おもわく。
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ダーウィン「種の起源」

「自然淘汰により生物は進化する」という画期的な理論を、粘り強い観察と精緻な論理の積み重ねで築き上げた「種の起源」。著者チャールズ・ダーウィンは、この著作で既存の生命観を一変させました。自然観察や博物館見学などの機会が多くなる夏休み、科学や発見の面白さに満ち、自然を巨視的にみることを教えてくれる名著「種の起源」を取り上げます。
19世紀を代表する博物学者ダーウィンは、軍艦ビーグル号での世界一周航海の途上、各地で珍しい生物相をつぶさに観察する機会を得ました。帰国後、集めた標本を研究する中で「神が万物を創造した」という当時の世界観ではどうしても説明できない事実につきあたります。「生物が長い時間をかけて徐々に進化してきた」という前提に立てば、さまざまな現象がうまく説明できると考えたダーウィンは、20年かけてこつこつと秘密のノートに自分の考えをまとめ続けました。その集大成が「種の起源」です。
「種の起源」は現代生物学の基礎理論の一つともいえる「進化論」を打ち立てただけではありません。ダーウィンが「種の起源」で打ち出した生命観から自然をみると、全ての生物は「生命の樹」といわれる一つの巨大な連鎖でつながっており、人間もその一部にすぎません。そこからは、人間には他の生物を意のままに操る権利などはなく、互いに尊重し共存していかなければならない、というダーウィンのメッセージがみえてきます。
番組では、ダーウィンが「種の起源」によって解き明かした自然のあり方を解説しながら、【生き物たちの驚異】【生命の素晴らしさ】【科学的な発見の面白さ】などを考えていきます。

声優・水島裕さんからのメッセージ

  • はじめまして。今回、ダーウィンの声を担当している水島裕です。
    「ダーウィンの声」を担当すると聞いて「え~、あのヒゲもじゃのおじいさん?」と思い、少したじろいたのですが、彼が執筆したのは、およそ30代~50代だそうで、若い気持ちで演じる事が出来ました。とは言え、幾度かは「あの、ヒゲもじゃのおじいさん時代」も出てくるので、その振り幅の大きさも楽しめました。今回は、ダーウィンという実在の人物なので、一字一句、資料通りに、でも、体温を感じてもらえるように演じたつもりです。
    どうか、あなたにも楽しんでもらえますように。

6月22日(月)〜25日(木)
午前11:30〜11:54
Eテレ・サブチャンネルで一挙アンコール放送!


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第1回 「種」とは何か?

【放送時間】
2015年8月5日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年8月12日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年8月12日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
…行動生態学者・進化生物学者。ダーウィンや進化論に関する著書多数。
【ダーウィンの声】
水島裕(声優)
…代表作「一球さん」真田一球役、「銀河英雄伝説」ナイトハルト・ミュラー役。
【ナレーション】
墨屋那津子

生物の分類をくっきりと分ける「種」は、神が天地創世の際に創造したものであり、その創造以来、一切変化していないというのが19世紀当時のキリスト教的な世界観だった。だがその世界観では、同一の地層から「今は絶滅した生物の化石」と「現在もみられる生物の化石」が一緒に見つかるという事実がどうしても説明できない。ダーウィンは、人間が飼育栽培する動植物が、人為的な選択によって世代を追うごとに変異を累積し、同じ「種」とは思えないような変化を遂げていく事実に注目する。同じようなことが自然界でも起こっているのではないか? そうだとすると、「種」とは人間が便宜的に作った概念にすぎないのではないか? ダーウィンの疑問はやがて「進化論」という巨大な理論へと向かっていく。第一回は、ダーウィンが既存の世界観にどう挑んでいったかを明らかにしながら、「種の起源」で説かれる進化論の発想の原点に迫っていく。

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第2回 進化の原動力を解き明かす

【放送時間】
2015年8月12日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年8月19日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年8月19日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
…行動生態学者・進化生物学者。ダーウィンや進化論に関する著書多数。
【ダーウィンの声】
水島裕(声優)
…代表作「一球さん」真田一球役、「銀河英雄伝説」ナイトハルト・ミュラー役。
【ナレーション】
墨屋那津子

同じ種の生物が世代交代を経るごとに変異を累積し、やがて当初とは大きく異なった種へと変貌していく「進化」。自然界でも飼育栽培と全く同じ現象が生じると考えたダーウィンは「そのような変化を推し進めていく原動力とは何か?」を解き明かす。これまで観察してきた事実をつきあわせながら、その原動力を「生存競争」「自然淘汰」といった概念を使って見事に説明したのである。生物の進化は、生物同士が同一環境でそれぞれに必要な資源を求めて熾烈な競争を行った結果、たまたまその環境に適した変異をもった生物だけが子孫を残すことができるために、結果として起こる現象だというのだ。そこには優劣の差もなければ目的もない。第二回は、「進化論」の基本概念をわかりやすく解説することで、生命の不思議さや驚異、そのあり方を科学的に解明することの意味を考えていく。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:長谷川眞理子 生き物の多様性こそすばらしい
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第3回 「不都合な真実」から目をそらさない

【放送時間】
2015年8月19日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年8月26日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年8月26日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
…行動生態学者・進化生物学者。ダーウィンや進化論に関する著書多数。
【ダーウィンの声】
水島裕(声優)
…代表作「一球さん」真田一球役、「銀河英雄伝説」ナイトハルト・ミュラー役。
【ナレーション】
墨屋那津子

ダーウィンは「種の起源」で単に「進化論」という自説を提示しただけではない。「考えられる限りの反論」や「進化論にとって一見説明できないような不都合なデータ」を一つ一つ検証し、自らの理論を徹底的にテストしている。「進化の途上にある中間的な種やその化石が発見されないのはなぜか?」「眼のような精緻な構造が果たして進化だけで生まれるのか?」「世界中で同じ種が同時多発的に生まれるのはなぜか?」 難問ともいえる反論に対して、ダーウィンの科学的思考は、自説を応用することで見事に答えていく。第三回は、反論に対するダーウィンの回答をつぶさにみていくことで、科学的思考の面白さ、大切さを学んでいく。

もっと「日本の面影」
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第4回 進化論の「今」と「未来」

【放送時間】
2015年8月26日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年9月2日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年9月2日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
 
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
…行動生態学者・進化生物学者。ダーウィンや進化論に関する著書多数。
【ダーウィンの声】
水島裕(声優)
…代表作「一球さん」真田一球役、「銀河英雄伝説」ナイトハルト・ミュラー役。
【ナレーション】
墨屋那津子

「種の起源」の中でダーウィンは、一つの巨大な生命観を提示する。全ての生物は「生命の樹」といわれる一つの巨大な連鎖でつながっており、人間もその一部にすぎないと説く。人間には他の生物を意のままに操る権利などはなく、互いに尊重し共存していかなければならないというのがダーウィンのメッセージだった。そして「種の起源」以降、ダーウィンは、その研究の対象を人間へと広げていく。それは現代の人間観にも大きな影響を与えている。一方で、「進化論」は「人種差別」「強者の論理」などを肯定するイデオロギーだという誤解も絶えない。果たして「進化論」が生み出した人間観とは何だったのか? 第四回は、「進化論」にまつわる数々の誤解を解くとともに、現代の人間観にとって「進化論」がどのような意味をもっているかを解き明かしていく。

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「種の起源」2015年8月
2015年7月25日発売
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こぼれ話。


「皆さん、誤解されているけど、『退化』だって『進化』なんですよ」

今回、講師を担当してくださった長谷川眞理子先生に最初にお話をうかがった際に、耳の奥に残った言葉でした。

「進化論」ってなんだか古臭い…というイメージってありますよね。さらには、スタッフでアイデアをもむ会議でも、「ダーウィンの進化論って『人種差別』『強者の論理』などを肯定するイデオロギーなんじゃないですか?」という意見が出されるくらい。ダーウィンくらい未だに大きな誤解にさらされている人もいないかもしれません。

ところが、長谷川先生への取材で、あっという間にこのような誤解がほどけていきました。それを象徴するのが「『退化』だって『進化』なんですよ」という言葉でした。

たとえば、「種の起源」にはこんな事例が出てきます。マデイラ島に生息する甲虫の多くは羽が退化して飛べません。せっかく進化の過程で手に入れた飛ぶ能力をなぜこの甲虫たちは失ってしまったのか? マデイラ島は孤島で吹きさらし状態にあるため、空を飛ぶと風に流され海に落ちて死んでしまいます。最初は、飛べる甲虫、突然変異等によってたまたま飛べる能力がない甲虫など、いろいろなタイプが共存していたのですが、長い年月の中で、飛べる甲虫の多くは海に落ちてしまうケースが多かったため、飛べない方の甲虫だけが子孫を残すことになったのです。それが繰り返されることで変異が蓄積し、マデイラ島の甲虫の多くが飛べない甲虫になったのでした。

環境に直接影響を受けて羽が退化したわけでもなく、使用しないから退化したわけでもありません。最初にたまたま生まれた個体差(飛べないという変異)が、「自然」に選ばれて、世代交代を繰り返す中でその個体差が蓄積し、新しい種ともいえるものが生まれたのです。

このように、生き物には、無限といってもいいほどの自然適応のやり方があるのです。大きいもの小さいもの、速いもの遅いもの、強いもの弱いもの、獲得した器官を失ったもの不必要な器官をもってしまったもの……自然界にはあらゆる形質をもつ生物が多様に存在しています。「強いもの」が生き残るのではなく、たまたま「適応したもの」が生き残るだけです。こうした状況は「弱肉強食」といった単純な図式では決してとらえられないのです(でも人間って、どうしても事を単純化してとらえようとしてしまうんですよね)。

悪名高いナチスの「優生主義」は、人為的に劣っていると判断された遺伝子を駆逐しようとしました。しかし、これはダーウィンの理論によればとんでもないことです。「優秀な遺伝子」なんて存在しないんです。あるのは、「ある環境にあって、たまたま有効であるかもしれない遺伝子」だけ。そして、常に変転していく自然環境の中では、生き物や「種」が豊かに、そして末長く存続していくためには、できる限り多様なパターンの形質や性質を抱えておく方が有利なのです。そのことは、番組でもご紹介した、特定の品種のジャガイモだけしか栽培しなくなったアイルランドにおいて、ある一つの病気の発生でジャガイモが壊滅し、100万人の国民が餓死したという事例をみてもよくわかるでしょう。

つまり、ダーウィンの進化論は、「優生主義」や「強者の論理」「弱者の否定」「人種差別」「障がい者差別」「性的マイノリティへの差別」等々に組みするどころか、それらを真っ向から否定します。それを「人間の倫理」の立場からではなく、「科学」の立場から見事に論証したところが、ダーウィンの素晴らしさだと思います。

ダーウィンほど、生き物の多様性や人間の平等性を愛した人は、19世紀の世の中にはいなかったでしょう。それは、ダーウィンが、身分や人種で人を判断せず、あらゆる人に平等に接したという記録からもわかります。

最近、ともすると「全てを一つの色に塗りつぶさないと気がすまない」、「異分子を排除しよう」、「自分と異なるものは劣っていると考える純血主義」……等々といった風潮が見受けられます。自分自身も陥りがちなこうした偏見や差別感情を、きちんと相対化してくれる視点をダーウィンは与えてくれます。

生命の多様性を何よりも尊重したダーウィン。私たちは、科学者としてのダーウィンだけでなく、人間ダーウィンにももっと学ばなければならないと思います。そして、そんな彼が到達した「人間観」、「生命観」にも学び続けなければと痛感しています。

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