2017.09.18

全体主義の起原

「全体主義」の説明と共に映るナチスの映像。これまでは、事実であると認識しながら、どこか外国の過去の出来事だと、距離を感じていました。それが今回、「全体主義の起原」を読みながらドイツで「全体主義」が生まれた背景を見ていくと、知れば知るほど、「全体主義」は近くにあることに、背筋が凍る思いでした。

・全体主義は、政治に無関心な「大衆」が生み出したものである。
・「大衆」は、先行きの見えない不安、誰かに進むべき道を示してほしいという願望を抱えていた。
・ヒエラルキーによってまとまる組織によって、求心力が保たれ、間違った方向にエスカレートしていく動きを止められなかった。

どれも見慣れたものばかり。まさに今の日本も同じなのでは?と思わずにいられませんでした。
 全体主義に陥らないようにするにはどのようにすれば良いのか。仲正先生によれば、その対抗策のひとつは「複数性」ということでした。
その言葉を聞いて私が思い出したのは、東京で開かれた、ある韓国のアイドルグループのコンサートでした。友人に誘われ、私はそのアイドルの顔も知らないまま出かけたのでした。広い会場を埋め尽くす女性ファン。10代の女の子たちはもちろん、私と同世代に見える人達、そしてなんと杖をついて歩く高齢のご婦人まで。
一時はテレビの地上波でもK-POPアイドルが出演したりや多くの韓流ドラマが放送されたりしていましたが、最近はめっきり減っているので、ファンも少なくなっているのかなと思っていたらとんでもない。なんだこの熱気は!友人に尋ねると「ファンの人達は、日韓関係の悪化とか関係ないんですよ。ただ、このグループが好きだから来ているんです」
アイドルグループのキレのあるダンスパフォーマンス、そして曲の合間は、流暢な日本語でファンに向かって話しかけ、会場のファンが沸き立つ様子を見て、私が感じたのは「WORLD PEACE!」だったのです。これぞ世界平和。自分でもそんなことを思うなんて意外でした。韓国のアイドルが日本で活動するように、日本のアイドルが中国などでも人気になっていますよね。会場で目を輝かせているファンの人達を見ながら、政府間の対話とは別にこういう交流が続くことが、複数性の確保につながるのではないか、そんな気がしたのでした。

 もうひとつ、全体主義に陥らない方法は、「全体主義の起原」の作者、ハンナ・アーレントのようになることでしょう。アーレントは、全体主義が持つ「わかりやすさの罠」にはまることなく、物事を単純化することへの警鐘を鳴らしています。しかしこれは、テレビ業界で働いている私にとって耳の痛い指摘です。難しく複雑な事柄を、一度番組を観るだけで理解できるように、わかりやすく、簡単にするのが私たちの仕事だからです。
さらにアーレントは、自分の著述が周囲の人に歓迎されるかどうかも気にしませんでした。「エルサレムのアイヒマン」を発表したあとには、批判を受けるだけでなく、古くからのユダヤ人の友人まで、彼女から離れてしまったのです。皆の期待にこたえるよう、都合よく書かなかったアーレント。
テレビでは命取りでしょう。あえてウケない内容、あえて視聴者が知りたくない情報を出すのですから。視聴率競争とは間逆の行動です。
批判にさらされ、友人まで失ったアーレントは、後悔していないのかと問われた時、こう答えたそうです。
「私は知的に誠実だっただけだ」

この強さ。誰もがアーレントになるのはかなり難しいと言わざるを得ませんが、アーレントにはなれなくても、私は取材者として、表現者として、ひとりの人間として、自分は誠実なのか、問うことを忘れずにいたいと思います。

  
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