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もっと「人生の意味の心理学」もっと「人生の意味の心理学」

今回のキー・フレーズ

雨が降っていると仮定しよう。何ができるだろう。
傘を持っていったり、タクシーに乗れる、
でも雨と闘ったり、負かそうとしても無駄だ。
今は、あなたは雨と闘って時間を費やしている。

アドラー「人生の意味の心理学」より

自然現象である雨を傘やタクシーを使って避けることはできるけれど、人は、雨と闘って雨そのものを止めることはできません。これと同じように、人は、感情や力で他者を支配することはできません。そのことを端的に喩えて示したのがアドラーのこの文章です。

ですが、往々にして人は、他者を、力や感情で支配しようとしてしまいます。受験のために子どもに勉強させようとする母親、一方的に部下を叱りつけて自分のいうことを聞かせようとする上司、自分が注いでいるのと同じくらいの愛情を返してもらおうとする強要する恋人……等々、そのような事例は枚挙にいとまがありません。

こうした状況を、アドラー心理学では「課題の分離ができていない」という風に表現します。そして、「自分の課題」と「他者の課題」を明確に線引きし、分離することを説きます。その課題が誰の課題かを見分けるには、「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」を考えるとわかりやすいですね。つまり上記の受験勉強の例でいえば、「勉強しなかったら困るのは誰なのか」「勉強しなかった責任を最終的に引き受けるのは誰なのか」を考えてみれば、答えは一目瞭然です。勉強は、親ではなく子どもの課題なのです。勉強をしないで、進学や就職のときに困るとしても、親が困るわけではありません。困るのは子どもなのです。

対人関係のトラブルのほとんどは、こうした課題をごっちゃにして、他者の課題に土足で踏み込むこと、他者から自分の課題に土足で踏み込まれることから生じるとアドラーはいいます。ですから、まず「自分の課題」と「他者の課題」を明確に分離し、それが「他者の課題」であるとわかったら、その課題を自分が抱えようとするのはやめることが重要だといいます。その上でどうするか?

上記の受験勉強の例でいえば、「『勉強すること』が子ども本人の課題であることを伝えた上で、相手が望むならいつでもそれを手伝う意志があることを伝える」という態度を取り、ひたすら見守ること。消極的だと思われる人もいるかもしれませんが、無理に勉強させようとして土足で相手の課題に踏み込んでいたときには全く勉強しなかった子どもがむしろ積極的に勉強を始める……というケースがよく見られるといいます。逆に、ガミガミいわれることが全くなくなって、「このままほおっておいて勉強しなければ、その結果を全部自分が引き受けなければならない」という「自覚」や「不安」が本人の中に育つのかもしれません。

結局は、自分自身を変えるのは、自分しかいないということだと思います。誰かにいわれたところで、本人が変わろうと思わなければ、変わることはできません。「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」という喩えを、今回の講師、岸見一郎先生をよくされます。相手が水を呑むかどうかは相手の課題であって、自分の課題ではありません。そのことをきちんと自覚することが大事です。

そして、岸見先生は、この「課題の分離」は、あくまで「入り口」だといいます。こんがらがってしまった対人関係を解きほぐすための処方箋。そんな風に意識して、対人関係に悩んだときのために常に胸の中に置いておくことが大切だなあと、強く感じました。

アニメ職人たちの凄技

【第10回】
まず最初にスポットを当てるのは、
大谷たらふ

プロフィール

大谷たらふ
1977年生まれ。 独学で絵を学んだ後、特撮プロダクションや映像制作会社での勤務を経て、 2003年から音楽家、プログラマー、デザイナーらと共に「6nin」というチームで活動。 「6nin」の作品は国内外の映画祭をはじめ、パリでのワークショップなど各地で上映。 NHKでは、「フランス語会話」の2005年度オープニングアニメーションなどを「6nin」で担当した。
「6nin」休止後、2008年から個人での活動を開始。 自主制作作品をシュニット映画祭、ハンズボン映像展、3DCG AWARDS 2010など各地で上映。 現在は、NHK Eテレ「先人たちの底力 知恵泉」番組内イラスト/アニメーション NHK 「おかあさんといっしょ」4月の歌「じゃくじゃくあまのじゃく」アニメーションなどを担当している。 最近の趣味は田んぼに行くこと。

大谷たらふさんに、「人生の意味の心理学」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

アドラーの過去を描くアニメでは、 過去に悩まされながらも、人生を変えてきたアドラー自身の成長物語があったことを知り、 その悩みや葛藤をしっかり線に込めたいと思いました。 悩み線(正しい線を探るための下書きの線)を消さずに、 むしろその線を強調して絵を作っていったことがこだわりのポイントです。

2話の心理学のお話を表現する場面では 難しくならないようなシンプルなイメージを、 でもそれを退屈させずに面白くしようと意識しました。 「階段を上っていくだけ」という単調なイメージを、 登場するアドラーのキーワードに沿って視点や世界観を転調させていき、 シンプルな中に遊びを詰め込んだのがこだわりの点です。

心理学初心者ではじめてアドラーに触れ、学びながら作業をする1ヶ月でした。 自然にアニメの中に私の劣等感も滲み出ていると思うので、 合わせて楽しんでいただければ幸いです。
これからも「コンプレックスを描かせるなら大谷だ」と言ってもらえるよう精進していきます。 ありがとうございました。

ぜひ大谷たらふさんの凄技にご注目ください!

【第11回】
続いてスポットを当てるのは、
ケシュ♯203

プロフィール

ケシュ#203(ケシュルームニーマルサン)
仲井陽(1979年、石川県生まれ)と仲井希代子(1982年、東京都生まれ)による映像制作ユニット。早稲田大学卒業後、演劇活動を経て2005年に結成。NHK Eテレ『グレーテルのかまど』などの番組でアニメーションを手がける。手描きと切り絵を合わせたようなタッチで、アクションから叙情まで物語性の高い演出を得意とする。100分de名著のアニメを番組立ち上げより担当。 仲井希代子が絵を描き、それを仲井陽がPCで動かすというスタイルで制作し、ともに演出、画コンテを手がける。また仲井陽はラジオドラマの脚本執筆(ex.NHK FMシアター)も手掛け、奇妙で不可思議な町「田丁町(たひのとちょう)」を舞台とした連作短編演劇群『タヒノトシーケンス』を立ち上げるなど、活動は多岐に渡る。

アドラー心理学は世間や他者を気にしがちな日本人にとって示唆に富み、知れば知るほど囚われていた自分の常識や概念をひっくり返すような印象を受けます。
今回のアニメは、観ている方が「あれは自分だ」と自分自身のストーリーを作って解釈してもらえるよう、抽象的で記号化されたキャラクターにしようと考えました。

シンプルなラインのタッチに加え、色数を絞ることでキャラクターの気分を表し、動きの面でも図形が弾んだり、キャラクターがコミカルな仕草をしたり、伝わりやすくなるようメリハリをつけました。

また、肥大化する自意識をキャラクターが巨大になることで表したり、抗えない感情の雨を涙雨で表したり、比喩を具体的に見せることで、要点が際立つよう尽力しました。

直感的に意味が伝わる、そんなアニメーションになるよう心がけています。

ぜひケシュ♯203の凄技にご注目ください!

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