2017.08.21

野火

大岡昇平の「野火」。中学生の頃から、夏休みの推薦図書のリストなどで、そのタイトルは目にしていました。人の肉を食べようとした右手を左手が止めた、というシーンだけは知っていて、それだけで、作品に描かれている過酷な状況が推し量れるために、読むべき作品だとは思いつつも、その扉を開けるのをためらったまま、時が過ぎていました。

それだけに、今回、「野火」を読むのは、心の準備が必要でした。深い闇が待っていると知りながら穴に飛び込む時のような覚悟で、本を開きました。

初めて「野火」を読んだ感想を一言で言えば、「すべてが想像以上」。戦争文学だと思っていた「野火」に、まさか「神」の存在が表されているとは。死んでしまった兵士の肉を食べるのみならず、肉を食べるために味方の日本軍兵士の命を奪うなんて。私の想像を遥かに超える世界がそこには描かれていました。

戦場で一体何が起こるのか。自分の体験と生き残りの兵士から集めた情報を元に、大岡昇平が戦争の事実を書き残した意義は、戦争から時がたてばたつほど、大きくなると思います。書かれた当初は多くの人が知っていた事実が、ほんの数十年で、知る人がほとんどいなくなります。それでも、指南役の島田雅彦さんもおっしゃっていたように、「ここに書かれているのだから、無かったことにはできない。」
高校生の時に野火を読んで衝撃を受けたという塚本晋也監督は、3年前に「野火」を映画化、グロテスクなまでにリアルに戦場を再現しました。映画を見ると、理屈ではなく、「戦争は決して起こしてはならない。大切な人をこんな目に合わせるのは絶対に絶対に嫌だ!」と思いますよ。そしてそう思うことは、理屈より揺るぎない力になり得ると思うのです。塚本監督は、「『野火』があったからこそ、この映画を作ることができたんです」とおっしゃっていました。大岡昇平が残してくれたものの大きさを感じずにはいられません。

私は「野火」を読むまでに長い時間をかけてしまいましたが、今は多くの皆さんに「野火」を知ってほしいと願っています。###

  
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