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大喜利の回答で自転車の未来を変えた? マジカルラブリー野田クリスタルさん【「1ミリ革命」リポート】

「世の中のお困りごとを様々なアイデアで1ミリでも解決する」ことを目指す特集番組『1ミリ革命』では、異色の才能を持った人たちのアイデアを集めて社会問題の解決に挑戦しています。
2021年9月の「自転車事故を減らせ」に出演したマヂカルラブリー・野田クリスタルさんのアイデアが今、「未来の自転車」を作る大きな動きにつながっています。
「1ミリ」動き続ける、現場の挑戦を報告します。

(この記事は、2021年9月23日放送、1ミリ革命「自転車事故をどう減らす?」に追加取材を行い作成しています)

「自転車事故をどう減らす?」という課題の解決を目指す番組の中で誕生した「未来の自転車」。一時停止をする時の「ブレーキのかけ方」を判定してくれるとてもユニークな自転車でした。

その後、一緒に解決を目指す仲間、「1ミリーガー」として番組に参加してくれた文教大学・松本修一准教授から「さらなる進化が起きている!」との連絡が。いったいどのような進化なのでしょうか?

野田クリスタル考案の『未来の自転車』とは?

「未来の自転車」プロジェクトは、2021年9月にNHKで放送された「1ミリ革命」にて、マヂカルラブリー野田クリスタルさんが出した、驚きのアイデアから開発がスタートしました。

番組内で課題となっていたのは「自転車の事故をどう減らすか?」。都市部を中心に全国で事故が多発する一方、なかなか解決策が出てこない難問。自由な発想を募るべく、人気お笑い芸人の皆さんを集めて大喜利スタイルでアイデア出しを行いました。

大喜利の詳細を見たい方はこちらの記事をご覧ください。
「笑いで社会を変えろ!「1ミリ革命大喜利」リポート」

自転車事故の原因の中でも非常に割合が高い“信号のない交差点”での事故。どうすれば交差点で自転車を一時停止させるか。このお題で、斬新なアイデアを出したのがマヂカルラブリー・野田クリスタルさんでした。

野田

「どっからか『あ、虹だ』という声が聞こえてきた」

野田

「うなじ辺りに水滴を足らして『雨?』となる」

専門家もふだんのブレストでは出てこないようなアイデアの数々に驚くなか、特に目を引いたのが・・・。

野田

「ブレーキを握ると、握力が表示される」

郵便局で配達の仕事をした経験のある野田さん。
“交差点で自転車を一時停止させる” →“ゲーム感覚で楽しくブレーキをかけられる装置を作ろう“という形で話が膨らんでいきます。

さっそく、交通システムの専門家、松本修一さん(文教大学情報学部准教授)と自転車センサーの開発者、具志大輔さんを交えて打合せを開始。
「ブレーキをするのが楽しすぎると急ブレーキになって逆に危険になるのでは?」など、厳しい指摘を乗り越えた末、野田さんが捻(ひね)り出したアイデアが・・・。

野田

「“音が出る”とかじゃないのかな。よくバレないように、おならするときあるじゃないですか。急ブレーキするとブッっておならの音が鳴っちゃうけど、ゆっくりブレーキをかけるとスーってバレないような、すかしっぺが鳴る装置」。

日々、真剣に自転車の未来をよりよくしようと研究を続ける松本先生。
「おなら」という、ある意味“おふざけに聞こえる言葉”に絶句しながらも、その言葉の中に、“これまでにない可能性”も隠れていると感じていました。

野田さんのアイデアは言い換えると…。
「①ブレーキスキルを評価する」。
「②その評価を音で表現する」。
と考えた松本先生は、このアイデアの実現を目指し、特別なセンサーを搭載した1台の自転車を完成させました。

野田さん考案の「未来の自転車」の仕組みは以下のとおりです。
① ブレーキをかけ始めた方がよい地点に入ったら、「まもなく停止ポイントです」と音声でブレーキを促します。
② 減速中のブレーキの強さは、自転車に搭載されたセンサーで計測。
③ 自転車が停止すると、「ナイスブレーキでした」と急ブレーキだったか否かを音声で知らせます。

こうして、楽しく正しいブレーキを学ぶことができる、「未来の自転車」が誕生!
さまざまな自治体から試乗したいというラブコールを受け、自転車関連のイベントに貸し出されるまでになりました。

静岡で開かれた自転車のイベントに出展したときの様子
「未来の自転車」に試乗する地元の小学生

次のミッションは「どうやって実際の道路でも使えるようになるか」

しかし、この「未来の自転車」には課題があることもわかってきました。
「よいブレーキ/悪いブレーキ」の判定には、自動車の急ブレーキの基準(加速度0.3G)を使っていたのですが、これはあくまで自動車の基準。実は、自転車にとって「よいブレーキ/悪いブレーキ」を判定する基準やデータは「この世に存在していなかった」のです。

どうすればいいのか・・・。
番組放送から1年半がたった頃、開発に携わった松本先生から連絡が入りました。

松本修一さん

「1ミリ、いや1センチは進みそうだ!」

急いで研究室に向かうと・・・。

松本先生と“新未来の自転車”

松本先生が見せてくれたのは「データ収集用ドラレコ自転車」。
電動アシスト自転車を製造する大手メーカーとドライブレコーダーを開発している大手メーカーの協力を得て去年末に完成したといいます。

自転車の前後に特殊なドライブレコーダーを装備
動画の左側が前方、右側が後方。その下のグラフが加速度の変化を表しています

「データ収集用ドラレコ自転車」の使い方は、実際に一般道を走りながら自転車ドライバーが危険だと思った瞬間にハンドル近くにあるボタンをプッシュ。

するとドラレコに搭載されたGPSを元に、ソフト上の地図にピンが立ちます。

作成者:文教大学情報学部 堀池拓実

危険と思った瞬間の前後20秒の映像や、加速度の推移といったデータを集積し、データベース化していきます。

作成者:文教大学情報学部 堀池拓実
松本修一さん(文教大学情報学部准教授)

「自動車の交通安全を考えるときは、速度超過や急停止などのデータを駆使するのですが、自転車の場合はそのようなデータがなく、エビデンスを元にした自転車の走行空間や交通安全が検討されてきませんでした。


野田さんの『ブレーキスキルを評価する』というアイデアは、自転車の交通安全に役立つデータ収集ツールの開発のきっかけになったのです」

さっそく2023年3月から大学の実験室の学生や職員が、ふだんの通学・通勤でこの自転車を利用しデータを集めていくことになりました。

自治体や企業も熱い視線!

左から茅ヶ崎市 都市政策課 交通計画担当 石射広嗣さんと守瀬暢彦さん

文教大学と地域連携協定を結んでいる地元自治体・神奈川県茅ヶ崎市も、この取り組みに大きな期待を寄せています。

「自転車のまち」を目指す茅ヶ崎市では、ルール・マナーの講習会や、交通安全の啓発活動を実施。さらに自転車にとって危険な道を可視化すべく、市民と一緒に「自転車に乗っていてヒヤリとした場所」を地図上に落とし込んで視覚化するような取り組みも行いましたが、近年の自転車事故の件数は200件弱で横ばいが続いています。

守瀬暢彦さん(茅ヶ崎市 都市政策課 交通計画担当)

「自転車事故がない街作りを目指していく上では客観的なデータが不可欠なのですが、今までの情報だけでは、人・道路・自動車・自転車の何が原因となったのかが特定できず、現状では注意喚起といったソフト面での対策がメインとなっています」

守瀬暢彦さん(茅ヶ崎市 都市政策課 交通計画担当)

「ドラレコ自転車から得られそうな情報を見ると、例えば自動車の幅寄せが危ない箇所や、自転車専用レーンを自動車が駐停車して塞いでいる箇所を映像とともに客観化できます。こうしたデータを参考にできれば今後の自転車走行環境の整備に大きく役立つと期待しています」

さらにドライブレコーダーを開発するメーカー担当者も、ビジネス面での期待を語ります。

左:松本修一さん 右:JVCケンウッド 榎本良視さん
榎本良視さん(JVCケンウッド )

「宅配便や出前などで自転車を用いる企業が増えてきています。そうした企業がドラレコ自転車を導入すれば企業内で危険な道路などを把握することができますし、何かトラブルがあったときの原因究明も簡単にできるようになりますよね」

松本修一さん(文教大学情報学部准教授)

「20年ほど前に国交省や経産省等が主導し自動車でデータを集めていこうというプロジェクトが立ち上がったときは、民間のタクシー会社にGPSなどの機材を付け、多くのデータを集めることができたそうです。今回の取り組みも関連省庁が応援してくれれば、もっと早く面白い結果が出せると思います」

マヂカルラブリー野田さんの大喜利で出したアイデアのタネに、多くの人たちが加わり、育ち続けるこのプロジェクト。

松本修一さん(文教大学情報学部准教授)

「僕も学者なので最初は“とんでもないアイデアだ”と驚きあきれましたが、そのアイデアをよくよく考えると本当に意味のあることが含まれていることに気付いて、学者魂に火がつきました。今後は自転車だけでなくキックボードも公道で運転がされ始めていきます。大きな事故を防ぐためにも、この研究をしっかり進めていきたいですね」

“未来の自転車”はこれからどうなるのか、続報に期待です!

この記事の執筆者

第2制作センター ディレクター
占部 稜

2011年入局仙台局を経て現所属。東日本大震災の取材経験から“課題解決型ジャーナリズム”を志すように。「あちこちのすずさん」「1ミリ革命」「プロジェクトエイリアン」などを担当。

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