おもわく。
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司馬遼太郎スペシャル

「ほかに類をみない豊かな多様性」「民衆の隅々まで行き渡った公の精神」「目先の利害にとらわれないリーダーたちの無私な高潔性」……今や失われようとしている、日本という国が元々もっていた美質。私たちが見過ごしてきた日本という国の豊かさ、日本人の精神性の深さを瑞々しい言葉で作品に描き出してきた作家・司馬遼太郎(1923-1996)。彼が亡くなってから2016年でちょうど20年になります。そこで「100分de名著」では、卓越した日本人論としても読み解ける司馬作品を通して、「日本とは何か?」や「歴史における人間の役割とは何か?」をあらためて見つめなおしたいと思います。
 司馬遼太郎が作家になる原点となったのは、学徒出陣で召集された戦争体験。当時22歳だった司馬は「なぜこんな馬鹿な戦争をする国に生まれたのだろう。昔の日本はもっとましだったに違いない」と考え、日本の歴史に目を向け始めます。32歳で作家デビューした司馬は、後に「22歳の自分へ手紙を書き送るようにして小説を書いた」と述懐しています。時あたかも日本が高度経済成長に邁進していた時期。司馬は見失われそうになっていた「日本人の精神性」や「風土の豊かさ」を歴史の中から掘り起こし、作品に書きとどめることで救い出そうとしたのです。
 しかし、司馬作品は単にかつての日本を礼賛しているだけではありません。司馬は類い希なる感性で、歴史資料の端々に潜む人々の声に耳をすませ、日本がある時期誤った方向へ進んでしまった理由もつきつめていきます。司馬作品は、歴史の大きな転換期にあって「日本がどのような方向へ舵を切っていったらよいのか」を考えるための大きなヒントをも私達に与えてくれるのです。
番組では磯田道史さん(静岡文化芸術大学教授)を指南役として招き、司馬遼太郎が追い求めた歴史観を分り易く解説。小説「国盗り物語」「花神」、エッセイ「『明治』という国家」「この国のかたち」等の作品に現代の視点から光を当てなおし、そこにこめられた【日本人論】や【日本文化論】【歴史から学ぶ生きる智恵】など、現代の私達にも通じるメッセージを読み解いていきます。

今回の朗読担当、中村蒼さんからのメッセージ

  • 今回は司馬遼太郎さんの作品を朗読させてもらいました。
    司馬さんがお亡くなりになられて20年。そんな節目に僕が朗読させてもらえるなんてとても光栄です。
    朗読なんですが、単語ひとつひとつ心を込めて読ませてもらいました。
    グッとくる文が沢山あって本当に沢山の方に観てもらいたいなと心からそう思います。

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第1回 「戦国」から読み解く変革力 ~「国盗り物語」を中心に~

【放送時間】
2016年3月2日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2016年3月9日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2016年3月9日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【講師】
磯田道史(静岡文化芸術大学教授)
…日本近世・近代史研究者。著書に「武士の家計簿」等。
【朗読】
中村蒼(俳優)
…NHKドラマ「本棚食堂」「洞窟おじさん」で主役を演じる。
【語り】
墨屋那津子

かつて日本という国は「ほかに類をみない豊かな多様性」をもっていた。地域ごとの独自性、独立性は、それぞれに多様な才能を育み、時代を大きく変える人材を輩出し続けた。それが最も際立った「戦国の世」を活写したのが「国盗り物語」だ。とりわけ後編では、織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、徳川家康という傑出した才能が活躍する。全ての人間を機能として冷徹に利用した合理主義者で、その冷徹さが故に我が身を滅ぼした信長。「よき夢を見させようぞ」が口癖でその人間くささが「人を動かす力」になった秀吉。徹頭徹尾「力の信者」で自分の死後にも狡猾にその権力を制度化した家康。磯田さんは、それぞれの人物との距離の置き方をみていくと、司馬の「日本人観」がみえていくという。第一回は、司馬の人となりを探るとともに、作品に描かれた戦国の英雄たちの姿から、司馬の「日本人観」や時代を動かす「変革力」を読み解いていく。

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第2回 「幕末」に学ぶリーダーの条件 ~「花神」を中心に~

【放送時間】
2016年3月9日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2016年3月16日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2016年3月16日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【講師】
磯田道史(静岡文化芸術大学教授)
…日本近世・近代史研究者。著書に「武士の家計簿」等。
【朗読】
中村蒼(俳優)
…NHKドラマ「本棚食堂」「洞窟おじさん」で主役を演じる。
【語り】
墨屋那津子

幕末は大村益次郎という傑出したリーダーを生み出した。蘭学にとりつかれやがて村の医師となる村田蔵六、後の大村益次郎は、桂小五郎に見いだされ長州藩の軍事部門を任されて数々の戦果をあげる。その後、時代から魅入られたように官軍の総司令官、そしてついには明治政府の兵部大輔にまでのぼりつめた。磯田さんは、大村益次郎の天才的なリーダーシップの源は、「徹底的な合理主義」と「自分を勘定にいれない客観性」にあるという。技術にも明るく、まるで人体から病を見つけるがごとく合理的に情勢を見つめぬいた眼と、自分を勘定にいれない徹底した客観性。いずれも時代の転換期に不可欠なリーダーの資質であり、今の日本に欠けているものだ。第二回は、小説「花神」に描かれた大村益次郎の生き方から、理想のリーダーの在り方を読み解いていく。

名著、げすとこらむ。指南役:岸見一郎 ○○○○
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第3回 「明治」という名の理想 ~「『明治』という国家」を中心に~

【放送時間】
2016年3月16日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2016年3月23日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2016年3月23日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【講師】
磯田道史(静岡文化芸術大学教授)
…日本近世・近代史研究者。著書に「武士の家計簿」等。
【朗読】
中村蒼(俳優)
…NHKドラマ「本棚食堂」「洞窟おじさん」で主役を演じる。
【語り】
墨屋那津子

司馬は、明治維新で短期間のうちに国民国家の土台を築いたことは世界にも稀な革命であったと「『明治』という国家」で述べる。これほどの偉業が成し遂げられたのは、欧米列強のアジア進出に「日本人が共有していた危機意識のおかげ」だった。明治は「透きとおった、格調の高い精神でささえられたリアリズム」の時代で、そこに生まれた「明治国家」は、江戸260年の精神遺産だったという。司馬は江戸と明治の2つの時代に、脈々と流れる精神の連続性を見たのだ。第三回は、江戸と明治をつなぐ司馬の独特な史観を読み解き、幕末から明治への新国家建設の時代の理想を浮き彫りにする。

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第4回 「鬼胎の時代」の謎 ~「この国のかたち」を中心に~

【放送時間】
2016年3月23日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2016年3月30日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2016年3月30日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
2016年3月30日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
2016年4月2日(土)午後3:25~3:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【講師】
磯田道史(静岡文化芸術大学教授)
…日本近世・近代史研究者。著書に「武士の家計簿」等。
【朗読】
中村蒼(俳優)
…NHKドラマ「本棚食堂」「洞窟おじさん」で主役を演じる。
【語り】
墨屋那津子

「この国のかたち」では、日露戦争以降「非連続の時代」が始まったと語られる。理想の国家建設を目指したはずの日本は、日比谷焼き討ち事件に象徴される肥大化し歪んだ大衆エネルギーを背景に、参謀本部が軍の最高指揮権である「統帥権」の独立という魔法の杖を利用することで、とめどない暴走を始める。それは国家が崩壊にいる破滅への道だった。司馬はこの時代を「鬼胎の時代」と名づけ、その正体を見定めるべく史料と執拗な対話を続ける。それは司馬が最後まで小説では描きえなかった最大の難問だった。第四回は、司馬の、明治末期から昭和初期にかけての「鬼胎の時代」との格闘を通して、歴史の大きな転換期にあって「日本がどのような方向へ舵を切っていったらよいのか」を学んでいく。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
司馬遼太郎スペシャル2016年3月
2016年2月25日発売
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こぼれ話。

響き合う「無私の精神」

上司や先輩のアドバイスをもらいつつ、司馬遼太郎没後20年を記念した「100分de司馬遼太郎スペシャル」の企画を練っていたときに、講師の候補として真っ先に頭をよぎったのが磯田道史さんの名前でした。しかし、旺盛な執筆活動に加え歴史番組の司会など八面六臂の活躍を続けている磯田さんが果たしてこの仕事を受けてくれるだろうか?と最初は不安でいっぱいでした。

実はこれに先立つこと、数ヶ月前、磯田さんの著書に大変深い感銘を受けていました。穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月……江戸時代に無私の生き方を貫いた、無名ともいえる人たちを発掘した評伝「無私の日本人」です。「穀田屋十三郎」の章が、このたび「殿、利息でござる!」というタイトルで映画化され5月に公開されるとのことでとても楽しみなのですが、この本の隅々に横溢する「無私の精神」というものが、司馬さんが描き続けた小説の登場人物たちと相通じるものがあるのではないかと直観しました。作家と歴史家という違いはあるけれど、この二人が、日本人が忘れてはならないものとして、歴史の中から掘り出そうとしたものには、大きな共通点があるのではないか、と思ったのです。

磯田さんをよく知る先輩プロデューサーを通じて紹介してもらい、半分断られるのを覚悟で、思い切って磯田さんに電話してみました。しかし、心配は杞憂でした。「司馬さんに関するお仕事なら、忙しいけどお引き受けします」との力強いお言葉。しかも、忙しい磯田さんに対してはかなり無茶な提案ともいえる、長編四冊を取り上げるアイデアにもその場で快諾くださり、次々に面白いアイデアを出してくださいました。「国盗り物語」「花神」「『明治』という国家」「この国のかたち」という四作で、戦国から昭和までを一気に駆け抜けるというアイデアは、こうして実現したのです。

番組制作を通じて強く感じたこと。磯田さんは、今活躍している歴史家の中でも群をぬいて司馬さんのDNAを色濃く受け継いでいる人ではないかということです。とりわけ、別のコラム「もっと司馬良太郎スペシャル」にも書かかせていただいた司馬さんの言葉「透きとおった、格調の高い精神でささえられたリアリズム」。この言葉は、磯田さんが描いてきた日本人たちの「無私の精神」と強く響き合っています。経済的な価値が至上とされ、ともすると「私利私欲」に目が曇らされがちな昨今、私たちが見失ってはいけない原点として、あらためて胸に刻んでいきたいと思います。

さて、今回のシリーズをもちまして、武内陶子アナウンサーが番組を卒業します。司馬さんが「二十一世紀に生きる君たちへ」で若者たちに伝えようとした、かけがえのない資質の一つ「共感力」。私にとって武内アナウンサーは、何よりもこの「共感力」に優れた人でした。難解な名著の言葉を、子育てという身近な事例と重ね合わせながら、等身大の言葉で私たちに引き寄せてくれた武内アナウンサー。ときに涙を浮かべながら、講師の言葉に深く共鳴していた姿が今も忘れられません。番組の要の一人でもあった武内アナウンサーと離れるのは身を引き裂かれる思いですが、新たな活躍の場での活躍を心より祈りたいと思います。武内アナウンサーと一緒に築いてきた「番組の歴史」、そして「共感力」を貴重な財産として、今後もよりよい番組を制作していく決意です。

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※司馬遼太郎の「遼」の字は、本来、「しんにょうの点がふたつ」です。

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