心理士のみたらし加奈さんです。

「かわいくなりない」という気持ちが高まるアキさん(仮名・17歳)

番組に声を寄せてくれたアキさんは幼いときからかわいいものが好きで、家族には「女の子になりたい!」と言っていました。しかし真面目に受け止めてもらえず、次第に自分の本当の思いを言葉にしなくなったといいます。

アキさんは中学生になり思春期を迎えたころから、骨格が大きくなって体毛が濃くなり始めました。体つきがだんだん男性っぽくなるにつれ、自分の体に強いコンプレックスを抱くようになります。自分の理想の姿から遠ざかっていく一方で「かわいくなりたい」という気持ちは高まるばかり。いったいどうしたらいいのか悩んでいました。

腕毛を剃(そ)るアキさん「だんだんと体毛が濃くなるのがつらい」

しっくりくる「性」が見つからない…

“性のあり方”を4つの要素に分けて整理する考え方があります。「体の性」、「心の性(自認する性)」、「好きになる(相手の)性」、「表現する性」です。

アキさんの場合は、体と心の性は「男性」。好きになる性は「決めていない」。そして、表現する・表現したい性は「女性」。「女性に見られたい」と思っているといいます。さらに詳しく尋ねると、アキさんは言葉に詰まってしまいました。

アキさん(仮名・17歳)

「やっぱりちょっと(言葉にするのは)難しいところもあります。自分でもこう…手探りで見つけていっているものなので…」

サリー楓さんはセクシュアリティーやジェンダーを必ずしもカテゴライズしなくていいと言います。

サリー楓さん (建築デザイナー・モデル) ※体の性:男 心の性:無し 好きになる性:全て 表現する性:全て
サリー楓さん(建築デザイナー・モデル)

「アキさんは若いので、生まれながらにたぶんLGBTとかセクシュアルマイノリティーっていう言葉があったんじゃないかなぁって思います。先に概念を知ってしまうと、どれに当てはまるんだろうって考えちゃうじゃないですか。


私の場合は個人的にジェンダーでずっと悩んでいるし、今も悩んでるんですよ。そういうのって変わっていくものだし悩み続けるもので、今ここで結論を出す必要はもちろんないかなぁって思っています。そこの曖昧さを大切にして話していけたらいいなと思います」

自分にとっての“かわいい”を見つける

「かわいい格好をしてみたい」アキさんですが、具体的にどんな格好をしてみたいか、井手上漠さんが尋ねると…

井手上漠さん(モデル) ※性別はない
井手上漠さん(モデル)

「アキさんがこうなってみたいという理想のイメージは何かあるんですか」

アキさん(仮名・17歳)

「うーん、まぁ…そんな何か特殊な人とかじゃなくて…普通の女の子みたいなのが理想です」

井手上漠さん(モデル)

「例えばお人形が着ているようなフリフリしたワンピースがアキさんにとって『かわいい』のか、それともカジュアルでお姉さんっぽい感じが『かわいい』のか。アキさんがどういうものを『かわいい』と思ってるのかなというのを個人的にすごく知りたいです」

アキさん(仮名・17歳)

「うーん…」

アキさんは思春期を迎えたころからずっと、“理想の姿”を追い求めようとする自分の気持ちを抑え、かわいくなることを諦めるべきかもしれないと思ってきたそうです。

そんなアキさんに、井手上漠さんは自分の体験を伝えました。

井手上漠さん(モデル)

「(私は)小学校4年生になったときは、当たり前のように女の子と毎日いる生活だったんですよ。成長するにしたがってホルモンってあるから。やっぱりね、女の子と毛質も違えば肌質も違って、筋肉もつきやすいし、その中で(自分の体つきと)ギャップがあるものを自分が身につけて、それが周りにどう思われるんだろうって考えちゃって、結局かわいいものを着れなかったし、私も諦めていた時期があったんだよ。


でも1個の『かわいい』しか知らなかったときは“諦めモード”になっていたんだけど、いろんな『かわいい』を知ると、『あっ、じゃあ私にはこれが合うかもとか、私の骨格にはこれが合ってるのかも、これが似合うのかも』って、美容、メイク、ファッション含め、いろんな気づきになったんだよね」

ロバートキャンベルさん (日本文学者) ※体の性:男 心の性:男 好きになる性:男 表現する性:男
ロバートキャンベルさん(日本文学者)

「漠さん、おもしろいね。『かわいい』にはいろいろある、いろんな『かわいい』があるっていうの、本当にそのとおりだと思うんですよね、アキさん。僕はめちゃくちゃかわいいものが好きで、きょう漠さんが着ている、これぐらいのカーディガンを僕は平気で着る自信があるというか着たい、ていうか実際に着るんですね」

サリー楓さん(建築デザイナー・モデル)

「私きょう全部メンズ服なんですけれど、それにアクセサリーとか合わせたりしてるんですよ。別に『メンズファッションを今日している』という意識は全然なくて、しゃべり方とか態度とか、あと身につけているものとか、そういうものと服装っていうのは、たぶん1つの地続きの表現の中にあって、自分なりの『かわいい』の定義をつくっていっていいし、アキさんにとっての『かわいい』の解像度をどんどん上げていってもらえたらいいなと思います」

アキさん(仮名・17歳)

「共感できる部分が多くて。いろんな『かわいい』があるっていうのもハッとしました。大学生になったときに、ひとり暮らしをしたいと思っていて、ひとり暮らしを始めると自由が手に入るわけじゃないですか。これから自分のしたいようにしていく中で、自分に合う『かわいい』を見つけてみたいなと思いました」

“男は男らしい格好をすべき”という偏見

アキさんには高校に入学して間もないころに味わった苦い思い出があります。

アキさんの高校では校則で、女子生徒は上着のブレザーと合わせてスカートまたはスラックスを選べるようになっていますが、男子生徒は上下“学ラン”一択と決まっています。これに矛盾を感じ、勇気を振り絞って校内でいちばん信頼している女性の教師に「校則を変えて男子も制服を選べるようにしたほうがいいと思います」と主張したそうです。

しかし…返ってきた答えは「男子は学ランでいいのよ!」

「“男は男らしい格好をするべきだ”という考え方が世間では当たり前のようにあるんだ…」。
アキさんがもっとも信頼していた教師だったこともあって、ショックが大きかったと同時に世の中の偏見の根深さを感じたといいます。

以来、「かわいくなりたい」という思いを、アキさんは自分だけの「絶対の秘密」にしてきました。

悩みを相談できる友だちを見つけるには “好きなことに夢中になる”

高校を卒業したら親元を離れ、ひとり暮らしをしたいというアキさん。その時にメイクを教えてくれたり、悩みを相談できたりする友だちがほしいと思っていますが、どうしたらそのような友だちができるのか、メンターたちに尋ねました。

左:井手上漠さん 右:みたらし加奈さん(臨床心理士)
井手上漠さん(モデル)

「きれい事に聞こえちゃうかもしれないけど、好きなことに夢中になることだと思います。その『好きなこと』が糧になれば、私は(自分の)周りを囲ってくれる子だとか、それこそ自分が(悩み事などを)打ち明けられるなって思えるタイミングとかも変わってくると思う。

だから、友達を見つけよう、見つけようとするんじゃなくて、1回自分が好きな時間とか、好きなことにしっかり目を向けて、夢中になってみるほうが、私は意外とすんなりいくんじゃないかなって思うんですよね」

みたらし加奈さん(臨床心理士)

「たぶん友達ってつくるものじゃないって思っていて」

ロバートキャンベルさん(日本文学者)

「なるもの」

井手上漠さん(モデル)

「私もそう思うんですよね」

みたらし加奈さん(臨床心理士) ※体の性:女 心の性:無し 好きになる性:全て 表現する性:日による
みたらし加奈さん(臨床心理士)

「何か好きなことを、もちろんアキさんの心地いい範囲でだけど、好きなことをもっと表に出していくことで、もしかしたら、そこからつながっていったりとか全然あるだろうし」

アキさん(仮名・17歳)

「今まで友達をつくろう、つくろうとしていて、自分の好きなことも少し抑えてきたんですけど。話を聞いて、好きなことをしてたらいいのかなって思いました」

みたらし加奈さん(臨床心理士)

「いまアキさんは、自分のジェンダーアイデンティティーだったり、表現する性だったり、表現の仕方で、たぶんもう頭がいっぱいになっちゃっていると思うんだけど。いまアキさんが好きだなって思うこと、好きだなって思う趣味を、ジェンダーとはちょっと切り離した状態で何か持っておいてほしい」

好きなことを選んで生きる

アキさんは音楽が大好き。さらに将来つきたい職業があるそうです。

アキさん(仮名・17歳)

「建築家になりたいと思っていて。(その理由は)いい建築を見て感動するっていうのもあるんですけど、使う人が喜ぶ姿がすごくいいなって。いろんな人を喜ばせることができる職業だと思っているので、なりたいなと」

建築デザイナーになる夢を実現したサリー楓さんは、アキさんにメッセージを伝えました。

サリー楓さん(建築デザイナー・モデル)

「世の中の大半のことって、自分が選択しないことの理由ってたくさん見つけられる。でも、どこかでピリオド打たないといけないんですよ。

建築の仕事をしていても、例えば土地を選ばないといけない、どういうものを建てるか選ばないといけない、デザインを選ばないといけないとか、選択することの連続なんですよ。それに対して『いや、でもこれは高いからな』とか『これ、みんな嫌いかな』とか考えるのはすごく簡単だけど、どこかで自分で自分の選択に自信を持たないといけないし、何か正しいものを選択しているというより、選択したものが正しいと思い込まないといけないと思うんですよ」

勇気を出して番組に出演してくれたアキさん。収録が終わった後、前よりも少しすっきりした表情でこう話してくれました。

アキさん(仮名・17歳)

「1人で誰にも話さずに抱えてたので、少しずつ考えが固定されていってたんだなって思いましたね。メイクをして、かわいい服を着て、ということがますますしたくなりました」

アキさんを取材して

「なんて言うか…なかなか言葉が見つからないんです」

取材中、うつむきながら何度もそう話すアキさんの姿が印象に残っています。それでも自分の心の奥にしまっていた気持ちをたぐり寄せながら話をしてくれました。

「どんどん体が男っぽくなるのが嫌」「かわいい格好をしてみたいけど、どんどん似合わなくなっている」「せめて文章だけでもかわいく書きたいと思って頑張ったけど、ダメでした」「体も心も男なんです…」

言葉一つ一つを聞きながら、「誰にもわかってもらえないんじゃないか」という“諦め”のような気持ちをアキさんが抱えているように感じました。

そんなアキさんがスタジオでメンターたちと本音で語り合いました。収録中もなかなか自分の言葉を紡ぎ出せないでいたアキさんと、メンターたちが想像力をめいっぱい働かせて対話する中で、アキさんの「言葉にならない気持ち」が、だんだんと言葉の輪郭を帯びていきました。そして、「誰にもわかってもらえない」という気持ちが少しずつ消え去っていったような気がしています。

今回の番組を通して出会った人や過ごした時間が、アキさんの人生の一助となってくれたらうれしいです。そして、アキさんのように悩んでいる人たちが気楽にかわいい格好ができる世の中になってほしいと強く願います。そうした社会になるために何が必要か、その手がかりを探るために、これからも取材を続けたいと思います。

【放送予定】虹クロ「男だけど、かわいくなっちゃダメですか?」

2023年6月6日(火) <Eテレ>午後8:00~8:29
(再)2023年6月17日(土) <Eテレ>午前0:45~1:14 [※16日(金)深夜]
【見逃し配信】本放送後から1週間、NHKプラスからご覧いただけます

【質問】
「男だから~」「女だから~」のようにセクシュアリティーやジェンダーによって押しつけられている暗黙のルールに違和感を感じたことはありますか?あるとしたらどんなことですか?みなさんのご意見や記事の感想などを下の「この記事にコメントする」(400字まで)か、ご意見募集ページ(800字まで)からお寄せください。

みんなのコメント(5件)

感想
bell
2023年10月30日
私も体が男でした。ずっとふたなりだって、ずっと思い込んでいます。そのおかげで、かわいい服も気にせずに、似合わなくっても着てます。だけど最近はとても嫌になってきました。友達は女で、私のことを女だと思ってます。だましてますよね。鬱(うつ)になってきて最近自殺まで考えてきてしまいました。だけど怖くてできません。最近はかわいくなる方法などを調べて、ノートをかわいくしたり工夫しました。身近なものをかわいくしたりするなどしていたら元気が少し出ました。アキさんも、このような工夫をしてみてはどうですか?少しは元気が出るかもしれません。
感想
まふぃん
19歳以下 男性
2023年10月26日
泣きました。
ほとんど同じです。
悩み
ぴえん( ノД`)シクシク…
19歳以下 女性
2023年10月21日
母によく『女の子でしょ?大股広げないの?』と怒られてしまいます。
学校で「俺」って言ってるのがバレたら絶対怒られます(泣)
感想
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
19歳以下 男性
2023年8月11日
男だけどかわいくなっちゃだめ? そんなことはないと思います。偏見にしばられることない自由な世界になってほしいです
感想
J
19歳以下 男性
2023年7月5日
「男だけど、かわいくなっちゃダメ?」、そんなことはないと思います。「かわいくなりたい」というのも、この記事を読んで私は共感できました。ファッションでは、レディースものを最近になって取り入れるようになりました。ワイドパンツを取り入れてみたり黒のベストを取り入れたり、男が着てもいいようなものからレディースものを選んでいます。基本はメンズものが多いですが、レディースものを着ることもあります。

私はカッコいいよりもかわいい感じの服装が好きなので、自分に合う「かわいいもの」を取り入れることは悪くないと個人的には思います。