おもわく。
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 世界に蔓延する排外主義の波、絶えることのないテロや国際紛争、人間の欲望を駆り立て続けるグローバル経済……私たちは今、自分の意志だけでは動かしようのない「宿命」ともいうべき現実の中を生きています。そんな「宿命」に直面したとき、人はどう生きていけばよいのか? 今から200年近くも前、「宿命」に翻弄された人間たちの群像を描ききった一篇の作品が生み出されました。「ノートル=ダム・ド・パリ」。フランス最大の文豪とも称されるヴィクトル・ユゴー(1802- 1885)の傑作です。

 物語の舞台は15世紀末。ノートルダム大聖堂の司教補佐クロード・フロロは、前庭で踊る異邦の女エスメラルダに魅了され、自分が育て上げた孤児の鐘番カジモドにさらわせて我が物にしようとします。しかし王室親衛隊長に救われ一目ぼれするエスメラルダ。嫉妬に狂ったクロードはエスメラルダに濡れ衣を着せ破滅させようとします。エスメラルダの優しさに触れていつしか愛を抱くようになったカジモドは彼女をなんとか救い出そうとしますが、物語は終盤、破局的な結末を迎えるのです。

 五回の映画化を果たし、数多くの舞台やミュージカルなどに今も翻案され続けるほど、この作品が人々の心をとらえてやまないのはなぜか? フランス文学者の鹿島茂さんはその理由を、時代を超えて人間を貫く「根源的な葛藤」を描いているからだといいます。私たちは、登場人物の行為に自らの煩悶や葛藤を重ね合わせることで、自身の姿や運命を見つめさせられるのです。

 それだけではありません。こうした重いテーマを、マンガやアニメーションの原型ともいうべき魅力的なキャラクター造形、映画的ともいえるダイナミックな描写手法を駆使して生き生きと描き出すユゴーの物語には、他の近代小説とは異質の「神話的想像力」にあふれています。それ故にこそ、時代が更新されるたびに、新しい命が吹き込まれ甦ってくるのです。

 番組では、人間が決して避けることができない「根源的な葛藤」にスポットを当て、「ノートル=ダム・ド・パリ」という作品から、人間は宿命とどう向き合い、生きていけばよいのかを読み解いていきます。

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第1回 天才ユゴーの驚くべき「神話的小説」

【放送時間】
2018年2月5日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年2月7日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年2月7日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鹿島茂(明治大学教授) フランス文学研究者
【朗読】
石丸幹二(俳優)
【語り】
加藤有生子

「ノートル=ダム・ド・パリ」の面白さの一因は、キャラクターたちの圧倒的な魅力にある。元祖ストーカー男、クロード・フロロ司教補佐。醜い容貌の内に無垢なる魂をもつ鐘つき男、カジモド。少女性と妖艶さを併せ持つ異邦の女、エスメラルダ。そして圧倒的な民衆エネルギーを放つ「奇跡御殿のひとたち」。いずれも現代の漫画やアニメに出てきてもおかしくないような、輪郭の際立った魅力にあふれている。ユゴーはいかにしてこのようなキャラクターたちを設計しえたのか? 第一回は、このキャラクターたちにスポットを当て、神話的な魅力を放つ物語の秘密に迫っていく。

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第2回 根源的な葛藤を描く

【放送時間】
2018年2月12日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年2月14日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年2月14日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鹿島茂(明治大学教授) フランス文学研究者
【朗読】
石丸幹二(俳優)
【語り】
加藤有生子

「ノートル=ダム・ド・パリ」が今も読み継がれ映画や演劇に翻案され続けるのはなぜか? 鹿島茂さんは、その理由を、時代を超えて人間を貫く「根源的な葛藤」を描いているからだという。教義によって恋愛を禁じられた司教補佐の許されざる愛。強固な中世の秩序とそこからどうしてもはみ出してしまう人間の欲望。嫉妬が生み出す愛と憎しみの混在。どんな時代でも人間が直面してしまう葛藤が物語を駆動しているおかげで、誰が読んでも、その葛藤の中に自分自身の姿や運命をみてしまうのだ。第二回は、人間の中の「根源的な葛藤」がいかに作品の中に描かれているかを読み解く。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師: 鹿島茂
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第3回 モテない男の純愛は報われない

【放送時間】
2018年2月19日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年2月21日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年2月21日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鹿島茂(明治大学教授) フランス文学研究者
【朗読】
石丸幹二(俳優)
【語り】
加藤有生子

クロードの愛、カジモドの愛は、現代でいえば「フーテンの寅さん」の愛だという鹿島茂さん。彼らの愛は、純粋であればあるほど空回りし、決して報われることはない。そして、報われない愛は、あるいは狂気へ、あるいは絶望の底へ、人間を暴走させていく。愛は人を不幸にするだけなのか? それとも? 第三回は、「ノートル=ダム・ド・パリ」を「報われない愛の物語」として読み解き、私たち現代人にも通じる「愛のかたち」を探っていく。

島津有理子のゆりこ's EYEアニメ職人たちの凄技
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第4回 炸裂する映画的想像力

【放送時間】
2018年2月26日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2018年2月28日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2018年2月28日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鹿島茂(明治大学教授) フランス文学研究者
【朗読】
石丸幹二(俳優)
【語り】
加藤有生子

パリを俯瞰するようなパノラマ映像から一気に一個人へズームインしていくような視点の切り替え、生命力が漲るようなモブ(群集)シーン、大聖堂や彫像、鐘すらもキャラクターの一つとして立ち上げていく強靭な想像力。現代でいえば映画でしかなしえないような描写をたたみかけていくユゴー。彼が「幻視者」とも称されるゆえんだ。圧倒的な想像力で、光と闇、崇高なものとグロテスクなものを対置して、ユゴーが描き出そうとしたものは何か? それはユゴー自身が激動の時代の中で直面せざるを得なかった人間の「宿命」ともいうべきものだった。第四回は、彼の圧倒的な想像力の秘密を探るとともに、人間にとっての「宿命」の意味に迫っていく。

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○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
ノートル=ダム・ド・パリ 2018年2月
2018年1月25日発売
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こぼれ話。

唯一無二の解説

「『ノートル=ダム・ド・パリ』って、とてもやっかいな本なんだよね」

講師出演のオファーをした際の、鹿島茂さんの第一声です。まさに言い得て妙で、「ノートル=ダム・ド・パリ」は、本当にやっかいな名著でした。読み始めて100ページ以上もの間、全く主人公が出てこない。あるのはカオスのようなお祭りの描写ばかり。一体いつ本題が始まるんだろうと、いらいらしてきます。そして、物語がいよいよ本格的にスタートした後も、延々と、俯瞰したパリの風景が語られたり、建築に関する薀蓄が述べられたり……。いつまでたっても場面が展開しません。いったいこの作品をどう読めばよいのだろう? 読み始めた誰もがこの問題に突き当たり、挫折を余儀なくされることでしょう。

こんな作品だからこそ、鹿島さんにぜひ料理してもらいたい……それがプロデューサーとしての狙いでした。鹿島さんが解説するんだったら「レ・ミゼラブル」だろうと思った視聴者も多かったかもしれません。しかし、鹿島さんには、すでに「『レ・ミゼラブル』百六景」という卓抜な解説書がありますし、「レ・ミゼラブル」研究は世の中にごまんと溢れています。どうせなら、ほとんど類書が見当たらない「ノートル=ダム・ド・パリ」を鹿島流にさばいてもらい、唯一無二の解説本、解説番組がこの世に残せたら……というのが目論見でした。

目論見は、鹿島さんおかげで、見事に果たされました。「近代的小説」ではなく「神話的小説」として読むという鹿島さんの視点から浮かび上がった「ノートル=ダム・ド・パリ」という作品の実像は、意外にも、一気に現代につながってきます。200年近くも前の作品であるにもかかわらず、です。レヴィ=ストロースにならって、キャラクターを要素に分解することで浮き彫りになった「じゃんけん構造」からは、「元祖キャラ小説」という意外な側面が明らかになりました。クロード、カジモド、フェビュスらの愛の読み解きからは、「ストーカー」「オタク」「ホスト」という現代人の「愛のかたち」がくっきりと浮かび上がりました。もう、こうなると目が離せません。最後は、現代を代表するエンターテインメント「映画」を、先取りするどころか上回っていくような、ユゴーの凄まじい想像力まで明らかに。鹿島さんが指摘するとおり、ユゴーの作品は「超近代」といった方がよいのかもしれません。

ぜひ鹿島茂さんの解説をご覧になった後は、原典を読んでみることをお薦めします。今までにない形で「ノートル=ダム・ド・パリ」の世界が立体的に膨らんでくることでしょう。そして、もう一つお薦めなのは、「ノートル=ダム・ド・パリ」を携えて、舞台のパリを訪ねてみること。私自身も昨年「ノートル=ダム・ド・パリ」を片手に持ってパリを旅行してみました。意外にも、当時を彷彿とさせる建物や場所がそこここにあり、想像力をフル稼働させると、かつてのパリが脳内に立ち上がってきます。鹿島さんの「パリ五段活用」「パリ時間旅行」といった著作も絶好のガイドになってくれます。名著は、時として、今では失われてしまった世界に私たちを誘ってくれるタイムマシンになってくれるのです。

現在、選び抜かれた書評家たちの書評が無料で読める「ALL REVIEWS」というサイトを運営されている鹿島茂さん。その活動は「本への愛」に溢れています。「100分de名著」のスタッフ一同も、そんな「本への愛」に刺激を受けつつ、今後も古典の名著に少しでも多くの人たちが近づいてもらえるような番組に育てていきたいと決意を新たにしています。

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